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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-4】アイスランド上陸

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【29】徹夜作業

 現在時刻は夜中の11時過ぎ――。

あと1時間で日付が変わろうとしているにもかかわらず、短距離戦術打撃群艦隊旗艦アドミラル・エイトケンのMF格納庫は昼間のように明るく照らされていた。

「上級大佐、整備作業に関する報告書です。ご一読ください」

「ん……ハード面については問題無し、か」

徹夜作業を覚悟しているメカニックから報告書を手渡されたセシルはコーヒーを飲みながら内容を確認する。

普段の整備は信頼できるメカニックたちに任せているが、今回は"重大性のあるトラブル"ということでセシル自身も作業に立ち会っていた。

「操縦系統を分解して一通り確認しましたが、特に目立った破損箇所はありませんでした」

3年前からの付き合いであるメカニック曰く、トラブルの原因として真っ先に疑われた部分は全く問題無かったという。

「一応、消耗部品は全て新品に交換しています。我々メカニックにできる対策はそれぐらいですね」

念には念を入れて定石と言える対策は施したものの、これで解消されるのかは正直なところ分からない。

「予想通りの結果だな。操縦系統のフォースフィードバックの抜け方――あれは物理的に壊れたという感じでは無かった」

一連の報告を見聞きしたセシルは自らの推測を述べる。

見当が付いているのなら手間の掛かる分解整備はやらないでよかったと思うのだが……。

「ならばソフトウェアの問題ですかね……?」

「うむ、エンジニアに見てもらう必要があるな。戦闘中に再起動する際に学習データを初期化してしまったし、バックアップ済みのデータへ戻すついでに頼んでみよう」

メカニックのなかなか鋭い着眼点を肯定するように頷き、次はソフト面から原因究明に当たるべきだと答えるセシル。

「機体の整備は任せたぞ」

ともかく、メカニックたちの整備不良では無いと分かったことで彼女たちを責めずに済む。

その可能性が否定されたことに安堵しながらセシルは作業継続を命じる。

「ハッ!」

「セシル上級大佐!」

力強い敬礼で答えたメカニックが持ち場に戻っていった直後、今度はセシルの専属チーフエンジニアを務めるノエル・ド・ルイユ技術中尉が格納庫に現れる。

「どうした?」

「先程あなたがメカニックと話していた内容についてですが……気になる分析結果が出たので直接見てほしいんです」

重要そうな話であることを察したセシルが振り向くと、ノエルはエンジニア用タブレット端末の画面に"気になる分析結果"を表示させるのだった。


「これはあなたの機体のブラックボックスに記録されていたフライトデータのうち、操縦桿及びスロットルペダルへの入力やアクチュエータの動作状況をグラフ化したものです」

ノエルが持っているタブレット端末には色分けされたいくつかのグラフが表示されている。

素人が見ても何が何だかさっぱりだが、これはセシルの操作とそれに対する機体側の反応を可視化している。

「なるほど……戦闘開始後しばらくは入出力は正常なようだ」

「ええ、あるタイミングまでは機体の操縦系統は万全でした」

グラフを指でなぞったりしながら各種データの推移を確認していくセシルとノエル。

入力と出力の相関関係に問題は無いように見えるが……。

「……ここだな」

操縦桿及びスロットルペダルに掛かっている圧力を示すグラフが突如0になり、それ以降全く入力の痕跡が確認できない空白部分をセシルは指し示す。

画面上部には経過時間と日時も表示されているが、この時彼女は戦闘の真っ只中だったはずだ。

操縦桿に触っていない無駄な時間が存在するとは考えにくい。

「不自然に入力が途切れていますね。一方、データを見る限りアクチュエータに異常は発生していないように思われます」

また、ノエルは受け取った入力信号を物理的運動に変換するアクチュエータの数値にも着目する。

入力値が0である以上アクチュエータ側の出力値も0であるのは当然なのだが、これは単純に来るはずも無い入力信号を待っていただけだろう。

事実、アクチュエータの稼働状態に関するパラメーターは全て正常値を示していた。

「メカニックたちがバラしたアクチュエータに損傷は無かった。つまり、コックピットからアクチュエータまでのどこかに原因がある可能性が高い」

メカニックの分解整備作業に立ち会っていたセシルもチーフエンジニアの推測に同意し、各種状況証拠から問題箇所を絞り込んでいく。

原因究明はすぐそこにまで迫っていた。


「おい! FBW(フライ・バイ・ワイヤレス)に断線とかは無かったか?」

再び愛機オーディールの方を振り返ったセシルの問い掛けにメカニックたちは両手で×を作って返答する。

可変型MFであるオーディールは変形機構との干渉を避けるため圧力センサー~アクチュエータ間を無線化した"フライ・バイ・ワイヤレス"をメインラインとしているが、それが動作しなくなった場合のバックアップとして光ファイバーケーブルによるサブラインも設置されている。

