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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 2-2】砂まみれの死闘

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【71】ダカール奪還作戦Ⅶ:狂犬、咆える

 ついに本格的な反転攻勢に出た"月のケルベロス"は互いに連携し合える間合いを維持しつつ散開。


「各機、乙小隊の援護を優先せよ!」


小隊長フタバによる指揮の下、まずは孤立している味方機をカバーするために3機で動く。


「1機しかいないぜ! せめてアイツだけでも守ってやらねえと!」


戦術的観点から言えばあえて囮にするなど、勝利のために切り捨てる選択肢もあり得る。


しかし、月のケルベロスの末女ヨツバは決して戦友を見捨てなかった。


「敵機を牽制します!」

「敵部隊が連携できないように遠ざけるのよ!」


可愛い末っ子の決意を汲み取るように次女ミツバと長女フタバも牽制攻撃に参加し、味方機を守るように布陣する。


「くッ……!」


3機の陸戦改造型ツクヨミから狙われたスレイはさすがに攻撃態勢を維持することができず、集中砲火を避けるため上空退避を余儀無くされる。


「ゲイル2、相手のペースに惑わされるな! 単独戦闘に付き合う必要は無い!」


僚機を救援するべくセシルも愛機オーディールM3を加速させ、敵部隊の射線上に意図的に割り込むなど積極的な援護を行う。


いくら彼女でも敵機が固まっている場所に単独で飛び込むことは躊躇われた。


「片方は此間こないだオレとやり合った奴か? だとしたら……へへっ、今日こそは決着とシャレ込もうぜ!」

「地べたを這い回るウサギと遊んでいられるかよ!」


一方、月のケルベロスはゲイル隊の連携を断って各個撃破することを狙っているのか、ヨツバは先の戦闘で少しだけ交戦したアヤネル機に積極的な攻撃を仕掛ける。


「大丈夫? あなたはまだ戦えるわね?」


妹たちが上手く"蒼い悪魔"を引き付けている間、フタバは乙小隊の隊長と合流し状況確認を進めるのだった。





「……申し訳ない。貴重な部下と機体を失ってしまった」


一人は乗機の上半身諸共吹き飛ばされ、もう一人は戦闘不能になった機体を放棄し脱出した。


たった一人残された小隊長はフタバに謝罪する。


「あなたは丙と丁の方に合流して。あっちも確実に戦力を削られて苦戦しているわ」


それに対してフタバは咎めることも慰めることもせず、ただ勝利のためだけに次の指示を与える。


別行動中の丙小隊と丁小隊は"蒼い悪魔"の片割れと交戦しており、無線を聞く限りでは既に半壊状態に陥っているなど苦戦を強いられていた。


「フタバさんたちは?」

「私たちは3人での連携に特化しているのよ。さあ、急いで」


乙小隊の隊長はミヅキ三姉妹――所謂"甲小隊"の戦力不足を懸念するが、フタバはそれ以上の反論は許さないと言わんばかりに味方機の肩を押し出す。


「了解……お気を付けて」


結局、意見具申は無駄だと判断した小隊長は指示に従い別働隊との合流を優先する。


「(ああ言ったけど……本当は対等な条件で戦ってみたいだけなのよね)」


もっとも、フタバには同じ3機編成のエース部隊を率いる者として同じ条件で戦いたいという目論見もあった。


「(空を飛び回られるとこちらの攻撃は当てづらい。せめて、地上に叩き落とすことができれば……)」


戦闘に復帰したフタバは砂上をホバー推進で疾走しながら上空を飛ぶ蒼い可変型MFを追いかける。


だが、地上と空中では速度差は歴然。


ラリーカーのように砂埃が巻き上がるほどのスピードでも有効射程に飛び込むことは難しい。


「(こういう時に格闘機乗りはしんどいわね……!)」


そもそも、フタバは格闘戦用にチューニングした陸戦改造型ツクヨミを駆るインファイターである。


機動力で上回る敵機を追いかける戦い方自体が向いていなかった。





「撃ち方始めェ!」


末女ヨツバは射撃武装を満載した陸戦改造型ツクヨミで戦うガンファイター。


