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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 2-2】砂まみれの死闘

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【76】舞い降りる戦乙女

 戦闘中に負傷した末女ヨツバのことは緊急対応チームに任せ、長女フタバと次女ミツバは元空港ターミナルビル内にあるアフリカ・ルナサリアン司令官サクヅキ・ノイの執務室を訪れていた。


「フタバ君、そしてミツバ君……よくぞ――いや、どのような言葉も君たちに対する慰めにはならんか」


部屋に入ってきた姉妹をノイは安堵の表情で迎えたが、末女の容態を案じたのか途中で言葉を詰まらせる。


ミヅキ三姉妹の強い絆は彼女もよく知っており、だからこそ今回の結果には少なからず衝撃を受けていた。


「……私の慢心ゆえの結果です。私の指揮がもっと適切であれば、何人かの部下は死なず妹も――」

「違いますッ……! 私が弱かったからッ……!」


中隊長たる自身の指揮が稚拙だった――。


指揮官として責任を感じているフタバが悔しさを滲ませていると、それを庇うように普段寡黙なミツバが声を荒げる。


慢心と弱さ、客観的にはそこはあまり神経質になる要因ではないと思われたが……。


「……くそォッ!!!」


自分自身に対する怒りをぶちまけるかのように握り拳を振り下ろすフタバ。


「……二人とも、あまり自分を責め過ぎるなよ」


その姿を見かねたノイは年長者として真面目過ぎる天才姉妹たちを冷静に諭す。


「ヨツバ君も含めて負傷者の治療は継続させる。医療機器が使えるならば軍医や衛生兵が全力を尽くしてくれる」


瀕死の重傷を負ったという報告もあるヨツバはまだ死んでいないし、トリアージが必要なほど野戦病院が圧迫されているわけでもない。


敵部隊が目と鼻の先に迫るまでは医療行為を継続させることをノイは約束する。


「君たちには貴重な防衛戦力として同胞と市民を守ってもらう。いいな?」

「……分かっております」

「……」


医療従事者の安全を確保するためには防衛線の展開が必要不可欠だ。


身長150cm代前半という小柄な体格からは想像できない威圧感を醸し出すノイと視線が合った瞬間、フタバとミツバは正していた背筋を改めて伸ばす。


「ミツバ君、君は次の指示があるまで即応体制で待機せよ。休める時に休みたまえ」

「ハッ……御心遣い、感謝致します」


少しだけ表情を和らげたノイはミツバに対しては下がっていいと促す。


「サクヅキ司令……私の愚妹を下がらせたということは、私情も交えた話でありますか」


一方、部屋に残ったフタバは妹だけが退室させられた理由を何となく察していた。





「うむ……まあ、座りたまえ。それに飲み物でもどうだ」

「では、御言葉に甘えて……」


歳が離れた上官であるノイに着席と茶を勧められ、その厚意を素直に受け入れるフタバ。


彼女たちは歳の差を超えた強い信頼関係で結ばれており、それは事実上の友情であると言えた。


「フタバ君……君の前だから弱音を吐かせてもらうが、私はこの戦いには負けると思っている」


旧ルナサリアン本国からわざわざ取り寄せた茶葉で淹れた伝統飲料"リョクチャ"を味わいつつ、ノイはダカール防衛戦について私見を述べる。


その内容は確かに将兵たちの前では漏らせない弱音であった。


「どうしてです? 一般的に攻撃側は防衛側の三倍の戦力が必要と云われていますが、敵部隊はその条件を満たしているようには見えません」


事実、それを聞いたフタバは口に運ぼうとしていた茶菓子を止めて眉をひそめる。


彼女はルナサリアンの間でも通用する"攻撃三倍の法則"を引き合いに出し、自分の見解は異なると主張した。


「彼らは少数精鋭です。我が軍の数的有利を活かして包囲すれば、津波のように跡形も無く押し流すことができるでしょう」

「……その意見は間違っていない。現にレーヴェンタール将軍のバクリュウも戦闘を開始し、敵艦隊旗艦を撃沈したという報告を受けている」


フタバの意見にも一理あることはノイも認めており、最前線の報告を信用するならば悲観的になる必要は無かった。


「でしたら、敗北を予感するのは時期尚早かと……!」

「これを見てもその考えが変わらないか、自らに問い掛けてみるがいい」


上官の煮え切らない態度に納得がいかず噛みつくフタバを窘めるようにノイは一枚の写真を台上に置く。


「この写真は……大気圏突入する艦船でありますか?」


フタバが手に取った写真には不鮮明ながら一隻の大型艦が写っているようだ。


ただし、低解像度と断熱圧縮による発光が写り込んでいる関係で艦型までは特定できなかった。


「スカーレット・ワルキューレ――それが答えだ」

「ッ……!」


ノイが写真に写っている大型艦の艦名を答えた瞬間、フタバは思わず息を吞むのだった。





 スカーレット・ワルキューレ――。


ルナサリアン戦争の終結に貢献したとされる世界最強のプライベーター、スターライガが保有する民間船籍の超弩級全領域航空戦艦。


オリエント国防海軍の航空戦艦をベースとする同艦はスターライガチームの母艦であり、その性能は時に約38万キロ離れた月まで向かうこともある組織の活動を支えている。


無論、戦艦らしい重武装と重装甲に裏打ちされた戦闘力も極めて高く、一説では艦載機や白兵戦要員を含めたスカーレット・ワルキューレの戦闘力は小国の軍事力に匹敵するという。