……先の戦闘ではそのバックアップも役に立たなかったのだが。

「……これはあくまで私の推測なのですが、ソフトウェアの不具合により入力信号がアクチュエータへと伝わらなくなったのかもしれません」

目の前で行われている機体の整備状況とタブレット端末に表示されているデータ――。

これらの情報からノエルは一つの仮説を導き出す。

機体制御に用いられる無数のパラメーターの監視管理に関わるソフト面のトラブルだ。

「戦闘中に何か不可解な点はありませんでしたか?」

自らの仮説を確かなものとするために必要な情報を引き出すべく、普段は頭が上がらない相手にグイグイと踏み込んでいくノエル。

「うん? 強いて言うなら……敵のエースらしき相手と交戦してからトラブルが出た」

普段はうだつが上がらないチーフエンジニアの珍しい質問攻めに驚きつつも、セシルは先の戦闘を思い出しながら有意義そうな情報を提供する。

「あと、奴は妙におしゃべりでオープンチャンネルを使ってこちらを挑発してきたな」

「……! 大佐、OSに手を加えれば対処できるかもしれません」

《"オープンチャンネルを使って"こちらを挑発してきた》――。

セシルの何気無い一言を聞いた瞬間、技術大学でデジタル制御工学を履修していたノエルは原因と解決策を即座に見い出す。

彼女は機械部品などハード面に関する知識は職務上必要なレベルに留まっている反面、自身が得意とするソフト面の分野には非常に強かったのだ。

「問題解決の糸口が見つかったのか?」

「試してみる価値はあります」

ポジティブな兆候を察して声を掛けたセシルに向かってノエルは力強く頷く。

「その顔つきは相当自信があると見た。ならば任せたぞ」

「は、はい! お任せください!」

これまで仕事以外では殆ど会話できない"雲の上の存在"に等しかったセシルから初めて専属チーフエンジニアとして認められ、ノエルはビシッとした敬礼を以って答える。

「私はあくまでもMFドライバーだ。与えられた機材の性能を100%以上引き出すことに集中する――ただそれだけだ」

セシルは類稀な操縦センスを持つ生粋のMFドライバー。

だから、技術分野には過干渉せず信頼できる人間に任せることにしていた。


 アドミラル・エイトケン艦内にはMFエンジニアがデータチェックなどを行うための機器を備えた作業部屋が設置されている。

「(――これは……コンピュータウイルスが侵入した痕跡?)」

他の機体を担当するエンジニアたちが寝静まっている中、部屋に一人残ったノエルはパソコンの画面と向き合っていた。

彼女が目を細めて見つめているディスプレイには多数のグラフと文字列が表示されている。

素人が見てもおそらく理解できないだろうが、ノエルは膨大なデータの中に明確な違和感を見い出す。

「(ウイルス自体は役目を終えた瞬間にアポトーシスで自己崩壊している。証拠をなるべく残さないための措置ね)」

OSのプログラムコードの一部が不自然に消去されている。

また、その周辺ではプログラムを破壊したであろうコンピュータウイルスの残骸らしきソースコードも見つかった。

これはノエルでなければ見落としていたかもしれない、極めて小さな断片であったが……。

「(オープンチャンネルで通信回線が確保された隙に対象のOSへ侵入し、そこで活性化してからプログラムを破壊し尽くす)」

先のセシルの証言と自身が発見した情報を照らし合わせ、少しずつ真相に近付いていくノエル。

「(確かにこれは前例の無い革新的な電子攻撃ね。事前知識が無い状態で対処するのは不可能だわ)」

音声データに紛れて敵機のOSにウイルスを直接流し込み、ファイアウォールの内側から活性化させる手法は前代未聞であり、完全初見でその被害に遭った面々にノエルは同情する。

「(……操縦不能状態に陥っても冷静に行動し、窮地を乗り切って帰ってきたセシル大佐はやはり天才なのかもしれない)」

だからこそ、危機的状況を現地で解決してみせたセシルの才能は際立っているように感じられた。

そういう人物の下で働いていると大きなプレッシャーを感じるが、その分貴重な経験を得ることができる。

「(レイキャヴィークへ到着するまでに対抗手段を実装しておかないと。敵が改良したウイルスを投入してくる可能性も考慮して、できることは精一杯やっておく必要がある)」

ぬるくなったコーヒーを飲みながらノエルは特殊なアプリケーションを起動し、セシル機のOS書き換え作業に取り掛かる。

「(理想は"ワクチン"を作成して全機体のOSに組み込むことだけど、そのための時間はおそらく無い)」

ウイルス攻撃に対する防御策としては性質を模したプログラムでファイアウォールをテストし、ウイルスバスターの効果を高めておくことが考えられる。

しかし、アンチプログラム作成にはまずウイルスの解析が必要なため、次の作戦までには間に合わない可能性が高い。

「(ならば普段の操縦系統に使う制御プログラムとは別に、OSに直接接続されていない電子回路から呼び出せるバックアッププログラムを用意しておけば……!)」

トラブルは総括するなら機体制御用プログラムの消去によって発生したもの。

ノエルが思い付いた対策方法はある意味シンプルであった。

【ブラックボックス】

MF分野で言うブラックボックスとはフライトデータレコーダー及びコックピットボイスレコーダーを収めた記録装置のことを指す。

これらの装置が記録する膨大なデータは平時は運用能力の分析・改善に使われているほか、事故発生時には原因究明のための貴重な手がかりとなり得る。

MFは一般的には航空機として扱われるため、オリエント連邦のように多数運用している国では官民問わず搭載が義務付けられている。

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