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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-5】It's So Hard

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【32】因縁の再戦

 時々地上から発射される地対空ミサイルを回避しながら市街地上空を飛行すること数分、セシル率いるゲイル隊はついにレイキャヴィーク空港を射程圏内に捉えていた。

「(後方からの追跡機は無し――リリスたちは上手くやっているようだな)」

ゲイル隊の背後に敵航空戦力の姿は確認できない。

セシルの命令により別行動中のブフェーラ隊が足止めしてくれているからだ。

「(そっちが片付いたら合流してくれよ)」

非常に高い戦闘力を誇るブフェーラ隊の勝利は手堅い。

親友が率いる小隊のことはあまり心配せずにセシルは前だけを見て進む。

「隊長! 攻撃目標の空港周辺に多数の敵影を確認しました!」

夜襲を想定している敵の裏を掻き、あえて昼間に攻勢を仕掛ける――。

その奇策は一定の効果を上げていたが、さすがにレイキャヴィーク空港は迎撃態勢への移行を完了させていたようだ。

スレイの報告と同時にH.I.Sホログラム・インターフェースのレーダー画面に敵機を示す赤い光点が大量出現する。

「MFにしてはデカいヤツもいる! 此間こないだの黒い機体だ!」

敵航空戦力の内容は即応性に優れる無人戦闘機LUAV-02とバイオロイド専用可変型MFリガゾルドが多数。

そして、一流レベルの高い実力を持つアヤネルが警戒心を抱くほどのデカいヤツ――ナイトエンドがその大編隊を率いていた。

「(私たちの主目標はあくまでも空港に配備された敵戦力の無力化。しかし、黒いMFを残した状態での対地攻撃は危険を伴う。背後からの一突きは避けたいところだが……)」

セシルは作戦の成否を左右するかもしれない決断を迫られる。

彼女たちに与えられている任務の遂行を優先するならば、迎撃機との交戦は必要最低限に留めるべきだ。

だが、それは厄介な敵エース機の放置という極めて危険な状態での作戦行動を意味する。

ナイトエンドは常にマークしておくべき敵機だとセシルは考えていた。


「目標を射程内に捕捉! アーベントより各機、"槍"を放て!」

今日のクロエは珍しく初めから本気モードだ。

彼女が号令を出した次の瞬間、ナイトエンドを含む各機から"槍"――超長射程MF用空対空ミサイルが一斉に発射される。

接近戦に突入する前に先手を打って叩き潰すつもりらしい。

「全機散開(ブレイク)! ゲイル2と3はエレメントを組んで空港の防衛戦力を排除しろ!」

遠方からの先制攻撃に冷静に対応したセシルは部隊を再集合させず、僚機には2機編隊を組ませての別行動を命じる。

二人にはレイキャヴィーク空港内外に展開する敵戦力の掃討を任せる。

「隊長は単独で――黒いヤツとやり合うつもりか!?」

相手は幸運に恵まれたとはいえ先の戦闘でセシルを撃墜寸前まで追い詰めた強敵。

そんなエースとの一騎討ちはリスクが高いとアヤネルは遠回しに指摘する。

「ブフェーラ隊が合流するまでの辛抱だ! 私は持ち堪える自信がある!」

部下が心配する気持ちはよく分かるしありがたい。

しかし、チーフエンジニアと協力して対抗策を編み出してきたセシルは"二度と同じ負け方はしない"という意気込みを示す。

「……お前たちは自らの役割に集中しろ」

「隊長……!」

そう言い残してフルスロットルで青空を翔け上がるセシルのオーディール。

その驚異的な加速力はスレイの心配げな声を完全に振り払っていた。

「ふぅん? 一人でこの大部隊を相手取るつもりとは……そういうことをするのはセシル・アリアンロッドなのよね」

天翔ける蒼い可変型MFを視界内に捉えながら自らも推力を上げて追跡するクロエのナイトエンド。

「各機、UAVのコンバットパターンをプランDに変更する! UAVと連携して"蒼い悪魔"を追い詰める!」

彼女が駆る漆黒の大型可変MFは高い指揮統制能力を有しており、それに含まれる機能の一つとして"無人戦闘機の高度な管制"があった。

通常は地上の発令所や搭載AIの自己判断により大まかな行動パターンを決めるのだが、ナイトエンドとデータリンクしている場合は最前線で作戦行動中の同機から細かい指示を送れるのだ。

ナイトエンドを中心に多数の無人戦闘機とバイオロイド専用MFで構成される航空部隊は、従来の有人機主体の編隊よりも低コスト且つ強力な戦力を用意できる可能性を秘めていた。

