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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-3】長い旅が再び始まる

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【18】二天一流

人間的特異点(シンギュラリティア)――。

それはヒトの姿形と精神を保ったまま、その枠を超越し神々をも恐れさせる者。

ただ強く在り、故に遠く在り。

畏怖と敬意の狭間で生きる孤高の存在をある者は"鬼"と、またある者は"悪魔"と呼んだ。

そして、別の者は次のように考えていた。

「これこそが常に進み続ける世界の中で人類が目指すべき基準点なのかもしれない」――と。

※『新訳オリエント神話-第10章 逆襲編-』より抜粋

 接近戦が苦手なホロのイセングリムスの眼前にビームソードを構えた蒼いMF――セシルのオーディールM3が迫り来る。

「ッ! 間に合えッ!」

長年の実戦経験により染みついた癖で左右操縦桿を操作し、愛機イセングリムスの両手首からビームシールドを展開するホロ。

次の瞬間、蒼い光の盾と蒼い光の刃が接触し視界を奪うほど激しいスパークが生じる。

「このまま押し込んでやるッ!」

両手に握り締めたビームソードを突き出しシールドを無理矢理破ろうとするセシルだったが、大型機ゆえ高出力なE-OSドライヴを搭載しているイセングリムスの防御態勢を切り崩すことができない。

「ライブッ!!」

パワーの違いがもたらした膠着状態を好機と捉えたホロは専属副官のバイオロイドNo.666"ライブ"に援護を要請。

自身が足止めしている隙に僚機が有効打を与えてくれることに期待を懸ける。

「アタック!」

(ホロ)の極めて抽象的な命令を遂行しつつ巻き込みを避けるべく、ライブは乗機リガゾルドB型を人型のノーマル形態に変形させながらビームブレードを抜刀。

攻撃範囲を絞りやすい接近戦で勝負に打って出る。

自然人間(ナチュラルボーン)の反射神経では理論上対応できないと予想していたが……。

「チッ……!」

回避も防御もおそらく間に合わない――。

本能的にそう判断したセシルは機体のマニピュレーターからビームソードを手放すと、その直後に駄目元の回避運動へと移行する。

「ビームソードを落とした――きゃッ!?」

強固な防御態勢の突破を断念した蒼いMFの不可解な行動をホロが認識した直後、彼女のイセングリムスの目の前で火山噴火のような大量の蒸気が発生。

突如視界を遮られたホロは堪らず怯んでしまい、コックピットに降り掛かる水飛沫を自機の両腕でガードすることで精一杯だった。

「水蒸気爆発……!」

一方、現在進行形で発生している現象をライブは知っていた。

これは水蒸気爆発――その名の通り爆発を伴いながら液体が蒸発することだ。

今回の場合、セシルのオーディールが意図的に投棄したビームソードという"熱源"が水面に接触した瞬間、戦闘中だった3機のMFを呑み込むほどの大爆発が発生した。

「(莫大な熱エネルギーを発するビームソードを水面に落とすことで、大量の水蒸気を発生させ目晦ましを行う――それを咄嗟に判断できるなんて)」

水面に光学兵器を押し付けて煙幕代わりの蒸気を発生させる行為自体は、MF戦におけるテクニックの一つとして広く知られており実践例も少なくない。

それをあのごく短時間で思い付き、尚且つ最も効果的なタイミングで思い切って実行へ移したことにホロは驚愕していたのだ。

「(セシル・アリアンロッド――やはり"人間的特異点(シンギュラリティア)"は危険な存在……!)」

まだ湯煙の中に紛れているであろう蒼いMFを索敵しつつ、ライブも主と同じことを考えていた。

そして、"蒼い悪魔"と呼ばれる(セシル)がバイオロイドを作り出した"マスターマインド"も注目する新概念――シンギュラリティアの体現者となり得る可能性を。


「(ベーオウルフはまだ必要……彼女をこの段階で失うことはレヴォリューショナミー自体の損失……)」

人工人間(アーティファクト)と揶揄される通り、工業製品の感覚で"大量生産"されるバイオロイドにも人的資源の重要性を考える力はある。

もっとも、ライブにとってのベーオウルフ(ホロ)はあくまでも"レヴォリューショナミーに必要な人材"という認識でしかなかったが……。

「でやああああッ!」

「ッ……!」

バイオロイドらしからぬ余計な考え事をしていたせいで反応が遅れたのかもしれない。

突如湯気を切り裂くように現れたセシルのオーディールにライブは対応できず、蒼いMFが振り上げた鈍く光る銀色の刃――ソリッドサーベル"キヨマサ"で機体の右腕を斬り落とされてしまう。

それだけならまだしも日本刀型実体剣の刀身はライブのヘルメットを掠めており、もう少し位置関係が上下していたら彼女の頭部が横薙ぎされるところだった。

「くッ! "ニノタチ"でぇッ!」

初撃で決め切れなかったセシルは冷静沈着に愛機オーディールの左手でもう一本のソリッドサーベルを抜刀。

"二の太刀要らず"というステレオタイプな侍のイメージを覆す二打目はリガゾルドB型の胴体右側を完璧に捉えていた。

「ライブッ!!」

「何だッ……!?」

しかし、正確無比なその一撃をホロのイセングリムスは(しつ)部ビームソードにより強引に受け止める。

ギリギリのタイミングで白いMFの前に割って入る、危険を顧みないアグレッシブな援護防御にはセシルも珍しく目を見張っていた。

「はあッ!」

出力差を活かした"空中前攻撃"で蒼いMFを何とか押し返したホロは、その隙にイセングリムスの両手首に内蔵されている予備武装のナイフを抜刀。

ただし重射撃機で格闘戦は不利と判断したのか、取り出した得物は一度も振りかざすこと無く投げナイフの要領でそのまま投擲(とうてき)する。

「ッ!」

不意を突かれながらも咄嗟に防御態勢を取ったセシルのオーディールだったが、テレビゲームで例えるなら"当たり判定"が小さいナイフは隙間をすり抜けて蒼いMFの左胸エアインテーク上部に突き刺さる。

