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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 2-3】The Star Lighting

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【87】砂漠に咲く

 部下の尊い自己犠牲により離脱の時間を稼げたノイはレオポール・セダール・サンゴール国際空港に西側に広がる市街地へ移動。


街中を通過することで上空から追撃してくるスターライガチームに攻撃を躊躇ためらわせつつ、同部隊の母艦スカーレット・ワルキューレに接近する算段であった。


もし、肉薄攻撃が可能な距離まで近付けたらその時は……。


「(悪いな、ダカールの民よ……君たちが築き上げた町並み、使わせてもらうぞ)」


今のダカールの市街地は元々あった町並みを残しつつ、旧ルナサリアンが持ち込んだ最新の土木建設技術により近代化されたものだ。


ノイたちが進駐してきた当初は世紀末のような様相を呈していたが、道路の再舗装やインフラ整備によりダカールは息を吹き返した。


その工事の際にメインの労働力として活躍したのがダカールに暮らす現地住民たちだった。


彼らは異星からの侵略者が提示したビジョンに共感し、それを実現するため積極的に協力を申し出てくれたのだ。


「(私はこの街の地形は知り尽くしている。さあ、空から付いて来られるか見せてみろ……蒼い惑星ほしの勇者!)」


ノイは旧ルナサリアンによるアフリカ占領政策に関わり、軍人の観点からダカール再建の都市計画にも積極的に提案を出していた人物である。


空中から見て死角になりやすい場所はほぼ全て頭に叩き込んでいた。


不可視の砂色の"オーラ"を纏った陸戦改造型ツクヨミは一気に速度を上げ、入り組んだ市街地をホバー推進で流れるように駆け抜ける。


「(こいつ、市街地を盾にするつもりか! こっちが地球人なのを知った上でふざけた真似を……!)」


一方、彼女の目論見通りライガのパルトナ・メガミRM(決戦仕様)は明らかに攻撃を躊躇ためらっていた。


機動力を活かせば接近自体は容易だが、そこから格闘戦に持ち込む魂胆はおそらく見抜かれる。


かと言って彼が精密射撃を得意としていることも既に広く知られており、その対策の一つが遮蔽物が多いフィールドへの誘い込みなのだろう。


「(ならば、開けた場所を通過するタイミングを狙い撃つまでだ!)」


少しだけ眼下の市街地に目線を移したライガは開けている場所を瞬時に確認する。


砂色のサキモリが地上からスカーレット・ワルキューレへ肉薄するためには、交差点やラウンドアバウトを抜ける必要がありそうだ。


……数少ない攻撃チャンスはそこにあった。



「……ファイア!」


装備側の改良により追加された機構によって2丁の専用長銃身レーザーライフルを連結させ、長射程精密射撃モードによるスナイプを繰り出すライガのパルトナ。


この形態は連射速度や取り回しと引き換えに攻撃力が上昇するため、機動兵器に命中すれば一撃で大破させられるが……。


「ッ……!」


しかし、狙撃をあらかじめ警戒していたノイのツクヨミは横方向への急制動で蒼い光線を回避。


それに加えて背部ハードポイントに懸架している重火器を後方に向けて発射することで再攻撃の妨害を試みる。


「くそッ! そっちは遠慮無しに攻撃し放題ってわけかよ!」


遮蔽物が存在しない空中への攻撃に遠慮や配慮は必要無い。


一方的に反撃を受けるカタチとなったライガは止むを得ず回避運動に切り替える。


彼に回避や防御を強要するのは相当の腕前と言えた。


「(また街路に逃げ込まれたか……全く、残党軍のくせに厄介な奴め)」


撃ち尽くした兵装をパージし身軽になった砂色のサキモリを上空から追跡しつつライガは唸る。


正直なところ、僻地のルナサリアン残党にこれほどの実力者がいるとは想定していなかったのだ。


「(だが、奴は特攻の直前に必ず高度を上げるはず。その瞬間は外さないぜ……!)」


もっとも、予定外の強敵に出くわしても彼は全く動じていない。


意識的にスイッチを入れることで闘争心を高めた白と蒼のMFは不可視の蒼い"オーラ"――並のエースドライバーとは全く異なる、祖国オリエント連邦の厳しい冬のように冷たくおぞましいエフェクトに包まれていく。