「(まずはできるだけ空港から引き離す。さあ、私という疑似餌ベイトに食い付いて来い)」

僚機たちへの負担を減らすべくセシルは自分に多くの敵機が集まるように動く。

"ルナサリアン戦争を戦い抜いた列強諸国のトップエース"という経歴は敵にとっては最高級の餌だ。

「(流石に速い! でも、高速域からはこっちの方がよく伸びる!)」

オーディールの中速域での加速力にクロエは感嘆しつつも、愛機ナイトエンドが得意とする高速域に入ってからは逆に蒼いMFとの距離を少しずつ詰めていく。

「マイクロミサイル、シュート!」

高度10000メートル以上の成層圏に入る辺りで蒼いMFを射程距離に捉えた瞬間、クロエのナイトエンドはマイクロミサイルを一斉発射するのだった。


 雲一つ無い宇宙に近い場所での空中戦は意外なほど静かであった。

これは成層圏を飛びながら互いに出方を窺っており、無言のプレッシャーで牽制し合っていたからだ。

「(黒いヤツを仕留めて指揮系統を乱したいが、迂闊に飛び込めばこちらが袋叩きだ)」

敵部隊に包囲されないよう注意しつつターゲットの選定を行うセシル。

最大級の脅威ゆえ優先的に狙うべきは黒いヤツ――ナイトエンドだが、周囲に展開する無人戦闘機の護衛が分厚いため接近自体が難しい。

現在は単独行動中なので僚機の助けを借りることはできない。

「(外縁部から着実に減らしていくか)」

こういう時は堅実な戦い方でチャンスを待つべきだろう。

セシルのオーディールは速度をなるべく落とさない緩やかな旋回で攻撃態勢に入り、手近なバイオロイド専用MFリガゾルドに狙いを定める。

「ファイア!」

マッハ2近い相対速度でのすれ違いざま、オーディールの機体下面に装備されたレーザーライフルの銃口が蒼く光る。

ほんの一瞬の攻撃チャンスを超人的な反射神経で捉え、セシルは操縦桿のトリガーを引いていた。

「1機撃墜された。姫、パターン修正を」

人工的に作られた高能力人間であるバイオロイドは感情というモノを持たない。

僚機の損失を確認したバイオロイドNo.911"アニア"は淡々とした口調で自身のマスターたるクロエに報告し、撃墜された機体の穴埋めによるフォーメーション維持を促す。

「粘り強いねぇ……さっさと墜ちてくれないかしら」

「誰が墜ちるものか。貴様の手口は解析させてもらった」

包囲網を簡単には作らせないほど良い動きをしてくる蒼いMFに向けてクロエが露骨な悪態をくと、今度は所属勢力問わず送受信可能なオープンチャンネルで蒼いMFの搭乗者――セシルから応答が返ってくる。

「(あのが口を滑らした……? いや、そうだとしてもあたしの作ったウイルスを簡単にリバースエンジニアリングできるわけが……)」

クロエが作成したウイルス――アンチアビオニクスウイルスは第三者による解析ができないよう意図的に"スパゲティプログラム"で組まれており、大手IT企業の一般社員レベルでは理解不能なシロモノとされている。

彼女は短距離戦術打撃群に潜伏しているというスパイから情報が漏洩した可能性を懸念したが、それでも自身が組んだプログラムのセキュリティ対策には自信を持っていた。

「……じゃ、こうしてオープンチャンネルで話してる時点で"毒"が回ってるって知ってるでしょ?」

そして、アンチアビオニクスウイルスという"毒"がもたらす効力にも……!


「ああ、知ってるさ」

わざとらしい口調で珍しく挑発に応じるセシル。

この短期間でアンチアビオニクスウイルスを多少なりとも解析し、ギミックを解き明かしてきたらしい。

「だったら、そろそろ効き始める……よね?」

ならばウイルス活性化までの時間も把握しているはず――とクロエは小悪魔じみた笑顔で聞き返す。

「(む……操縦桿の挙動がおかしい。此間こないだと同じ症状だ)」

ここまで順調に戦いを進めていたセシルは突如操縦桿の感覚に違和感を抱く。

これは先のアイスランド中央高地の戦闘でトラブルが起きた時と全く同じだ。

「フフッ、この高度で操縦不能になったらどうなるかしら?」

蒼いMFの機動が鈍り始めたことを確認したクロエは勝利を確信する。

彼女の問題の答えは"制御不能のまま墜落する"だ。

「でも大丈夫! 地上へ墜落する前に撃墜してあげるから……!」

非常に厄介な存在である"蒼い悪魔"は叩ける時に必ず叩き、その息の根を止めておかねばならない。

無防備な状態でフラフラと飛び続ける蒼いMFを捉えたクロエの表情が悪魔のような笑みに変わる。

「今度は逃がさないのよね!」

無人戦闘機とバイオロイド専用MFの編隊から抜け出して攻撃態勢に入るクロエのナイトエンド。

満足な回避運動を取れない相手ならば機体下面に装備された接近戦用PDWでも撃墜を狙えるだろう。

「(OSの制御プログラムをバックアップに変更、セーフモードで再起動!)」

だが、チーフエンジニアたちと対策を講じてきた今回は一味違う。

セシルは電気系統が完全にシャットダウンする前に予備計器盤のコンソールパネルを操作し、予め用意しておいた予備の制御プログラムへの切り替えを試みる。

アンチアビオニクスウイルスに汚染されたメインプログラムを操縦系統から切り離す、言うなれば"トカゲの尻尾切り"のような手法だ。

「ファイア!」

クロエのナイトエンドの接近戦用PDWが火を噴く。

「コード"G-FREE"!」

蒼白い曳光弾は確かにセシルのオーディールを捉えていた。

しかし、操縦系統の切り替えと同時に時限式リミッター解除機能"G-FREE"を発動した蒼いMFは銃弾よりも速く動き、射線上からその姿を消していたのだった。

【Tips】

時限式リミッター解除はほとんどのMFで標準機能として用意されているが、発動時の性能の上がり幅は機体によって大きく異なり、一般部隊向けの量産機ではそもそも封印されている場合も多い。

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