前の戦争でコックピットに直撃を貰い死にかけた経験があるセシルは平然としていたものの、実際にはオーディールのコックピットブロック手前まで凶刃は深く食い込んでいた。


「私が援護する! 今のうちに後退を!」

蒼いMFを仕留めた感触が無かったホロは相手がリカバリーする前に距離を取り、自機が庇うカタチとなっているライブのリガゾルドに後退を促す。

片腕を破壊された機体に居座られてもハッキリ言って足手まといだからだ。

「……了解」

"人間の姿形と能力を模した生体道具"としての側面を持つバイオロイドは培養槽の中にいる時から高度なマインドコントロールを施され、主人(マスター)と認識した人物の命令に絶対服従するよう設計されている。

ライブが(ホロ)の命令に従うのは仕様通りの挙動なのだが、短い返答から垣間見える"悔しさ"という感情については創造主たる"マスターマインド"にしか分からない。

「サイドアームズ1、2、ファイアッ!」

サイドアームズ――副兵装の固定式機関砲と腕部格納式パルスレーザーガンを斉射しながら離脱を図るホロのイセングリムス。

「逃がすものかッ! ファイアッ!」

豆鉄砲と蒼い光弾をかわしつつ弾数残りわずかなカービンで反撃するセシルのオーディール。

「ベーオウルフ……作戦時間終了だ」

「……そうね、味方をだいぶ消耗させてしまった。これ以上の損害は許容できないわね」

戦場を覆い尽くしレヴォリューショナミー側の奇襲攻撃を支えていた濃霧が晴れ始める中、ライブは自身を守るために戦ってくれているホロに撤退を勧める。

ここが潮時だと思ったのはホロの方も同感だったらしく、レーダー画面上に残っている味方機の反応を数えた彼女は引き揚げることを決断した。

「ベーオウルフより全機、作戦目標は最低限達成された。これより方位0-2-2に向けて撤退を開始する」

レヴォリューショナミー用の周波数で通信回線を開いたホロは全ての味方機に対し作戦終了を通達。

戦闘エリアへ進入した時と同じ方位を指定し、まだ完全には晴れていない濃霧に紛れて安全且つ迅速な撤退を図るのだった。


 初めから奇襲攻撃に重点を置いていたレヴォリューショナミーに無駄な戦闘を行う意思は見られない。

「エイトケンCIC(戦闘指揮所)より航空隊各機、撤退する敵部隊を追撃せよ!」

だが、宣戦布告後とはいえ完全なる不意打ちを食らった短距離戦術打撃群はそうではなかった。

艦隊旗艦アドミラル・エイトケンのCICから航空戦の指揮を執るカリーヌ少将は作戦行動中の航空隊に追撃――戦闘エリア内にいる敵機だけは容赦無く殲滅するよう命じる。

彼女たちは示す必要があった。

今回の戦闘におけるロシア軍人たちの理不尽な犠牲に心を痛めていることを。

そして、その災禍を招いたテロリストの武力行使は絶対に許さないという断固たる意思を。

「ネガティブ、機体に負担を掛け過ぎたようだ。私は追撃戦には参加できない」

上官にして実姉の命令に従いたいのはやまやまだが、セシルは乗機オーディールのダメージ蓄積を理由にそれを辞退する。

ダメージ蓄積自体は本当の話であり、先ほどの投げナイフがエアインテークに直撃した影響なのか冷却系に異常が生じていた。

「レーダー画面越しでも分かったわよ。あなた、動きが良い2機相手に大立ち回りを演じてたみたいね」

妹の言い訳を特に咎めることはしない反面、機体にオーバーホール必至の負担を掛けるような戦い方については程々に留めるべきだと"お姉ちゃんモード"で軽く窘めるカリーヌ。

「フッ……カリーヌ姉――いや、アリアンロッド少将には全てお見通しか」

戦闘中の経過報告は後回しにしていたにもかかわらず、限られた情報だけで状況分析を行える姉の卓越した能力にはセシルも舌を巻き苦笑いするしかなかった。

「ブフェーラ隊は友軍の残存戦力と共に追撃戦へ移行! ゲイル隊は補給のための着艦を許可する!」

「了解! あとは私たちが引き受けます!」

戦闘開始時から出ずっぱりだったゲイル隊の消耗度を考慮したカリーヌは同隊を帰艦させ、その代わりにまだ余力があるブフェーラ隊に追撃戦を任せる。

ブフェーラ隊を率いるリリスは僚機を引き連れながら最大戦速で北へと向かう。

「……ゲイル各機、全機健在だな?」

水面を漂っていたビームソードの柄を回収したセシルが自身の僚機たちの安否について尋ねると、それに答えるかのように2機の蒼い可変型MFが頭上をフライパスしていくのであった。

人間的特異点(シンギュラリティア)

オリエント神話の中に度々登場する、人知を超えた能力を有する超人的な英雄たちのこと。

オリエンティア社会においては"勇者"と並ぶ人間に対する最大級の称賛でもある。

長らく神話学の視点からの研究がメインだったが、近年になり進化人類学や未来学といった他分野からも注目を集めている。

進化人類学や未来学の研究者たち曰く、古代文明の人々は所謂"ポストヒューマン"の登場を予見――あるいは実際に遭遇したため神話という記録に残した可能性が高いという。

なお、人間的特異点に関する研究はオリエント圏では比較的盛んな一方、オリエンティズム的な価値観に対する反発なのか日欧米ではあまり顧みられていない。

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