「(さっきの精密射撃は危なかった……! 奴ほどの実力者ならば、次は修正して確実に当ててくるはずだ)」


その強大なオーラをエースとして本能的に感じ取ったのだろうか。


冷静な分析及び操縦とは裏腹にノイはこれまでに無いほどの冷や汗を流していた。


一瞬でも後方へ意識を向けると背筋に真冬のような寒気がはしる。


「(こちらは空中での運動性は低い。そこを狙われたら回避はできないな……!)」


敵戦艦に有効な攻撃を仕掛けるためには上昇して甲板よりも高い位置まで上がらなければならない。


当然、それは強烈な対空砲火に身を晒して敵機にチャンスを与える危険性を意味している。


「(……敵艦の腹を抜けて後方に回り込み、推進装置を破壊するしかない)」


自分をしつこく追撃してくる白と蒼のMFを含めると、スターライガチームの母艦の直掩機は計4機。


直掩のうち1機は今回前線には出てきていないスターライガのダブルエースの片割れのはずだ。


性能で上回る敵機を4対1で相手取ることは無謀なため、ノイは敵艦のウィークポイントに対する直接攻撃を狙っていた。



「(この風……この肌触りこそ戦争か……)」


サニーズ・コンチェルト――。


スターライガチームにおいてライガと双璧を成すダブルエースの一人。


彼女は運動性に特化した軽格闘型MF"SNCR-DV9900+GF-03B シルフシュヴァリエBST-Ⅱ"を母艦の艦首に立たせ、戦場の風を感じながら戦局を静観していた。


最高速度が低くペイロードも少ないシルフシュヴァリエは局地戦以外の用途には不向きなため、本作戦では仲間たちの帰る場所を守る任務に就いていたのだ。


「敵機が単独で高速接近中! γ(ガンマ)小隊は迎撃態勢に移れ!」


「こちらもレーダーで捉えている! シルフィードとスティーリアは前進して頭を押さえろ!」


CIC(戦闘指揮所)のミッコ艦長から直接指示を受けたサニーズは愛機に接続されていたアンビリカルケーブルを切り離し戦闘態勢へ移行。


それと同時に僚機たち――"SNCR-TA152 ストライクシルフィード"と"CR-GPX/Y オルタスティーリア"を先行させて壁を作ることを狙う。


長射程射撃武装を持つ僚機に先制攻撃を任せた方が効率が良いからだ。


「敵機はかなり速そうだぜ。その二人に押さえさせるのは大変かもしれない」

「貴様が手間取るほどの相手だろう? ならば、少しばかり頭を使う必要があるな」


くだんの敵機の追撃を続けている戦友ライガからの指摘に淡々とした答えを返すサニーズ。


「元より私はそのつもりだ。おそらく、垂直方向への機動力が低い陸戦型の敵機はワルキューレの後方に回り込んでくる」


冷静沈着な受け答えと分析能力はさすが元医学生にして教員免許取得者と言うべきだろうか。


前線から無線などで伝わってくる情報を参考にサニーズは敵機の傾向、そして採用し得る戦術をほぼ正確に言い当ててみせる。


「ロサノヴァとランで対処できるならばそれで良し。そうでなければ攻撃位置に就いたところで私が強襲を仕掛けるだけだ」


彼女は僚機たち――一人娘ロサノヴァ・コンチェルトとスターライガチーム最年少メンバーのラン・サツキの能力を信頼しているが、念のため"プランB"は用意しておくべきだと告げる。


当然、バックアップ要員は最強クラスの実力を持つサニーズ自身だ。


「敵機を捕捉しました! これより迎撃に向かいます!」

「私とライガが控えている。あまり無理はするなよ」


率先して迎撃に赴くランのスティーリアをサニーズは父親のような表情で見送る。


じつはスティーリアは最近までスターライガに在籍していたサニーズの妻が乗っていた機体であり、彼女自身の推薦であえてランに託していた。


「ロサノヴァ、彼女のフォローは頼んだぞ」

「ああ、任せてくれ!」


実子のロサノヴァを後任としなかった理由は"上司と部下"という立場もあるが、最大の要因は既に自分好みの専用機を持っていたからだ。


父サニーズからの"頼み事"にロサノヴァはこころよく応じると、技術者兼任という立場を活かして組み上げた愛機シルフィードを加速させるのであった。

【サニーズの妻】

元オリエント国防空軍所属のMFドライバーだったが、サニーズとの結婚を機に退役。

その後、スターライガ創設に関わったライガの知り合いとして夫と共に現役復帰を果たす。

技量は高いが射撃機乗りのくせに突撃しがちな悪癖を持っていた。

3年前のルナサリアン戦争終戦を以って今度こそ完全引退し、現在は地元でパティスリー(洋菓子店)を経営している。

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