【65】ダカール奪還作戦Ⅰ:ブレーズ・ジャーニュ
Date:2135/10/20
Time:13:00(UTC+0)
Location:Dakar,Senegal
Operation Name:RALLYRAID
短距離戦術打撃群艦隊旗艦アドミラル・エイトケンから発艦したMF部隊に与えられた最初の任務は、敵防衛部隊の拠点の一つであるブレーズ・ジャーニュ国際空港の無力化だ。
ダカール市内には敵司令部が置かれるレオポール・セダール・サンゴール国際空港も存在するが、まずは艦隊の脅威となり得る航空戦力の拠点を潰さなければならない。
「私たちだけで目先の飛行場を制圧しろとは……上層部も無茶なタスクを課してくれる」
"6機のMFで敵飛行場を一つ壊滅させろ"という上からの命令にヴァイルは愚痴を漏らす。
「仕方がありませんわ。NATO軍の航空戦力には艦隊を守ってもらわなければなりませんもの」
短距離戦術打撃群が行動を共にするNATO軍艦隊も少数ながらMF部隊を擁している。
ただし、ローゼルが言う通り彼らには艦隊の直掩という大事な役割がある。
少数精鋭で敵飛行場を叩けるのはゲイル隊とブフェーラ隊だけなのだ。
「航空戦力など帰るべき場所を失えば脆い物だ。それは我々も相手も一緒だがな」
どちらにせよ、この世界に永久に飛び続けられる航空機は存在しない。
降りる場所を失った航空機は不時着するしかないとセシルは語る。
「隊長! 敵航空部隊、捕捉しました!」
スレイの報告と同時に運用群(数十機)規模の大部隊がレーダー画面上に姿を現す。
「戦闘機と攻撃機、高高度には爆撃機も確認した! タフなサイン会になりそうだな!」
敵部隊の機種は航空優勢の確保を担う戦闘機に対艦ミサイルを搭載しているであろう攻撃機。
そして、少数ながら高高度には大型機――どうやって調達したのか戦略爆撃機もいた。
この強烈な布陣を目の当たりにしたアヤネルは、その過酷さをアイドル時代のハードワークに例える。
「最大射程はおそらく戦闘機の方が上だ。先制攻撃を仕掛けるのは難しそうだが……」
多国籍艦隊を本気で迎え撃とうとしている大戦力も厄介だが、自分たちに直接関わる問題としてリリスは敵戦闘機の射程を懸念する。
一般的に戦闘機は大型な空対空ミサイルを搭載可能であり、当然ながら大型であれば長射程化は容易となる。
「私たちの目的は敵飛行場の無力化だ。邪魔な敵機だけを叩いて突き進むぞ」
しかし、2個MF小隊を率いるセシルは初めから敵戦闘機部隊と遊ぶつもりは無かった。
「敵モビルフォーミュラ部隊、捕捉! ……あの機体は!?」
アフリカ・ルナサリアンの主力戦闘機は"キ-32 ヤタガラス改"。
前大戦の中期以降に実戦投入され、地球側の航空戦力と互角以上に渡り合った旧ルナサリアンの名機だ。
残党軍所有とは思えないほど良好なコンディションを維持していることに加え、前大戦を戦い抜いたと思われるパイロットの技量も油断できない。
事実、先に敵機を捕捉し攻撃態勢に入っていたのはアフリカ・ルナサリアン戦闘機部隊の方であった。
「乙から丁部隊は無人戦闘機と共に飛行場の防衛に就け! それ以外の部隊は引き続き攻撃機の護衛よ!」
敵機は6機の蒼い可変型モビルフォーミュラ――オーディールM3型。
それが何を意味しているのかを知る部隊長は3個小隊を飛行場防衛に回すよう指示を出す。
3個小隊は機数にして12機となるが、これに無人戦闘機を加えた戦力を以ってしても"蒼い悪魔"を止められるかは疑わしい。
「空対空誘導弾、発射!」
それでも迎撃行動に移った戦闘機部隊は長射程空対空ミサイルを発射し、戦いの基本たる先制攻撃によるワンチャンスに賭ける。
ドッグファイトに持ち込まれたら戦闘機はMFに勝てないからだ。
「全機散開!」
だが、このミサイル攻撃はMF部隊を率いるセシルの冷静な指示により全弾不発に終わる。
「戦闘機の相手はするな! 飛行場への攻撃を最優先とせよ!」
あくまでも本来の作戦目標の達成を優先し、敵戦闘機への反撃はどうしても邪魔な場合だけに留めるセシル。
「くッ、後ろに張り付かれた! 振り切れない!」
彼女はその方針でも問題無いかもしれないが、セシルよりも少し技量が劣るスレイは執念深いヤタガラス改に纏わり付かれてしまう。
「攻撃位置まで持ち堪えろ! 兵装を発射次第回避運動に入れ!」
「その兵装を積んでるから速度が出せないんですよ!」
スレイ機は他の機体とは異なりMF用スタンドオフ小爆弾ディスペンサーを装備しているため、撃ちっ放し能力を持つこれを発射すれば彼女のオーディールは回避運動に集中できる。
それを考慮したセシルの指示自体は適切なのだが、問題は重く大きいディスペンサーがスレイのオーディールの動力性能を低下させていることであった。
