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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-7】Keep Your Friends Close...

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【50】IMPULSE

 灰色の雪雲に覆われつつあるアルプス山脈上空で4機のMFが邂逅かいこうする。

「目標確認! あれは……MFか?」

遠方から敵部隊の機影を確認したセシルは判断に迷う。

機影は確かに人型ロボットだが、MFとしてはレーダー画面上での反応が少しばかり大きかったからだ。

「飛行支援機を使っているみたいだ。水上オートバイのようなメカに乗っている」

その原因は同じく敵部隊を捉えたリリスが突き止める。

どうやら、敵MFは近年すっかり見かけなくなった飛行支援機に搭乗しているようであった。

「ならば水上オートバイ諸共叩き落としてやる! ターゲット、ロックオン!」

誰がどんな手段でかかって来ようと関係無い。

セシルは愛機オーディールM3のウェポンベイを開き、先手を打つべくマイクロミサイルのシーカーに敵部隊を捉える。

「あっちの方が長射程か! 散開ブレイクしろ!」

「くッ……!」

一方、それを察知しながらも同等の射程の攻撃手段を持たないシンは回避を選択。

一網打尽にされないよう僚機のミキを散開させ、先制攻撃を許した後の隙を突くことを意識してエレメント(2機編隊)を動かす。

「ゲイル1、シュート!」

「ブフェーラ1、シュート!」

大方の予想通り、先に動いたのはセシルとリリスのオーディール。

2機の蒼い可変型MFは全く同じタイミングでマイクロミサイルを鬼のようにバラ撒き、逃げ場の無い濃密な弾幕を形成する。

「(あの動き方……見間違えるはずが無い! まさか、こんなところで出くわすなんて!)」

相方シンの迅速な判断もあって何とかミサイル攻撃をかわすことができたミキ。

だが、彼女は動揺していた。

2機の蒼いMFの鋭い機動には見覚えがあったからだ。

「相変わらず良い機体に乗ってやがるぜ。だが、こっちも"フライトリフター"があれば機動力勝負ができる!」

また、同業者としての視点からシンも相手が只者ではないことを見抜いていた。

彼が搭乗する"XREV-005 トーメリーサ"はステルス性を重視した小型強襲機。

設計上の制約から機動力が若干犠牲になっているが、それをオプション装備のブースターユニットや飛行支援機"フライトリフター"の使用で補っている。

「(しかし、初動の良さは間違い無くエースドライバーのそれだった。というか、あのオーディールは――ヨーロッパに来ていると噂は聞いていたんだがな)」

最初のポジショニングから先制攻撃後までの手慣れた動きは並のMF乗りではない。

そして、一瞬だけ視認できた蒼いMFの部隊章とパーソナルマークに気付いたシンは全てを察する。

「カネヒキリ、敵機は最高に手強い奴らだぞ! 単独戦闘は禁止!」

「り、了解……!」

オリエント連邦の"ゴールデンコンビ"相手にルーキーをぶつけるわけにいかない。

シンはミキが孤立して各個撃破されないよう、彼女をフォローするように動き始めるのだった。


「ゲイル1、相手の実力についてはどう見る?」

態勢を立て直しながら2機の新型MFの戦闘力について見解を求めるリリス。

「片方は相当のやり手と見た。しかし、もう片方の赤いMFに乗ってる奴は大した腕ではなさそうだ」

その質問に対してセシルは極めて率直な感想を述べる。

片方――トーメリーサは先制攻撃の回避行動だけを見ても非常に良い動きをしており、これに関しては敵ながら高い評価を与える。

本気で一戦を交える場合は脅威的な存在となるだろう。

他方、今のところ凡庸な機動しか見せていない赤い大型MFへの評価は辛辣であった。

「私もそう思う。これまでのエースと比べるのはかわいそうだけど、一回り以上落ちるのは確かだね」

親友の言葉にはリリスも全面的に同意する。

これまで対峙してきたレヴォリューショナミーのエースが一筋縄ではいかない実力者ばかりだったことを考えると、今になって赤い大型MFのような"アマチュア"が出てきたのは拍子抜けと断言せざるを得ない。