長女よりも長い射程での戦闘が得意であり、重機関銃による対空射撃は確かに空中まで届いていた。


「対空射撃がなってないんだよ、ヘタクソ!」


しかし、地上から高所を狙う攻撃というのは元々難しいことで知られており、アヤネルは嘲笑うような回避運動で大口径弾を難無くかわしてみせる。


「(隊長機の冷静で的確な指揮の賜物ね。こちらの間合いになる低空までは下がらない)」


おそらく"蒼い悪魔"の隊長機は頭上を取った状態での戦闘を徹底させているのだろう。


対戦相手のフィールドには踏み込まないという判断をフタバは敵ながら高く評価する。


「ゲイル2、ファイア!」

「こいつ……速い! 3機の中では一番動きが甘いはずなのに……!」


スレイのオーディールの攻撃を左右への切り返しでかわしつつも、どうしても避け切れない光弾はシールド防御と増加装甲で耐えざるを得ないミツバ。


彼女はフォーメーションの中盤を担うオールラウンダーで高い技量を持つが、その分器用貧乏で一芸には特化し切れていない面がある。


「(相手が高度を落とさないなら、こちらから仕掛けるしかないか……!)」


このままではアドバンテージを活かした戦い方ですり潰されてしまう。


小隊長としてフタバは勝ち筋を考え出さなければならない。


「(敵隊長機……何をするつもりだ?)」


同等以上の実力を持つセシルはあらゆる可能性を想定し、出方を窺うように敵隊長機をマークし続けるのだった。





「ミツバ! 肩を借りるわよ!」

「え!?」


自機の後方に就くや否や訳が分からないことを口走る姉フタバに驚くミツバ。


「あなたを踏み台にする! 推力最大!」


妹が事情を呑み込む前に彼女の陸戦改造型ツクヨミの肩に飛び乗り、フタバはフルスロットルで自身の機体を打ち上げることを命じる。


「は、はいッ!」


姉の意図をようやく理解できたミツバは指示通りスロットルペダルを踏み込み、姉の陸戦改造型ツクヨミを両肩に乗せたまま上昇する。


ただし、陸戦改造型ツクヨミのスラスター推力は必要最低限の空中戦をこなせる程度でしかない。


増加装甲を装備した機体を空高く運ぶことはできなかった。


「僚機を踏み台にした!? くッ……!」


それでも砂色のサキモリは単機の時よりも高い上昇力を発揮し、スレイのオーディールとほぼ同じ高度に到達。


戦闘開始以降初めて絶好のチャンスとポジションを得る。


無論、これはスレイにとっては絶体絶命のピンチだ。


「いかん! スレイッ!」

「キェェェェェサァ!」


僚機の窮地にセシルが思わず叫んだ次の瞬間、癖が強い独特な掛け声を発しながらフタバの陸戦改造型ツクヨミはカタナを振るう。


「ぐぅ……!」


魂が込められたその縦斬りをスレイは鋭い回避運動で辛うじてかわす。


「"蒼い悪魔"が煙を曳いている! フタバねえがやったのか!?」


乾坤一擲の斬撃は不発に終わったかと思われたが、地上でアヤネル機と交戦していたヨツバからは白煙を曳きながら飛ぶ蒼いMFの姿が見えていた。


「右脚部スラスター、推力低下――いけないわね……」


一方、ダメージインジケーターを確認したスレイは険しい表情を浮かべる。


地上での動力性能が高い相手には乗機オーディールの機動力を活かして対抗してきた。


スラスターを損傷すると機動力が低下してしまうため、比較的ローリスクな一撃離脱やアウトレンジ戦法が難しくなることを意味していた。


「飛行速度が明らかに落ちている! これなら十分接近して攻撃できる!」


弾薬消費を惜しまない一斉射撃でアヤネル機を追い払ったヨツバは手負いの蒼いMFに狙いを切り替える。


「トドメは頼んだわよ、ヨツバ!」


必殺の一撃を決め切れなかった自分にトドメを刺す権利は無い。


フタバはここぞという局面での"嗅覚"に優れる末っ子にチャンスを譲るのであった。

【Tips】

フタバの独特な掛け声は彼女が属している流派の特徴――ではなく、彼女の個人的な癖である。

なんか気合が入って元気になれるらしい。

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