【93】埋められた真実
Data:2135/10/23
Time:00:00(UTC+2)
Location:Egypt-Libya border
Operation Name:LAMMTARRA EXERCISE
エジプトとリビアの国境付近は極一部に小都市が点在することを除けば、基本的には無人の砂漠地帯がどこまでも広がっている。
そんな何も無さそうな砂漠のど真ん中にスターライガの母艦スカーレット・ワルキューレは停泊し、本国から持って来た投光器や重機を砂上に展開。
即席の工事現場を作りサハラ砂漠の砂を掘削する作業を開始していた。
夜間作業としたのは暑さ及び直射日光による体力消耗を抑えるための配慮であった。
◆
「こりゃ大変だな……エリアを絞り込めているとはいえ、砂場遊びにしては規模がデカ過ぎる」
投光器に照らされながら油圧ショベルを操作しているこの作業員は、重機運転のために雇われたオペレーターではない。
彼はれっきとしたスカーレット・ワルキューレの正規乗組員だが、たまたま有効な運転免許を持っていたので今回の作業に駆り出されていた。
これに限らずスターライガチームは資格取得者を中途採用するケースが比較的多く、緊急時には本来の部署とは違う仕事に回ってもらうことで人的リソースの効率化を図っている。
「チィッ……くそッ! アフリカの砂漠ってのはこんなに足を取られるのか!」
一方、戦闘行為に特化された部署であるMF部隊に所属するリュンクスは砂漠に悪戦苦闘していた。
彼女の愛機スタークヘルキャットは重量級MFに分類されるが、それでも小型油圧ショベルよりは軽い。
にもかかわらずショベルと異なり砂に足を取られているのは、人型の二本脚という形式ゆえ接地面積が狭く、地面に掛かる圧力を逃がせないためだ。
逆に油圧ショベルや戦車などに用いられる無限軌道(クローラー)は接地面積を広めることで圧力を分散しているため、砂漠や雪上といった不整地でも足回りが沈みにくいのである。
「おい、大丈夫か? 接地圧を合わせていてそれなのか?」
「そりゃ、あんたのテレイアは中量級だから沈まないだろうけどさ……」
ちょっと作業どころではない同僚に乗機の右手を差し伸べるパルトネルと、それに対してツッコミを入れるアレニエ。
前者の機体テレイア・ヘラは中量級の範疇に収まるMFであり、セッティングを変更することで砂上でも何とか動けていた。
アレニエのヴェノムアラーネアは明らかにしんどそうだったが……。
◆
「遊んでいる暇は無いぞ! 第1フェイズが早く終わればその時間を戦闘部隊に回すことができるんだ!」
傍から見るとふざけているようにしか見えなかったのか、別の場所で作業していたシズハは愛機ミカドアゲハに装備されたサーチライトで傭兵トリオの機体を照らし出す。
彼女の機体は作業の邪魔になる大型ウィングバインダーを取り外し、油圧ショベルのバケットを流用して製作された即席のMF用シャベルを握り締めていた。
シズハの言う通り作業時間を見積もりやすい第1フェイズで巻き進行ができれば、戦闘が発生する可能性がある第2フェイズ以降で余裕が生まれるかもしれない。
「ワルキューレCICより作業中のMF部隊各機、レーダーで小型航空機らしき反応を捕捉した」
しかし、ここで想定外の問題が発生する。
停泊した状態で対空警戒を行っていたスカーレット・ワルキューレのレーダーが所属不明機を捉えたのだ。
レーダー管制官からの報告でそれを確認したミッコ艦長は無線でMF部隊に注意を促す。
「航空機……無人偵察機だよ……!」
「エジプト人共め、夜間作業を覗き見とはイイ趣味しやがって……!」
小型航空機――無人偵察機はかなり近く且つ低空を飛行しているのか、地上で作業中のカルディアとアンドラもコックピットからその機影を視認していた。