「噂の"蒼い悪魔"……捉えたぞ!」
大型戦闘機ヤタガラス改のパイロットは自機よりも俊敏なオーディールにしっかりと食らい付き、対空ミサイルのシーカーに目標を捉えながら攻撃チャンスを窺う。
「こちらもな……!」
しかし、攻撃に夢中な砂漠迷彩の戦闘機の背後には別の蒼いMF――ヴァイルのオーディールが忍び寄っていた。
「ファイア!」
味方機を援護するべく機体下面に装備されたレーザーライフルを発砲するヴァイルのオーディール。
「発動機をやられた! 操縦困難……すまん、脱出する!」
不運にもエンジン部分に直撃弾を受けたヤタガラス改は推力の大半を喪失。
このままでは引火誘爆で機体が破壊されると判断したパイロットは射出座席を作動させベイルアウトする。
「敵戦闘機撃破を確認」
低空で開いたパラシュートと荒野に墜落した敵機を視認し、本日の初戦果を淡々と報告するヴァイル。
既にエースドライバーとしての評価を確立している彼女にとっては一喜一憂するほどの結果ではない。
「ごめん……援護してくれてありがとう」
「自力で窮地を脱する方が早いと思ったのですがね」
また、スレイの感謝の言葉に対するリアクションも今日のヴァイルはやけに冷めていた。
「ゲイル2、敵部隊の動きが乱れているうちに攻撃を!」
ともかく、敵戦闘機を撃墜したことで敵部隊の統制は僅かながら乱れている。
ローゼルはこの好機を活かして攻撃に転じるべきだとスレイに進言する。
「高射砲……にしては随分と長射程だな。狙い撃ちされないよう気を付けろよ」
飛行場に接近すれば敵地上部隊は当然対空兵器で迎撃してくる。
空中で炸裂する高射砲の射撃に違和感を抱くアヤネルだったが、この場では一旦置いておくことにした。
「ディスペンサー、シュート!」
高射砲の弾幕を抜けながらスレイのオーディールは2発のディスペンサーを時間差で射出。
ようやく身軽になった蒼いMFは回避運動を取りつつ進軍を続けるのだった。
「各機、敵部隊が態勢を立て直す前に戦線を押し上げろ!」
あくまでも敵機との交戦は最小限に留めながらも部隊に前進を命じるセシル。
「くッ、これ以上飛行場には近付けさせん!」
対するアフリカ・ルナサリアンも防衛ラインを再構築し、"蒼い悪魔"の進撃を容易には許さない。
「ゲイル1! 私たちで一気に進路を抉じ開けるぞ!」
「……ああ! ゴールデンコンビの力を見せつけてやる!」
そこでリリスは連携しながらの一点突破を提案。
彼女と完璧に息を合わせることができるセシルは力強い返事でそれに応じ、互いに機体を接近させ連携攻撃の態勢を整える。
「ゲイル1、シュート!」
「ブフェーラ2、シュート!」
次の瞬間、2機の蒼いMFは同時にマイクロミサイルを発射。
濃密な弾幕を盾に敵陣中央へ深く切り込んでいく。
「バカな……真正面から突撃してくる奴が!?」
戦力差をモノともしない、恐れを知らない戦士の戦い方に驚愕するヤタガラス改のパイロット。
「遅いよ! ファイアッ!」
鋭く突っ込んだリリスのオーディールは素早く敵戦闘機の背後に就き、近距離からショットガンの一撃を見舞ってこれを撃墜する。
「ゲイル1、ファイア!」
一方、セシルは大胆にも無人戦闘機"オンリョウ"の同軸線上に動き、すれ違いざまに敵機の制御部をレーザーライフルで正確に撃ち抜いていた。
「あの二人だけで進路を抉じ開けているぜ……流石だな」
破竹の快進撃に感心しているアヤネルの出る幕は無さそうだ。
「続きますわよ! ――邪魔しないで下さいまし!」
それでもローゼルは頑張って上官たちに追従し、普段はアヤネル機が使うことが多いMF用ガトリングガンで敵機を蹴散らしながら先を急ぐ。
「このままだと押し切られるわ……!」
「サンゴールに駐留している部隊が上がったらしい! 彼女たちが来るまでは持ち堪えるんだ!」
後方に控えている部隊から支援を受けられる目処が立ったのだろうか。
戦闘機部隊は積極的な迎撃行動を止め、時間稼ぎを目的とした防戦重視の戦い方に切り替える。
「ダカール中心部の飛行場も動き出す頃合いだ。ここで手間取ると挟み撃ちにされるぞ」
「ええ……それに艦隊が空襲に耐え続けるのも限度があるしね」
2か所ある飛行場の航空戦力の合流を懸念するヴァイルの言葉に同意するスレイ。
飛行場の制圧に時間が掛かり、自分たちの母艦を含む艦隊に敵機が殺到する事態だけは避けたかった。
【キ】
旧ルナサリアンにおいて固定翼機の型式番号に共通して付けられていた符号。
実際にはキ記号の後に「制式採用されたn番目の機種」を意味する通し番号が付与され、キ-〇〇のように表記される。
なお、この通し番号は戦闘機や爆撃機といった区分に関係無く振られていた。




