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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-7】Keep Your Friends Close...

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【48】山頂晴れて(後編)

 MR-201 超長射程MF用対レーダーミサイル"アローキャリー"――。

その名の通りレーダー波を発する目標を遠距離から攻撃するためのミサイルである。

オーディールM3はこのミサイルを最大4発まで搭載することができた。

「(対レーダーミサイルを持って来たんだけど……この天候だと使い辛いかも)」

しかし、非常に優秀な性能にもかかわらずスレイ以外の面子はMR-201を装備していなかった。

これは悪天候がミサイルの誘導能力を低下させるという不安要素のほか、単純にセシルやアヤネルは手動照準による射撃の方が得意という事情もあった。

「(いや、ミサイルの誘導能力の阻害要因は雪雲だけ。雲を避けるような軌道で発射すれば当てられる)」

確かにスレイの技量は他の2人には多少劣るかもしれない。

だが、彼女はミサイル系兵装の扱いに誰よりも長けていた。

搭載中のミサイルの能力と戦闘空域の状況を照らし合わせ、最善手を頭の中で瞬時に計算できるのは正真正銘の才能だ。

「(高度を上げると対空兵器が怖いな。それに雲越しだと探知距離が落ちるのは相手も同じだし、そのメリットは活かさないとね)」

雲を避ける方法として真っ先に考えられるのは、雲よりも高い高度まで上昇すること。

同時に高度を上げると対空兵器に狙われるリスクも上昇する。

スレイは電波を減衰させる雪雲の存在に着目し、これを利用しない手は無いと考えていた。


「(ミサイルの誘導方法をセミアクティブに変更――っと)」

MR-201は目標が発するレーダー波を捉え、その方向に飛翔するパッシブ・ホーミングが基本的な動作モードとなっている。

ただし、柔軟な運用のために誘導方法はドライバー側の操作で変更することもでき、スレイはあえて動作モードをセミアクティブ――自機が照射したレーダー波の反射をミサイルに拾わせる誘導方法に切り替えていた。

