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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 2-2】砂まみれの死闘

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【69】ダカール奪還作戦Ⅴ:ケルベロス・ハウンド

 交戦距離に入るや否や対空ミサイルによる先制攻撃を仕掛けた12機の陸戦改造型ツクヨミは、バックパックに装備していたMLRS(多連装ミサイルシステム)をパージしドッグファイトに備える。


「くそッ、一発も当たらなかったか! 仕掛け所は悪くなかったんだがなァ」


この部隊のエースである"月のケルベロス"の三女ヨツバが自己分析している通り、先制攻撃の手段とタイミングはおそらく適切だった。


不発に終わったのは敵部隊の回避行動も適切であったためだ。


「こっちが対空攻撃が苦手なことを分かってて、空中に居座るつもりか!」

「後方に付かれた! 援護を――!」


悠々と頭上を飛び回る蒼い可変型MFを隊員が忌々しげに睨んでいると、強襲を受けたと思われる別の隊員から切迫した声で援護を求められる。


しかし、編隊の最後尾にいた隊員の声は途中でプツンと途切れ、それと同時に機体の識別信号もレーダー画面上から消失してしまう。


最期に報告していた"後方に付いた敵機"に撃破された可能性が高い。


「姉さん! 僚機が……!」

「敵は攻撃を仕掛けてくる時には高度を下げるはず! 反撃で地面に叩き落としてやりなさい!」


次女ミツバの不安を一喝するように"月のケルベロス"の隊長にして長女のフタバは対抗戦術を提示し、自身を含む残り11機の戦力で勝利することを最優先に考える。


「そういうのは射撃が得意なオレの仕事だ! こっちに適当な敵機を引き寄せてくれ!」


無論、カウンターを警戒する敵部隊は不用意な接近はしてこないはずだ。


長女の戦術を機能させるカギは射撃を得意とし、尚且つ有効射程が長い兵装を意識的に装備しているヨツバが握っている。


「乙小隊は私たちの援護を! 丙小隊と丁小隊は連携を密にして向こうの3機をお願い!」


敵部隊は6機編隊だが初撃をかわした直後に3機ずつのグループに散開していた。


3機を1個小隊とする単位は自分たちと同じだ。


それに対抗するべくフタバは11機の戦力を分割し、効率的に戦力差で押し込む作戦を取る。


「了解! あいつの仇は取ってみせます!」


つい先ほど部下を撃破された丙小隊の隊長は仇討ちに燃え、丁小隊の3機と共に別行動を開始する。


「(もし、相手が慎重を期している時は……その時はこちらから攻めることも止むを得ないわね)」


防衛側となるフタバはあくまでも"待ち"の戦術を想定していたが、いざという時は攻めに転じることも辞さない構えだった。





「すばしっこい奴らめ! それに砂煙で居場所を隠しているつもりか!」


縦横無尽に砂上を駆け回る陸戦改造型ツクヨミを捕捉しながらも攻撃タイミングが定まらず、苛立ちを隠せないまま戦闘を続けるヴァイル。


「チィッ……!」


思い切って間合いを詰めると射撃武装による反撃が飛んでくるため、彼女はフラストレーションを徐々に募らせていく。


「落ち着いて狙うんだ! 空戦みたいに亜音速で動き回っているわけじゃない!」


それを見かねたリリスは自身も別の敵機と戦いながらアドバイスを授ける。


非常に言葉少なではあるが、戦場で最も大切な"冷静さの維持"だけを極めて簡潔に伝えた。


「……」


そのアドバイスを受けたヴァイルは感情を口に出すことを止め、ただ静かに敵機の動きを青い瞳で追いかける。


上官が言っていた通り、亜音速以下の速度域ならば肉眼でも捉え切れる。


「ファイア!」


一息入れるため敵機の回避運動が鈍くなる瞬間を見計らい、ヴァイルのオーディールは脚部外側に装備されたポッドからロケット弾を斉射する。


「うわあッ! くそッ!」


5発のロケット弾のうち最後の1発が見事至近弾となり、足元に攻撃を受けた陸戦改造型ツクヨミは激しく転倒してしまう。


「大丈夫か!? 立ち上がれるか?」


それに気付いた同じ小隊の僚機は素早くフォローに入り、突撃銃による射撃で蒼いMFを牽制しながら立て直しの時間を稼ぐ。


「敵部隊はお互いのことをよく見ていますわ。誰かが擱座かくざしても別の機体がすぐにフォローに入りますわね」


