表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 2-2】砂まみれの死闘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/144

【64】ダカールの一番長い日

 旧セネガルとオリエント連邦の時差は6時間。


これから戦場となるダカールが朝を迎えていた時、遥か遠く離れたオリエント連邦は昼休憩が終わる頃合いであった。





「――現在、緊急修理を終えた短距離戦術打撃群艦隊はダカール近郊に向かっているわ」


昼食を済ませたオリエント国防軍総司令官レティ・シルバーストン元帥は、午後の仕事として短距離戦術打撃群の作戦行動に関する調整に取り掛かっていた。


彼女はモニター越しに誰かとテレビ会議をしているようだが、まるで母親のような口調から察するに相手は年下の知り合いらしい。


「スケジュール通りなら砂嵐を活かした白昼堂々の強襲になるな……フッ、大胆且つ面白い作戦じゃないか」


モニターに映っているのはレティと瓜二つの銀髪碧眼色白――そして彼女には無い獣耳が特徴的な美青年。


顔立ちは美少女にも見えるその男の美声は中性的で落ち着き払っており、自身の手元にある資料の内容を高く評価しながら微笑む。


彼は見た目に反してかなりの実戦経験を有する大ベテランのようだ。


「間に合うわね?」

「ああ、俺たちはレヴォリューショナミーや皇道派の監視網を掻い潜りながら大気圏突入のコースを見定めている」


だが、レティからの問い掛けに対して彼はすぐに表情を引き締め、レヴォリューショナミーの宇宙戦力やルナサリアン残党の最大勢力"皇道派"をやり過ごしつつ地球へ向かっていることを報告する。


今、彼とその仲間たちは宇宙にいるのだ。


「地上で作戦が始まる頃合いを見計らい、俺たちのふねは大気圏に突入。ダカール沖にピンポイント降下し挟撃を仕掛ける手筈だ」


彼らは大気圏突入が可能なほど高性能な全領域艦艇を所有しており、ダカール奪還作戦の開始に合わせて戦闘に参加する。


予定通りに行けば内陸部から進攻するNATO連合艦隊とダカールを挟み撃ちするカタチになり、都市部に駐留する敵戦力を封じ込めるはずだ。


「期待しているわよ……より確実な作戦目標達成にはあなたたち"ジョーカー"が必要なの」


じつは男たちが友軍として参戦することはNATO軍や短距離戦術打撃群には通達していない。


敵を欺くにはまず味方から――というわけではないが、レティは男たちの戦力をいざという時のための切り札と考えていた。


「打ち合わせ通り彼女らのための補給物資は積み込んでいる。これを受け渡すためにも無事でいてもらわなければ」


また、男のふねには彼女ら――短距離戦術打撃群の戦闘力を強化する補給物資が積載されていた。


それを送り届けるのも彼の組織が受注した依頼の一つだ。


「フフッ、きっと大丈夫よ。あなたたちが援護してあげれば――ね」


さっきの男とそっくりな微笑み方をするレティ。


「母さんの期待には必ず応えてみせるさ……スターライガの皆がいれば大丈夫だ」


この男の名はライガ・ダーステイ。


レティの一人息子にして世界最強のプライベーター"スターライガ"を率いる、ルナサリアン戦争を終わらせた勇者であった。





 栖歴2135年10月20日午後1時――。


NATO軍を中心とする多国籍艦隊は長い航海の末ダカール近郊まで到達。


作戦開始に向けて陣形の整列など最終調整を進めていた。


「第13独立艦隊が追い付けたのは不幸中の幸いだったな」


NATO連合艦隊旗艦キング・ジョージ6世の艦長ノリス大将は第13独立艦隊(短距離戦術打撃群)の損害報告を聞いた時は一抹の不安を抱いたものの、彼女らは迅速な緊急修理で諸問題を解決。


