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【4】アーティファクトVSナチュラルボーン(前編)

 RMA-25――。

ルナサリアン戦争においてバイオロイド専用機として実戦投入された、オーディールのパクリ疑惑がある可変型MF。

その性能はオーディールと同等であるが、"高能力人工人間"たるバイオロイドの搭乗を前提とした機体は高い戦闘力を安定して発揮できるという。

無人戦闘機ほど積極的には戦線投入されないものの、逆に言えば手元の戦闘データが限られる状態で戦わされることが厄介だ。

「防空司令部より各機、防空戦闘を継続せよ!」

「こちらは最初からそのつもりだ!」

防空司令部から指示が飛ぶよりも先にセシルは部隊を散開させ、敵航空戦力のマイクロミサイルによる先制攻撃をやり過ごす。

「6対6……好都合だね。一人一機ずつ仕留めればいい」

奇しくも敵部隊の戦力はゲイル及びブフェーラ隊と同じ6機。

数と性能が同じなら技量は自分たちの方が上――自身と僚友の実力を信じるリリスは不敵な笑みを浮かべる。

「ま、リリス大佐はこう言ってるが臨機応変に対応していかないとな」

無論、アヤネルが指摘しているように各個撃破に拘る必要は無い。

必要に応じて単独戦闘から2対1に切り替える可能性もあるだろう。

「よし! 捉えたぞ!」

先制攻撃を凌いだゲイル及びブフェーラ隊は早速反撃へ移行。

まずはヴァイルのオーディールM3がRMA-25の背後に食らい付く。

「ヴァイル! そのまま仕掛けられる!?」

「いや……くッ、振り切られる! さすがに速い!」

スレイの質問に答えるようにヴァイルは敵機の追尾を試みるが、オーディールと同等の機動力を持つ白い可変型MFを捉え続けるのは容易ではなかった。

「この3年間でバイオロイドも改良されている――ということですわね」

「機体の動きも以前とは異なるようだ。油断するなよ」

"人工人間"ゆえ製品改良により機体共々性能向上を果たしている可能性を警戒しつつ、僚機と同じく攻撃態勢に入るローゼルとセシル。

「(バイオロイドを6体も……決して安価ではないはずだが、どうやって買い揃えた?)」

編隊からはぐれた敵機を狙いながらセシルはバイオロイドが現れた理由について考察し始める。

「(あるいは製造業者との提携か……帰投したら一応報告しておくべきだな)」

設計段階で遺伝子操作などが行われるバイオロイドの製造コストは相応に高価だとされている。

それを複数導入するのは普通のテロリストの予算規模では非現実的。

バイオロイドを製造している組織が秘密裏に支援しているのかもしれない――というのがセシルの推測であった。


 分散した敵部隊の動きに追従し、全ての敵機をマークするゲイル及びブフェーラ隊。

これはノーマークで行動されることを防ぐためだ。

「ゲイル2、シュートッ!」

敵機を完全に捕捉したスレイのオーディールM3のウェポンベイが開き、内部から大量のマイクロミサイルが発射される。

「振り切れるものか……やった! 一機撃墜!」

回避運動のパターンを意識した偏差射撃にスレイは自信を持っていた。

対するRMA-25は防御兵装の散布と急旋回で追尾を振り切ろうとしたものの、避け損ねた一発を至近弾で食らった瞬間に立て続けて被弾。

木っ端微塵に爆発四散――とまではいかなかったが、大破炎上するほどのダメージを受けたらもう立て直せないだろう。

「一機撃墜された。パターン修正を」

「任務遂行に影響無し。戦闘を継続する」

先手のアドバンテージを活かせず一機失いながらも冷酷無比なバイオロイドは動じない。

生き残りの個体は行動パターンを修正して戦い続けるつもりのようだ。

「被撃墜された機体の穴埋めでパターンが変わった? ゲイル2、油断するな!」

「油断したつもりは無いんですけどね……くッ、私を徹底的にマークしてきた」

違和感を察知したリリスによる警告も空しく、今度はスレイのオーディールを2機の白いMFが追い立てる展開となる。

CF(チャフ・フレア)散布!」

レーザーライフルによる牽制射撃を最小限の動きで回避しつつ、マイクロミサイルには誘導装置を撹乱させるデコイの大量散布で対抗する。

「バイオロイドめ、敵討ちとは相変わらず人間臭い一面を見せるじゃないか」

まるで撃墜された仲間のことを意識しているかのようなバイオロイドの行動に感心を抱くアヤネル。

俗に"機械のような奴ら"と称されるバイオロイドだが、ごく稀にその評価と矛盾する行動を取ることはよく知られている。

「感心してる暇があったら私を狙ってる奴を落として! 今なら簡単にロックオンできるでしょ!」

一方、少しだけ焦り始めたスレイは若干キレ気味に援護を要請する。

(わたくし)にお任せ下さいまし!」

その役目を引き受けたのはローゼルであった。

彼女はスレイとバイオロイドの戦闘に乱入すると、牽制射撃で敵機にプレッシャーを掛けることで行動の選択肢を制限させる。

「ミサイルアラート……! 回避運動を継続!」

自機に対してミサイルが発射されたことを知らせる警告音に反応し、右操縦桿を引き続けるスレイ。

「CF散布!」

それを見たローゼルはデコイを散布しながらフルスロットルで射線上に割り込むのだった。


「本当にこいつ……しつこい……わね!」

スレイを追いかけていた2機のRMA-25のうち、片方はローゼルが引き付けたことで離れていった。