「ゲイル2、ARMシュートッ!」

まずは雲が無い方向に向けて対レーダーミサイルを発射するスレイのオーディール。

「ゲイル2、ミサイルを無駄使いするな!」

「誘導に集中するから黙ってて!」

それを早期警戒管制機のレーダー画面で確認したAWACSエイワックス"ソルシエール"は無駄撃ちを注意するが、自分の作戦に自信を持つスレイはあえて聞き入れない。

「(こうやって……雲を掠めるように針路を修正して……)」

セミアクティブ・ホーミング中のMR-201は発射母機――スレイのオーディールがレーダー波を照射している対象に向けて飛翔する。

スレイは自機の機上レーダーで対象を捉えたり意図的に照射をズラしたりすることで、ミサイルの針路をほぼ手動でコントロールしていく。

「ゲイル2、そちらに敵機が向かっているぞ! 応戦しろ!」

セオリーから外れた行動に敵無人戦闘機のAIも違和感を抱いたのだろうか。

エアカバー担当のリリスと交戦していた無人戦闘機たちは攻撃対象を変更し、ミサイル誘導中のため機動を制限されているスレイ機の方へと向かい始める。

「目標の位置座標及びレーダー波を記録! 誘導方法をパッシブに変更し離脱!」

だが、幸運にもそのおかげでレーダーサイトの防衛は完全に手薄となった。

スレイは自機の機首を目標に向けるとその時のパラメーターをミサイルにインプットさせ、誘導方法をパッシブ・ホーミングに戻しながら対空戦闘の態勢に入る。

「(せっかくあれこれと工夫したんだから、ちゃんと命中してよね……!)」

ミサイルが想定コースを飛んでいることを確認しつつスレイのオーディールは雪雲の中に突入。

自身は文字通りの雲隠れで無人戦闘機のセンサー類を欺き、空戦における有利なポジショニングを狙う。

「命中! レーダーサイト3基目の沈黙を確認!」

自然環境を利用した駆け引きを繰り広げている間にスレイ機が発射した対レーダーミサイルは目標に命中。

ソルシエールはレーダー画面上から目標が消滅したことを確認する。

「(ゲイル隊……なぜお前たちは常に我々の想定を上回ることができる?)」

AWACSの心中は複雑であった。

"蒼い悪魔"と呼ばれる者たちの戦闘力は大変頼もしく、しかしそれゆえに大変恐ろしくもあった。


「(さて、私は一番遠いレーダーサイトを片付けるとするか)」

一方その頃、セシルは隊長らしく最も面倒な場所にある攻撃目標へと向かっていた。

「注意! 敵にレーダー照射を受けている!」

「くッ、もう稼働可能になっているのか」

彼女が担当することになったエリアのレーダーサイトは他よりも工事が進んでいるらしく、高度を上げるとすぐにレーダー照射(とAWACSの警告)が飛んでくる。

これはセシルにとっても想定外の事態ではあった。

「(高度を上げるとやはり狙われるか……ならば、これはどうだ?)」

攻撃に適した高度ではほぼ例外無く捕捉されると判断したセシルは思い切った策に出る。

彼女のオーディールはあえて高度を落とし、作戦開始時よりも目に見えて量が増している雪雲の中へと突入する。

「ゲイル1、雲の中は避けて飛行しろ。確かにレーダー波を撹乱させることはできるが、地形に接触する可能性がある」

「(レーダーはその性質上、自身よりも下方に対する索敵を苦手としている場合が多い)」

ソルシエールの声が遠くなるほどの集中力で灰色の世界を飛び続けるセシルのオーディール。

レーダーは自身が照射した電磁波の反射で対象を捕捉する。

つまり、自然の地形や建造物といった阻害要因が多い地上方向にレーダー波を照射した場合、望ましくない反射(クラッター)で目標識別が困難になることがあるのだ。

「(今日は幸運にも峡谷に雲が出ている。それを利用すればギリギリまで捕捉されずに接近できるかもしれん)」

そして、内部で雨や雪が吹き荒れる積雲はレーダー波を遮断する天然の防壁となり得る。

アルプス山脈の谷間を飛べばレーダーサイトの監視網を掻い潜ることができるだろう。

「(部下に無理難題を課した身だ。自分も同等以上のわざを見せなければ面目が立たないからな)」

セシルは部下のアヤネルに"単機でのレーダーサイトへの対処"というタスクを与え、優秀な部下はそれを予想以上の結果で達成してみせた。

有能な人材は同等以上の人物にしか付いてこない――セシルには自らの優れた能力を示し続ける義務があった。

「ゲイル1! くそッ、オリエント人ってのはそんなに雲の中が好きか」

「(嫌いではないかもしれん。余計な景色が見えなくなる代わりに、頭の中はクリアになる――ような気がする)」

極限の集中状態ではAWACSの声は聞こえない。

周囲の風景も灰色に固定され何も見えない。

このグレーバックの精神世界にはセシルのオーディールしか存在しない。

「(空は……好きだ。純化された思考で永遠に飛び続けることができるから)」

セシルは幼少期から空に憧れていた。

その憧れは航空宇宙大学を経てオリエント国防空軍のMFドライバーとなることで結実した。

「(……もうすぐ雲が途切れる。現実に戻ってトリガーを引く時が来た)」

もちろん、彼女は"職業軍人"であることも忘れてなどいない。

無限に広がっていた精神世界という空から舞い戻り、右操縦桿のトリガーに人差し指を掛けるのだった。


「ゲイル1、ファイアッ!」

灰色の雪雲から抜ける直前、セシルは右手の人差し指に一瞬だけ力を込める。

次の瞬間、彼女のオーディールの右脚部ハードポイントに装備されたロケット弾ポッドが火を噴き、5発のロケット弾が一斉発射される。

少し上向きの角度で射出されたロケット弾は放物線のような弾道を描いてレーダーサイトに着弾する。

「ぜ、全弾命中! レーダーサイト6基目の沈黙を確認!」

遠距離になるほど弾が散らばり命中精度が低下するとされるロケット弾だが、ソルシエールが見ているレーダー画面上では5発全てが目標及び周辺の対空兵器に直撃していた。

不利な条件下――しかも発射数を意図的に抑えた状態で命中率100%を達成できるMFドライバーなど彼は数えるほどしか知らなかった。

まさか、その数少ない一人と任務で共闘できるとは……。

「お前の部下は雲を貫いて攻撃した。そして、お前は雲の中から攻撃を仕掛けたというわけか」

自分が管制している面々の神業について自分自身へ説明するように呟くソルシエール。

「お前の実力は既に誰もが認めている。なのになぜ困難を乗り越えることで自分の力を見せつけようとする?」

セシル・アリアンロッド――ルナサリアン戦争における最多撃墜数を記録した、世界最強クラスのMFドライバーの一人。

その評価と名声は確固たるモノであるのに、なぜ求道者の如く強さを極め続けるのかとソルシエールは問う。

「……私自身が己の限界を知り、更なる高みを目指すためだ。そして、その姿勢が仲間たちから"尊敬リスペクト信頼トラスト"を得ることに繋がると確信している」

周囲がどれだけ褒め称えようともセシルは自分自身の強さに満足などしていなかった。

事実、彼女はルナサリアン戦争の最終決戦における一騎討ちで左腕を失うほどの苦戦を強いられた。

そして何より、仲間たちは自分を目標にして戦闘技術を磨き続けているという。

目標というのは常に人々の行く先になければ意味が無い。

「"現状維持は後退と同じなり"――オリエント語のことわざだろう?」

オリエント人の意識の高さをソルシエールは以前聞いたことがあるオリエント語の諺で表現する。

「その比類無き向上心と底知れぬ才能がお前の強さ――か」

彼はセシルの強さの秘訣をこのように分析していた。

才能溢れる天才が努力家でもあったら手の付けようが無い。

「言われてみればそうかもしれないな……強さを追い求めることは雪原を延々と歩き続けるようなモノだ」

これまで一度も意識したことは無かったが、AWACSから指摘を受けたセシルは無意識のうちに頷いていた。

「(無限に続く道の先に、自分が望む答えがあると信じて……)」

MFドライバーとしての強さを極めた先に何が待っているのか――。

セシルの持つ圧倒的なチカラが不可視の黒い"オーラ"となり、彼女のオーディールを包み込まんとしているのが答えの一つなのかもしれない。

【ARM】

Anti-Radiation Missile(対輻射源ミサイル)の略称。

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