本隊が進軍速度を調節したのもあるが、作戦当日の夜明け前には合流を完了していた。


「ええ……あの部隊がいなければ作戦成功はあり得ませんからね」


副長が指摘している通り、"蒼い悪魔"を擁する第13独立艦隊という強力な部隊の活躍無しには作戦成功は望めない。


逆に言えば3年前の戦争で消耗したNATO軍――部隊を出向させているヨーロッパ諸国の軍事力は未だ以前の水準には戻っていなかった。


「……天気予報の通り、良い砂嵐だ。地元では"ハルマッタン"といったかな」

「艦長、作戦開始まで1分前です」


CIC(戦闘指揮所)の全天周囲スクリーンに映る砂嵐を興味深そうに眺めるノリスに近付き、作戦開始時刻ゼロアワーが迫っていることを告げる副長。


「大規模な砂嵐が接近してきます!」

「構わん! 砂嵐に紛れながら前進を続ける!」


砂嵐による影響を懸念するオペレーターの報告を一蹴し、現状維持を命じるノリス。


この地域特有の大規模な砂嵐"ハルマッタン"による視界不良は厄介だが、それはダカールに駐留するルナサリアン残党にとっても同じ条件のはず。


軍事行動において"見えない"ことは最大級の武器だ。


「全艦、最大戦速! 最優先目標は市域にある2か所の飛行場と港湾施設の無力化だ!」


ノリスの号令でキング・ジョージ6世以下艦隊各艦は航行速度を上げる。


いくつか設定されている作戦目標のうち、可及的速やかに叩かなければならないのは接収されている空港及びダカール港だ。


「我々欧米人はアフリカ大陸に無関心過ぎたのかもしれない……だからこそ、地球人の同胞たちを見捨てることはできない!」


アフリカ諸国と国際社会の関係が希薄化してから100年以上――。


お節介だの今更感だの言われるかもしれないが、何百年経とうとも"真の同胞"は自分たちのはずだとノリスは声を上げる。


「ダカールを……セネガルを……アフリカ大陸をあるべき人たちに還すために!」


彼の想いはただ一つ。


アフリカ大陸を地球人の手に取り戻すことだ。


「行くぞッ!」


祖国イギリスから遠く離れた土地にここまで真剣になれるのは、ジョージ・ノリスという男が優しいからかもしれなかった。





 レオポール・セダール・サンゴール国際空港――。


旧セネガルの初代大統領の名を冠する、同地域において最も重要な空港の一つ。


もっとも、3年前の戦争でルナサリアンの地球降下部隊に占領されて以降、この空港は同じダカール市域のブレーズ・ジャーニュ国際空港共々軍用飛行場として利用されている。


旧ルナサリアンのアフリカ方面軍を母体とするアフリカ・ルナサリアンは、戦時中から引き続きサンゴール国際空港に総司令部を置いていた。





「諸君、楽にしてくれ。ただし、作業をしながら話を聞いている者は手を止めるな」


ターミナルビルのロビーに集まった兵士たちを見渡し、ビールケースで作られた演壇に立って訓示を述べ始めた人物の名はサクヅキ・ノイ。


3年前の戦争でアフリカ戦線の前線指揮官を務め、戦後は徹底抗戦派の筆頭として大陸の残存戦力を纏め上げているアフリカ・ルナサリアンの総司令官だ。


「さて……皆も知っての通り、このダカールに向かって現在地球側の連合艦隊が進軍している」


ノイがサンゴール空港に駐留する兵士たちを集合させ、訓示で戦意高揚を試みている理由は明白である。


NATO連合艦隊の侵攻は末端の兵士たちのみならず、ダカールの一般市民にも既に知れ渡り始めていた。


「高射部隊やミヅキ隊、そして我らが超兵器"バクリュウ"の牽制により敵艦隊の足止めには成功した」


まずは勇気ある味方部隊の活躍を称え、少し不安げな兵士たちを安心させようとするノイ。


これ自体は"大本営発表"ではない事実だ。