「総員、第一戦闘配置! MF部隊は順次発艦準備開始!」


大気圏突入シークエンスの完了及び全パラメーターの正常値を確認し、CIC(戦闘指揮所)の艦長席に座るオリエント人女性は第一戦闘配置と艦載機の出撃を発令する。


彼女の名はミッコ・サロ。


ルナサリアン戦争以前からスカーレット・ワルキューレの艦長を務める、元オリエント国防海軍出身の歴戦の船乗りだ。


「フライトクルーよりトリアキス、飛行甲板へ到達後は誘導員の指示に従い1番カタパルトまでタキシングせよ」


発令を受けたフライトクルー――航空管制部署のスタッフは格納庫内のエレベーター前に並んでいる機体の誘導を開始する。


母艦の直掩に残る1部隊以外は全機出撃するため、格納庫ではフル装備の個性豊かなMFたちがゴーサインを待ち侘びていた。


「こちらトリアキス、了解」


最前列で待機しているクリムゾンの可変型MF――"ZHN-X89+MCLT-F1 トリアキスF"の専任ドライバーはヒナ・リントヴルム。


可変機の扱いを得意とする元オリエント国防空軍アグレッサー部隊出身で、部隊指揮能力を持つエースドライバーだ。


大人びた穏やかな雰囲気とは裏腹に大変優れた操縦技術を有している。


「ミカドアゲハ及びスターシーカーも飛行甲板へ到達次第、それぞれ3番カタパルト及び5番カタパルトへタキシングせよ」

「ミカドアゲハ、了解」


フライトクルーの誘導に従い後続機もトリアキスと同じエレベーターに乗り込む。


一機は蝶の羽のような大型ウィングバインダーを持つ"SZ-120RSR ミカドアゲハ"。


この機体を駆るシズハ・オータムリンクはスターライガ創設初期からの最古参メンバーであるが、正規軍出身者ではないため部隊指揮能力を持っていない。


ただし、実戦で叩き上げられた実力はオリエント国防空軍の現役MFドライバーと同等以上だ。


「スターシーカー、了解」


もう一機のMFはX字型のメインスラスターユニットと大型実体シールドを持つ、姫騎士のような威容が特徴的な"XSF-120FF スターシーカー・フォルテ"。


搭乗者のソフィ・フォルティシモは強者揃いのスターライガチームでは相対的に地味だが、それでもルナサリアン戦争を戦い抜いた実戦経験と若手らしい成長力を併せ持つ逸材であった。





「ヒナ、あなたたちは我々が擁する最も機動力が高い部隊よ。続けて発艦するΖ(ゼータ)小隊と合流したのち、可及的速やかに内陸部まで移動。友軍艦隊に纏わりつく戦略爆撃機を排除してちょうだい」


格納庫と飛行甲板を繋ぐ艦載機用エレベーターが上昇する間、通信回線を介してミッコ艦長から任務内容が伝えられる。


彼女が評しているようにヒナ率いるΗ(イータ)小隊は可変機――ヒナのトリアキスFが配備されているなど、今回作戦行動を共にするΖ小隊と並んで機動力に優れていた。


また、非可変機のミカドアゲハとスターシーカーは複数機種に対応した新開発の"高高度戦闘用パッケージ"を装着しており、これを必要としない隊長機に追従するための速度性能及び上昇力を確保している。


「了解です。サンゴール空港の制圧は他の部隊に任せましたよ」


ヒナのΗ小隊と同僚率いるΖ小隊が友軍艦隊の援護に向かう間、それ以外のMF部隊はアフリカ・ルナサリアンの司令部があるダカール中心部への強襲を仕掛ける。


自分たちというイレギュラーの出現に敵は今頃慌てているはずだ。


「そっちはウチの"リーダー"が前線指揮を執る。あいつの実力と指揮下の戦力なら大丈夫だ」


一方、サンゴール空港へ向かう主戦力はスターライガチームのリーダー――ライガ・ダーステイが最前線で直接指揮を執る。


創設初期から彼と同じ理念の下で戦ってきたシズハは戦友を信頼しており、そちらに関しては全く心配していなかった。


「シズハさんの言う通りですよ。私たちは与えられた役割に集中しましょう」


数年前に当時の最高経営責任者からスカウトされるカタチで加入したソフィも同意見だ。


世界最強のMFドライバーたるリーダーは誰にも負けない。


心配するべきはむしろ自分たちの任務遂行の可否だろう。


「ええ……あの人たちには失敗しないという安心感があるわね」


僚機たちと同じくリーダーを信頼しているヒナは穏やかな笑みを浮かべる。


大人の女性らしい落ち着きぶりはヒナの強みであった。


「チェックリスト、オールクリア」


動力伝達、計器類、操縦系統、機上レーダー、通信装置、火器管制システム――。


発艦手順にのっとり必要な項目を迅速且つ正確に最終チェックしていくヒナ。


「コンディション、オールグリーン。Η小隊各機、発艦を許可する」


機体の降着装置が電磁式カタパルトの接続部にセットされ、フライトクルーから発艦許可が下りると同時にカタパルト先端部左右に埋め込まれている指示灯が赤から緑に切り替わる。


「了解! トリアキス、発艦します!」


グリーンシグナルを確認したヒナが推力制御を担う左操縦桿を前に押した次の瞬間、クリムゾンとビリジアンの可変型MFは青空に向けて勢い良く射出されるのだった。

【Tips】

ライガ・ダーステイは確かにスターライガという組織名の由来にして象徴たる存在だが、彼の現在の役職は"最高経営責任者代行"である。

本来の最高経営責任者にして創設者は本業の経営再建のため一時的に現場を離れており、今回の友軍艦隊支援作戦には同行していない。

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