最初こそ不覚を取り1機失ったものの、そのダメージを引きずらず巧みな連携で粘りを見せる月のケルベロスにローゼルは敵ながら感心する。


これは自分の戦いに没頭し過ぎず、周囲の状況を把握していることの表れだ。


「連携が甘ければトドメを刺しに行けるんだがな」


ここまで見事な対応をされたらヴァイルも迂闊には接近できなかった。


「増加装甲が無かったら危なかったよ」

「油断しないで! 動きを止めたら狙われるわよ!」


しかも、敵機は先の戦闘では見られなかった増加装甲を装備しており、爆風で転倒しながらもほぼ無傷で済んでいた。


この機体は小隊長機とも合流して戦線に復帰する。


「地上戦が奴らの真骨頂か……一筋縄ではいかなさそうだね」


最初を除いてなかなか敵戦力を削れない状況に、リリスは厳しい戦いを予感するのであった。





「ゲイル2、ファイア!」


同じ頃、散開して別行動中のゲイル隊もやはり決め手に欠ける戦いを展開していた。


数少ない攻撃チャンスをモノにするべく、スレイは少し早過ぎたと自覚しつつも右操縦桿のトリガーを引く。


「フッ、こちらには増加装甲があるんだよ!」


蒼いMFの機体下面に装備された無反動砲から発射された成形炸薬弾は、陸戦改造型ツクヨミの胴体を掠めるように命中。


普通ならば中破を期待できる当たり方だったが、砂色のサキモリは増加装甲の破損と引き換えにこの一撃を難無く耐えてみせた。


搭乗員の自慢げな反応から増加装甲の優秀さが窺い知れる。


「くッ、やっぱり直撃じゃないとダメージが入らないわ!」


直撃を狙えるタイミングまで待たなかったことを少しだけ後悔するスレイ。


一撃で戦闘不能にするには急所――それこそコックピットを直接潰すなど残酷な手段が必要かもしれない。


おそらく、ローゼルが最初に撃破した時は偶然搭乗員を死傷させることができたのだろう。


「こっちも似たような装備があるが、敵に使われると厄介だな」


ちなみに、増加装甲というのはMFの強化案で真っ先に挙げられるオプション装備の一つであり、アヤネルたちの搭乗機オーディールM3にも系列機専用のブースター兼用増加装甲が用意されている。


ただし、レヴォリューショナミーの武装蜂起という非常事態により急遽作戦行動に入ったため、現時点では肝心なオプション装備自体が手元に無かった。


オーディール専用増加装甲を装着した"SGT-BOOSTER"形態ならもっと強気に攻めることができるのだが……。


「隊長、埒が明かないぞ!」


攻め切れない状況に苛立ちを隠せないアヤネル。


「相手はカウンターアタック狙いで積極的には攻めてこない」


セシルが指摘している通り、月のケルベロスは反撃と回避に徹しており攻撃自体はあまり激しくない。


「ええ、長期戦になるとこちらが不利になります」

「我慢比べだぜ。先にスタミナと集中力を切らした方が負けだ」


スレイとアヤネルは攻撃側だ。


継続的に攻めなければ防御を固める余裕を与えてしまう。


これは矛と盾によるしのぎの削り合いと言える。


「しかし、私たちオリエント人には厳しい環境になる……大丈夫か?」


考慮すべきは戦術だけではない。


セシルは砂埃と猛暑の中で戦う部下たちの体調を気遣う。


彼女たちオリエント人は元々寒冷地に適応した北方系の種族だ。


暑い気候は非常に苦手としていた。


「(スレイたちの負担はいつも以上に重いと考えた方がいい。焦るべきではないが、あまり悠長にもしていられないな)」


水分補給用のハイドレーションシステムを搭載しているとはいえ、実際には汗をかいて失われる水分量も決して少なくない。


スレンダーな身体に無尽蔵のスタミナを秘めるセシルはともかく、部下たちは疲れの色を見せているように感じられる。


「ゲイル各機、私が深く突っ込む! 援護しろ!」


幸いにもスタミナお化けのセシル自身はまだまだ余裕がある。


彼女は部下たちの負担を減らすべく、率先してアタッカーを引き受けるのだった。

【ハイドレーションシステム】

MFの非常に狭いコックピットではドリンクボトルは扱えないため、飲料水が入ったパックに接続されたチューブから給水するシステムを採用している。

オリエント連邦系のMFや戦闘機ではシステム一式が標準装備されており、最初期はF1マシン用に開発された物を改造して使っていた。

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