【53】友情は砕かれた
【2026/7/23追記】
改行の形式を後半のエピソードと統一させるように修正。
初期版から文章を一部修正。
※ストーリー展開自体に変更点はありません
雪煙を巻き上げながら山肌をホバー走行で疾走するミキのタマモートナ。
「(セシルはまだ反応していない! この一突きは確実に入る!)」
大型機ゆえ大推力スラスターを搭載できる赤いMFの機動力はかなり高い。
優れた速度性能を活かせば、セシルのオーディールM3が防御態勢に入る前に攻撃を決められる――ミキは自信を持ってビームブレードを突き出す。
「……!」
「なッ――!?」
ただし、その一撃を蒼い可変型MFはヒット直前に上半身を動かすだけでヒラリと躱していた。
ミキのタマモートナの格闘攻撃は速度・正確性共に申し分無かった。
雪が積もった地面を踏み締めている蒼い両足は1ミリも動いていなかった。
「(機体を少し捩っただけで躱した!? くッ……でも、回避の後隙を狙えば!)」
刺突を回避されたミキは地面を使って急制動を掛け、機体を一気に方向転換させて今度はビームブレードを縦に振るう。
「遅い!」
「しまった!?」
しかし、今度の一撃も不発に終わってしまう。
セシルのオーディールは左手首でミキのタマモートナの右手を完全に受け止めていたのだ。
「(こっちが再攻撃に入る前に防御態勢を整えているなんて! 反応速度は当然として、回避運動の隙の無くし方が明らかに上手い!)」
ミキ機の一連の行動はわずか10秒未満の出来事。
それに反応して再度防御態勢に入っていた、セシルの常識外れの能力には舌を巻かざるを得ない。
「くそッ! くそッ!」
「無様だな……思考停止のヤケクソな攻撃など余裕で見切れる」
一撃離脱戦法は動きを読まれやすく効果が無い――。
そう判断したミキは激しい連撃に切り替えるが、そのラッシュでさえセシルの前では児戯に等しかった。
「(セシルの言う通りね……刺突も斬撃も両腕でのカバーリングで全て防がれている。もっと別の……彼女の想定を超える攻撃を繰り出さなければ)」
蒼いMFはやはり一歩も動くこと無く全ての攻撃を捌いている。
状況打開のためミキは頭をフル回転させる。
「(今までは同じ高さで戦ってきた。じゃあ……鷲のように飛び、鷹のように襲い掛かる一撃ならば……!)」
平面的な動きがダメなら縦の動きを積極的に取り入れる――。
当然の結論に至ったミキはスロットルペダルを一気に踏み込み、大柄な愛機タマモートナを跳躍させる。
「ッ!」
思考停止状態から脱した新たなアクションを警戒したのか、セシルのオーディールは一騎打ち開始後初めて身構えるのであった。
◆
「くッ……!」
空中でタイミングをズラしながらスラスターを噴かし、ビームブレードを構えて"鷹のように襲い掛かる一撃"を繰り出すミキのタマモートナ。
「新たな動きを取り入れるのは良い試みだ……だが!」
「ぐッ……!?」
その強襲攻撃をセシルのオーディールは軸足の動きを最小限に抑える動作で回避。
そして、ビームブレードが地面に突き刺さり致命的な隙を晒している赤いMFの背中に左腕で肘鉄を叩きこむ。
致命的ではないが回避不能なカウンター攻撃を食らったミキ機は堪らず転倒してしまう。
「戦場は訓練場ではない! アクションを試すならシミュレーターで済ませておくべきだったな!」
うつ伏せで倒れ込んでいる赤いMFの方を振り向き、ビームソードを再抜刀しながらついにその場から動くセシルのオーディール。
慣れない動きをぶっつけ本番で試すからこういう結果になるのだ。
「……私が一思いにトドメを刺してやる」
「くそったれ! やらせるかよッ!」
倒れたままのタマモートナに対して蒼いMFがビームソードを振り下ろさんとしたその時、別行動中であるはずのシンの声と同時に灰色のワイヤーが霧の隙間から現れる。
「何ッ!?」
先端部にクローが装備されたワイヤー――通称"ワイヤーアンカー"はセシルのオーディールの右腕に絡み付き、見た目から想像できない拘束力で蒼いMFの振り下ろし動作を妨害する。
「ミキ! さっさと立ち上がれ! ワイヤーアンカーを振り解かれる前に!」
飛行支援機フライトリフターを乗り捨てたシンのトーメリーサは山肌に勢いよく着地。
右腰側の巻き取り機で拘束力を維持し、ミキが体勢を立て直すための時間を稼ぐ。
「チッ! ブフェーラ1、援護しろ!」
「了解!」
ワイヤーはビームソードを押し当てれば溶断できるが、その一手間による隙の発生を惜しんだセシルはリリスに援護を指示。
彼女の数少ない言葉から意図を汲み取ったリリスは乗機オーディールを変形させつつビームソードを抜刀し、千切れないよう僅かに緩められていた灰色のワイヤーを通り際に一刀両断していく。