「だが、奴らは緊急修理を終えて進軍を再開しているという。遅くとも本日中にはダカールに到達する可能性が高い」


しかし、良いニュースばかりでは兵士たちの気持ちをたるませてしまう。


ノイは敵部隊の動向に関する最新且つ正確な情報を伝え、緊張感のコントロールに努める。


「(私たちのせいだ……私がもっと戦えていれば……!)」


最前列の方で訓示を聞いていたミヅキ隊の隊員ミツバは握り拳を震わせる。


彼女らの実力ならば足止め以上の成果を挙げられたはずなのだ。


ミツバは自分たちを――いや、自分自身を責めていた。





「地上戦力は圧倒的、航空戦力の総数でも我々の方が上回っている。沖合にもレヴォリューショナミーから派遣された潜水艦隊が控えている」


事前にブリーフィングは行われているはずだが、改めて彼我の戦力差について説明するノイ。


広大なアフリカ大陸をカバーするため、元々規模が大きかった地上戦力の優位については言うまでも無い。


航空戦力も旧ルナサリアン製の戦闘機・攻撃機・爆撃機を中心としたバランスの良い装備を揃えている。


また、海上戦力については協力関係にあるとされるレヴォリューショナミーから支援を受けているようだ。


「しかし、超兵器の存在を加味しても艦隊戦力では敵に分があると言える。艦隊の行動を上手く抑制することが重要だ」


ノイの話を聞く限り戦力ではアフリカ・ルナサリアンの方が圧倒的有利のように思われる。


だが、彼女は海空宇の特性を併せ持つ全領域艦艇で構成された艦隊を危惧していた。


何しろ敵艦隊にはあの"蒼い悪魔"の母艦とその随伴艦がいるのだ。


「(キング・ジョージにアドミラル・エイトケン――次は必ず砂漠の藻屑にしてやるぜ)」


因縁深い2隻の武勲艦との再戦を前にヨツバは武者震いを隠さない。


「次の戦いは間違い無く厳しいものとなるだろう。かと言ってダカールを簡単に明け渡すようなことはしない」


一般的に攻撃側より防衛側の方が有利とはいえ、ノイは相応の損害が出る可能性を兵士たちに覚悟させる。


無論、そうなる前に対策は積極的に打っていくつもりだし、いざという時は命に代えてでもダカールを守ってみせよう。


「この地は元々"黒い肌族"の土地であるからだ! 我々月の民はその主張を尊重し、これまで通り協力を惜しまないことを宣言する!」


アフリカ・ルナサリアンの基本戦略は現地住民に寄り添った占領政策だ。


ヨーロッパからやって来る"白い肌族"を迎撃する傍ら、ノイは現地住民を懐柔するべくインフラ整備に代表される開発支援も積極的に進めてきた。


「「「おぉーッ!!!」」」


開発支援の一環として提供されたネックバンド型翻訳機を装着した"アフリカ人有志"たちの掛け声がロビーに響き渡る。


一方、このタイミングで大声を出されるとは思わなかったルナサリア人兵士の何人かは明らかに驚いていた。


「(士気が高いのは良いことだけど、果たしてどうなるかしらね……)」


周囲の騒ぎをよそにミヅキ隊の隊長フタバは"蒼い悪魔"との再戦に向けて思いを巡らせるのだった。

【ネックバンド型翻訳機】

ヘッドバンドが首の後ろ側に来る形式のヘッドフォンに翻訳機を組み込んだ、ルナサリアンの制式採用装備品。

旧ルナサリアン製だが地球の言語同士でもある程度正確に翻訳できるためか、鹵獲品やデッドコピー品が地球側の正規軍で使用されていたという。

皮肉にもこういった事情によってルナサリアン製翻訳機は高く評価されることになり、戦後のルナサリア共和国ではヘッドフォン組み込み型翻訳機など音響機器が主要輸出品の一つとなっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