しかし、もう1機は相変わらずスレイのオーディールがバテるのを待っているのか、執拗に(まと)わりつく行動を止めようとしない。

「よく持ちこたえてくれた! それの相手は私がやる!」

体力的に厳しい回避運動で粘り続けた僚機の根気に応えるべく、乱入のタイミングを見計らっていたセシルがついに動く。

彼女が加勢すればスレイが狙われる時間が減少し、結果的に一息つける機会が生まれるだろう。

「(格闘攻撃で確実な一撃を叩き込むべきか……ならば!)」

セシルは射撃よりも格闘を明らかに得意とするMFドライバーであり、刀剣類の扱いならばオリエント国防軍で彼女に勝る者はいない。

事実、前の戦争では"ルナサリアン最強"と称された月の武人アキヅキ・ユキヒメと互角に渡り合い、一騎討ちでこれを倒してみせたのだ。

「ゲイル1、ファイア!」

高速飛行しながらまずはレーザーライフルで牽制射撃を行い、敵機をイイ感じに誘導するセシルのオーディール。

「モードチェンジ!」

射撃を終えた次の瞬間、蒼いMFは戦闘機型のファイター形態から人型のノーマル形態へとその姿を変える。

スマートながらもマッシブな手足を持つノーマル形態はジャパニメーションのロボットその物だが、よく見ると頭部に相当する部位が無くコックピットが剥き出しになっている。

これではまるで首無し騎士のデュラハンのようだ。

「ゲイル1、アタック!」

わずか0.5秒の変形時間の終わり際、既に腕部が可動できるようになっていたセシルのオーディールは右手首に内蔵された格闘武装ビームソードを抜刀。

そして、僚機を付け狙うRMA-25とのすれ違いざまに鋭い一閃を叩き込む……!


 ルナサリアン戦争終結後しばらくは左腕の再生治療を含む療養に集中していたため、数か月前に現場復帰するまでほとんど訓練を行えなかったセシル。

元々の能力が高いおかげで周囲は気付いていないとはいえ、それでも彼女自身が認める程度には訓練不足の影響が出ていた。

少なくとも現時点ではルナサリアン戦争末期のような戦い方は取り戻せていないという。

「(連続攻撃を交えながらの変形!? あれで『腕が鈍った』って嘘でしょ……!?)」

にもかかわらず、本調子の頃とあまり変わらない操縦技術を平然と見せつける上官にスレイは内心驚きを隠せない。

戦間期も弛まず鍛練を積んできたスレイも相当の技量を持っているのだが、今の状態で模擬戦闘を行ってもセシルには勝てないだろう。

「コックピット付近に損傷。気密性の低下を確認。作戦行動に支障無し」

一方、ビームソードの刃先でコックピットを覆うカウルに切り傷を入れられながらもRMA-25は未だ健在であった。

装甲表面の損傷により密閉性が失われているものの、MFのコックピットはそもそも与圧されないのであまり関係無い。

「(外した……! 3年ものブランクはバイオロイド相手には誤魔化せないか!)」

カス当たりに終わった自らの攻撃の不出来にセシルは唇を噛み締める。

3年前の時点でバイオロイド+RMA-25の組み合わせは相当手強かったが、セシルが休んでいた間に相手も"改良"されていたらしい。

「(だが、奴はこちらの方が脅威レベルが高いと判断してくれたようだ)」

しかし、セシルのオーディールの極めて正確且つ素早い斬撃は決して無駄ではなかった。

「モードチェンジ、接近戦へ移行する」

「甘いッ! その変形時間が命取りだ!」

何かしらの合理的判断により負けじと変形し始めた白いMFの隙をセシルは見逃さない。

彼女の黒い瞳は0.5秒程度の世界なら容易に認識することができる。

「固定式機関砲、射撃開始!」

今から格闘攻撃を振りに行っても絶対に間に合わない。

そこでセシルのオーディールは最も早く繰り出せる固定式機関砲――ロボットアニメで言う"バルカン砲"を咄嗟に発射。

敵機の未来位置を意識しながら彼女は左右操縦桿の機関砲発射ボタンを押し込み続ける。

「くッ……」

MFに固定装備できる程度の小口径弾では直撃しても大ダメージにはならない。

だが、命中弾を受ければバイオロイド専用高性能MFと言えどさすがに体勢は崩れてしまう。

「怯んだ! 無駄に時間を使うつもりは無い!」

それで一瞬でも怯んでくれれば十分だ。

期待通りの動きが出来てきたセシルはノーマル形態時の推力及び姿勢制御を担うスロットルペダルを踏み込み、格闘戦の間合いまで一気に距離を詰める。

「攻撃開始」

すぐに体勢を立て直しシンプルな光学格闘武装"ビームブレード"を抜刀するバイオロイドのRMA-25。

「勝負だ……!」

ビームソードを構えたまま速度を緩めずに突っ込むセシルのオーディールM3。

次の打ち合いで決着が付くのか、それとも……。

【アキヅキ・ユキヒメ】

旧ルナサリアンの指導者アキヅキ・オリヒメの妹。

姉による独裁体制の下、正規軍に相当する"軍事武門"の総司令官として地球侵攻作戦を指揮した。

ユキヒメ自身も優秀な機動兵器搭乗員であり、敵情視察と称して専用機に乗り込み出撃していた記録が残っている。

現場主義者で最前線の部下たちと共に戦う機会が多かったためか、ルナサリアン残党はおろかルナサリア共和国内でも武人としてのユキヒメを慕う者は少なからず存在し、戦犯扱いのオリヒメとは対照的に今でも高い人気を誇る。

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