肉眼で姿をハッキリ捉えることはできずとも、CIC(戦闘指揮所)からの情報と編隊灯の配置で機体形状やサイズ感はある程度分かる。
「攻撃は禁止。繰り返す、UAV(無人機)に対する攻撃は禁じる」
普段なら容赦無く警告射撃を行うところだが、今回の作戦は政治的に非常にデリケートな地域で実施されている。
外交問題への発展を憂慮したミッコはMF部隊全機に対しあらゆる攻撃行為の禁止を徹底させる。
「CIC、UAVの機体照合はできるか?」
「それが……データベースには完全一致する機種はありません」
現場に展開するMF部隊の前線指揮を執るサニーズはエジプト軍所属と思われるUAVの特定を求めるが、メインオペレーターのキョウカの返答は少し曖昧であった。
「父さん、1~2年前にエジプトが公開した"国産無人偵察機"かもしれない」
その通信に航空分野に関して豊富な知識を持つロサノヴァが割り込み、父サニーズの疑問に答えるように自らの見解を述べる。
「(もっとも、エジプトが短期間で実用レベルのUAVを開発できるとは思えないけどな)」
ただし、ロサノヴァ自身としては"エジプトのUAV"に懐疑的な見方を示していた。
◆
一方その頃、こちらはスカーレット・ワルキューレのMF格納庫内にある搭乗員待機所――。
「……zzz……」
「(出撃前なのに普通に寝てる……見かけによらずタフな人だわ)」
そこのソファに横たわり仮眠をとるライガの姿を見たクローネは精神力の強さにむしろ感心していた。
一般的にオリエント人男性は大人しく繊細な気性が多いと云われているが、ライガにはその傾向はほとんど見られなかった。
「――そろそろ時間か?」
とはいえ、本当は寝ているフリのだけで起きていたのだろうか。
次の瞬間、ライガはパッと目を開けてクローネに現在時刻を尋ねる。
寝起き直後のわりには随分と受け答えがハッキリしている。
「え、あ……はい! 人工的な巨大構造物とその出入口を発見し、現在扉を開ける方法を検討しているそうです」
熟睡していると思い込んでいたクローネは突然話し掛けられたことに驚きつつも、現場の状況を伝えて出撃準備に入るよう促す。
「予想よりも早く出入口を見つけられたな。これでタイムリミットを越えたら俺たち戦闘部隊の責任だぜ」
「ええ……全力を以って任務に当たります」
それを聞いたライガはゆっくりとソファから起き上がり、全体的にピリピリしていた先日までとは打って変わった笑顔でクローネの肩をポンッと叩く。
「他の3人はどうした?」
「既に機体に乗り込み最終チェックを進めています。どうせならライガさんを起こして欲しかったんですけどね」
自分たちしかいない待機所を見回したライガの問い掛けに肩を竦めながら答えるクローネ。
「あの3人――というかルナール先輩は俺が勝手に起きることは知っているからな」
もっとも、ライガたちと共に戦闘部隊を構成する3人――ルナール率いるε小隊の面々はライガとは非常に長い付き合いであり、彼が寝過ごすことは絶対に無いと確信しているから放置したのだろう。
「あまり緊張するなよ。慣れない閉所での作戦行動になるが、お前なら大丈夫だ」
様々なロケーションで戦ってきたライガとは異なり、クローネには閉所――例えばトンネル内や地下空間といった場所での実戦経験は無い。
MFドライバーとしてはまだ若い彼女にとっては難しい戦いになるかもしれないが、その才能を高く評価しているライガは"案ずるな"と部下の背中を押すのだった。
【編隊灯】
軍用機(MFや回転翼機なども含む)に装備されている補助的な航空灯。
民間機と共通の高光度航空灯は軍事行動中は消灯が認められているため、その代わりに青緑色のLEDライトを常時点灯させることで編隊飛行中の位置関係把握などを助けている。
編隊灯はある程度接近しなければ分からない程度の光度に抑えられており、戦闘中の隠密性に対する配慮も為されている。