「僚機を上手く使いやがったか……!」
処理に手間が掛かる自分ではなく、あえてワイヤーだけを斬ることを選んだ"蒼い悪魔"の判断力に驚きを隠せないシン。
これは長年に亘り同じ戦場を翔けてきた戦友同士でなければ成り立たないコンビネーションだ。
「はああああああッ!」
「ッ……!」
かくして、体勢を立て直したミキのタマモートナと拘束を振り解いたセシルのオーディールは再び交錯する。
リアクションタイムに自信を持つ後者の反応が僅かに遅れたように見えたが……。
◆
「ミキッ! くそッ、霧のせいで状況が視認できん!」
千切れたワイヤーアンカーを収納したシンは相方の状況を確認しようとするが、真っ白な濃霧により機影を目視することができない。
「ガールフレンドよりも自分の心配をしたらどうだ!」
一方、本作戦を通して巧みなアシストが光るリリスは桜色のMFに対するマークを継続。
時折レーダー画面上から消えるステルス機を肉眼で捉え続け、ビームソードによる連続攻撃を仕掛ける。
「ほーう? そっちは相棒のことを信頼しているようだな?」
激しい連撃を忍者のように鋭敏な動きで躱しつつ、いよいよ回避が困難となってきたところでシンのトーメリーサは両手首外側に装備された固定式ビームダガーを展開。
武器の出力差から完全に受け止めるのは難しいため、避け切れない攻撃だけを確実に弾いていく。
ジャパニメーションさながらのアクションを見せつつもオリエント国防軍の無線周波数で挑発してくる辺り、シンはまだまだ余裕を持っていそうだ。
「彼女は一騎打ちに限れば世界最強だ。心配などする必要が無い」
無論、冷静沈着なリリスは挑発に乗ること無く戦闘を続けていく。
その言葉には親友への強い信頼が表れていた。
「……やるな。この私に一突きを入れるとは」
「はぁ……はぁ……!」
同じ頃、セシルのオーディールとミキのタマモートナはお互いに攻撃が入った状態で擱座していた。
前者は左肩、後者は左胸部をそれぞれ大きく損傷している。
「だが、自惚れるなよ。お前の首筋に当てられているビームソードは、"実戦"ならお前の上半身を容赦無く蒸発させていたことを忘れるな」
もっとも、判定としてはセシルの勝利と言えるだろう。
彼女のオーディールの損傷は致命傷ではない反面、同機が握り締めているビームソードはタマモートナのコックピット左側を確実に捉えていた。
仮にもう少しズレていたらコックピットを抉り取っていたはずであった。
◆
セシルのオーディールはビームソードを停止させ、ゆっくりとその場から立ち上がって後退りする。
「"実戦"ならお前はもう死んでいる。しかし、今日の戦いは"セミナー"だ。お前に実力の差というヤツを分からせるための――な」
あのままトドメを刺すこともできただろう。
瞬間的な反応ならば彼女は負けない。
それをしなかったのは現時点における実力差があまりにも大きく、一方的な虐殺になると感じたからだ。
「……」
対等な対戦相手と見做されていない事実に猛烈な悔しさを抱き、言葉を出すことができないミキ。
親友はその気になればいつでも自分を殺せるのに、わざと手加減し続けていたのだ。
「とはいえ、お前の確固たる意志は剣を交えたことでよく分かった。無理に連れ戻すのは諦めよう」
もっとも、レヴォリューショナミーの活動にのめり込むミキの熱意はセシルにも伝わっていた。
彼女は愛機オーディールのコックピット内で首を横に振り、この場は見逃すことを宣言する。
「その代わり……次に戦場で会う時は容赦しない。私も本気でお前を殺す」
ただし、二度目は一切手加減しないと言い残して……。
「ブフェーラ1、タイムリミットだ! AWACSに小言を言われる前に撤退するぞ!」
天候悪化までのタイムリミットは既に1分を切っている。
セシルは機体を急上昇させながらここまでよく頑張ってくれたリリスにも撤退を促す。
「本当にいいのかい?」
「……構わん。どちらにせよ新しいボーイフレンドがいる状況では連れ出せないだろう」
この機を逃がしたらミキを説得するチャンスは永久に失われるかもしれない――。
リリスの忠告にも動じているようには見えないセシルの本心は……。
【ワイヤーアンカー】
極一部のMFに見られる特殊装備。
先端部に"アンカー"と呼ばれる簡易的なマニピュレーターを装備しており、ワイヤーアクションのように扱うことで搦め手として機能する。
攻撃や敵機の拘束、自機の固定など応用例は様々だが、使いこなすには相応の技量を要するという。
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