「倒しやすい敵から倒すのは戦いの基本だ。全く、機体は良くてもドライバーが今一つではな……!」

「(機体性能に頼るタイプが一番嫌いだからねぇ……)」

とはいえ、レヴォリューショナミーのワンオフ機は基本的に性能が非常に高い。

機体性能による力押しを警戒しつつ、セシルとリリスは再び攻撃準備に入る。

「ゲイル1、ブフェーラ1! UAV(無人戦闘機)の行動パターンが変化した! お前たちを狙っているようだ!」

そして、敵は有人の新型MFだけではなかった。

AWACSエイワックス"ソルシエール"は無人戦闘機群の動向をレーダー画面で注視し、セシルたちに最大限の警戒を促す。

「くそッ、こういう人気者は勘弁してほしいね……!」

「さすがに敵戦力が多すぎる! 戦闘中止! 撤退しろ!」

リリスはまだ軽口を叩ける余裕を見せているが、いくらなんでも多勢に無勢だと判断したソルシエールは一転して撤退命令を下す。

「UAVが交戦距離に入るまでは時間がある! それまでにできる限り敵エース機のデータを収集する!」

しかし、その命令をセシルはハッキリと拒否するのであった。


「命令に従え!」

当然ながら軍隊において命令違反は重罪である。

たった一人の問題行動が当人のみならずソルシエールやリリスをも巻き込んだ不祥事に発展し得るのだ。

「階級が目上の者に命令するのか、少佐?」

「くッ……貴官の発言はオリエント国防軍に報告させてもらう」

最終警告に対するセシル上級大佐(=准将相当)の返答は、階級による上下関係を持ち出した事実上の脅迫行為。

明確な脅しを掛けられたソルシエールは交信記録が全て録音されていることを確認し、その傲慢さに眉をひそめながら然るべき対応を取ることを告げる。

「この判断に対する責任は最上級士官たる私が全て負う。それならば貴官が軍法会議に掛けられることはあるまい」

自身の能力に絶対的な自信を持つセシルには自覚があった。

だから、彼女は傲慢であり続けるために責任を背負う。

自らのワガママで罰せられるのは自分だけでなければならない。

「フッ、とんだ職権乱用だね」

親友の思考回路をよく知っているリリスは笑っていた。

「ブフェーラ1、あの小型機の方から優先的に叩くぞ!」

「了解!」

AWACSを強引に説得したセシルは小型機――トーメリーサへの集中攻撃を提案。

彼女に追従できる数少ないMFドライバーであるリリスはすぐに承諾し、次の攻撃に向けたポジショニングを再開する。

「(悪く思わないでよ。ナメられるような腕前で戦場に出てくるヤツの方が悪いんだから)」

脅威度が低いと見做され放置気味の赤い大型MFのドライバーには同情するが、それは当事者の能力が原因だと心の中で指摘するリリス。

もっとも、ナメている相手が自分の知り合いだとはこの時点では想像もつかなかったようだが……。

「(俺にターゲティングを絞ってきたか……厄介だが正しい判断だ)」

一方、"蒼い悪魔"たちから強敵と見做されているシンは乗機トーメリーサを介してフライトリフターを巧みに操り、2機の可変型MFが容易に照準を定められる状況を作らせない。

「カネヒキリ! 俺を援護しろ!」

「分かってるけど!」

状況打開のためには連携で対抗することが必要不可欠だ。

シンは自らの安全確保で手一杯なミキに援護を要求するのだった。


「(こっちは多少のステルス性がある。レーダーの死角に入れば一瞬だけ気配を消すことができる)」

シンの愛機トーメリーサはかつて"忍者のようなMF"を設計したと云われる、伝説的エンジニアが生涯最後の作品にするつもりで手掛けたMF。

忍者に例えられるそのステルス性はシンプルながら費用対効果に優れており、ポジショニングを工夫すれば敵機のレーダー上から完全に消えることもできる。

航空機のレーダーは全方位を常にカバーしているわけではなく、搭載位置の関係上どうしてもレーダー波を照射しにくい死角が生じるためだ。

「ブフェーラ1、ファイア!」

桜色をメインカラーとするこのMFは確かに敵に回すと厄介な特性を持つ。

だが、豊富な実戦経験と極めて高い技量を有するリリスはレーダー上に一瞬だけ映るタイミングで敵機の位置を予想し、それを頼りにレーザーライフルによる正確な射撃を行っていた。

「(まあ、電子的沈黙を保っても姿を見られていたら厳しい展開になるけどな……)」

いくらステルス性が高くとも機体その物の姿を消すことはできない。

シンのトーメリーサはフライトリフターを巧みに操り攻撃を回避し続けているものの、このままでは埒が明かない。

小型強襲機たる彼の愛機は盤面を一気に覆せるほど強力な武装は持ち合わせていないのだ。

「(敵機の装備はどちらもレーザーライフル、そして眼下には一面の雲の海。これを利用しない手は無いぞ)」

MFドライバーとしてのシンの持ち味は、優れた観察眼とそれに裏打ちされた引き出しの多さ。

敵機たちが自身のことを観察しているのと同じようにシンも"蒼い悪魔"の装備構成を予想し、同時に戦闘エリアの状況を見ながら膠着状態を打ち破るための策を練る。

そして、彼は雄大なアルプス山脈に広がる雪雲に活路を見出した。

「ゲイル1、ファイア! ファイア!」

「ぐッ……!」

今度はセシルのオーディールの連続射撃が桜色のMFに襲い掛かる。

それに対してシンはスロットルを開いたままブレーキを掛けることでフライトリフターを意図的に失速させ、落ちるような急降下で雪雲の中へと逃げ込むのであった。

【飛行支援機】

MFを搭乗させて長距離飛行することができる、超小型航空機を指す。

黎明期から21世紀末頃までのMFは飛行能力や航続距離が今よりも低かったため、機動力を補強する様々なアイデアが試された。

飛行支援機は主にオリエント連邦で盛んに用いられた方法で、MF自体の性能が向上し必要性が薄れた後も技術ノウハウは無人機開発などに活かされている。

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