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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 3-5】冬空の下、理想はすれ違う

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【194】スプリングフィールド

 2135年12月25日夕方――。


 年末休暇を切り上げたライガは愛車の青いスポーツワゴンで高速道路を走っていた。


「(戦時体制且つ年末休暇だからな……流石に高速道路も空いているか)」


 この道路はオリエント連邦の広大な国土を南北に貫く幹線道路の一つであり、普段は時期を問わず比較的交通量が多い。


 それを考慮し冬場は毎日頻繁に除雪作業が行われるほどだ。


 ところが、今年は戦時体制による外出制限と年末休暇が重なったため、常に法定速度上限で飛ばせるほど交通量が激減していた。


 その結果、予想より早い所要時間でライガは臨時検問が行われているサービスエリアに到達することができた。


「お急ぎのところ恐縮ですが……検問のため身分証を見せてもらってもよろしいでしょうか?」


 検問待ちのトラックの後ろに停まったライガの車に警察官が近付き、運転席側の窓をコンコンと叩く。


 彼女はライガの顔を見ると少し驚いたかのような表情を浮かべるが、身元確認のため身分証の提示を求める。


「……ライガ・シルバーストン様ですね。別のスペースで検問を行いますので、係員の誘導に従って下さい」


 運転免許証とIDカードをスキャナで読み取り、本物であることを確認した警察官は畏まった態度で車列を離れるよう指示する。


 ライガは国民的有名人にして筆頭貴族シルバーストン家の直系血族であるため、要するに順番待ちせずに緩い検問で通ることができるというわけだ。


「(悪く思うなよ。俺だって望んでこの家柄に生まれたわけじゃない)」


 トラックの右隣を通り過ぎる際にドライバーからの視線を何回か感じたが、ライガは同情するように肩をすくめることしかできなかった。



 ライガの車が誘導されたのは、通常の検問所とは隔離された警察車両などが待機しているスペース。


 バス型の人員輸送車からセキュリティチェック用の機器を持った警察官たちが現れ、素早く配置に就く。


「初めまして。本臨時検問所の責任者を務めるメール・ルメールであります」


 車を降りたライガを出迎えたのは、このサービスエリアに特設された検問所を監督するメール巡査部長。


 本来は部下達の仕事ぶりを監視し、必要に応じて指導・補佐するのが役割の彼女が自ら出てくる時点で、オリエント連邦における筆頭貴族関係者の立場が窺い知れる。


「南部の方に向かわれるのですか?」

「ああ、急な仕事でSFへ行くことになった」


 まず目的地について尋ねてくるメールに対し、彼女の部下(男性)によるボディチェックを受けながら当たり障りの無い答えを返すライガ。


 SFとはオリエント連邦南西部のリペリング・クレーターに広がる大都市、スプリングフィールド市の愛称だ。


「ヴワル市に在住なのでしょう? 積雪もありますし、交通機関を使われた方がよかったのでは?」


 ライガの自宅があるヴワル市とスプリングフィールド市は数百キロ離れている上、後者は降雪量が多い山間部の盆地に位置している。


 本来なら積雪に強い交通機関――例えば高速鉄道を使うべきというメールの意見は確かに正しい。


「今はテロ対策で完全予約制だろ? 先方が27日を指定してきたから、予約しても間に合わなくてな」


 しかし、現在オリエント連邦の主要交通機関はテロ対策のため事前予約で身元を証明しなければ利用できず、万が一の場合に備え定員数も縮小されている。


 ライガが"仕事"を受けた時点で12月27日までのヴワル発スプリングフィールド行きの高速鉄道は全席埋まっており、それ以外の交通機関も予約を取れなかったのだ。


「一つ先のサービスエリアには今日中に着きたい。検問は手短に頼むよ」

「貴方のような"模範的国民"であればすぐに終わります」


 国土全域が高緯度に位置するオリエント連邦は冬の日没が早く、地域にもよるが夕方の時点で夜中のように暗くなり始める。


 幸いにもライガは身元の潔白が完全証明されているため、メールの言う通りそこまで時間は掛からないだろう。


「(仕事熱心な警官を騙すようで悪いが……こっちの方がセキュリティが甘いからな)」


 だが、交通機関ではなくマイカー移動を余儀無くされたライガには狙いがあった。



 検問を通過したライガは予定通り一つ先のサービスエリアに到着し、そこに併設されている簡易宿泊所で一夜を明かした。


 翌26日は朝から出発し途中休憩を挟みつつスプリングフィールドまで走り切り、その日の夕方には市内中心部の宿泊可能なビジネスホテルを見つけることができた。


 宿泊施設もテロ対策に伴うセキュリティ厳格化の対象であるが、身元が保証されているライガは予約無しでのチェックインが認められた。


 しかも、無条件且つ無制限にスイートルームと各種サービスを利用できるVIPとして――だ。



 先方から指定された当日の12月27日――。


 ライガは朝食と昼食を兼ねたブランチで腹ごしらえすると、最上階のスイートルームで支度を済ませてから改めて1階のロビーホールに向かう。


「おはようございます、ライガ様。お出かけでございますか?」

「ああ、郊外の方に用事がある」


 フロントカウンターに立っているスタッフの接客態度が一般客とはあからさまに異なる。


 接客のプロであるはずの彼女が緊張していることを察したライガは笑顔を作り、穏やかな口調で早朝から出かける用件を伝える。


 用件にどれほど時間を要するか分からないため、チェックアウトはせずに外出手続きだけを済ませる。


「郊外ですか……お気を付け下さいませ」


 スプリングフィールドの郊外には特に目ぼしいスポットは無い――。


 スタッフはそう言いたげであったが、彼女はエレベーターで地下駐車場へ降りるライガを見送ることしかできなかった。


「(家柄が良いだけでこの厚遇だ。俺がテロリストじゃなくてよかったな)」


 地下駐車場に着いたライガはすぐ近くに止めている愛車に乗り込みながら自嘲する。


 ちなみに、エレベーターの真横という駐車位置もスイートルーム宿泊者限定のサービスである。


「フロントから話は伺っております。お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 駐車場出入口を監視する警備員にもフロントスタッフが勝手に話を通してくれたらしい。


 ライガの車を確認した彼女は出入口のシャッターを開放し、わざわざ待機所から出てくると脱帽状態で深く頭を下げて見送ってくれる。


 それが仕事なのだろうが、ライガは少しばかり申し訳無く思うのだった。



 スプリングフィールド市は人口111万人に達する、オリエント連邦最南端のメトロポリス。


 平時の市内中心部はそれなりに交通量があるが、朝早い今は諸々の事情により車も人も全く見かけなかった。


「――続きまして、今月23日にヴォヤージュ市郊外で発生した武力衝突に関する新たな情報です――」


 地図情報を表示しているカーナビはニュース番組の音声のみを流している。


 政府当局による情報操作の甲斐もあり、一般市民への波及は抑えられているようだ。


「(しかし……レヴォリューショナミーには筆頭貴族の子女も参加しているらしい)」


 ところで、ライガは先の戦闘の報告書を提出した際に相手方から気になる噂をいくつか聞いていた。


 もしもそれが事実ならば、身内のテロリズムへの関与が露見した一族は制裁を受けることになるだろう。


「(そもそも、創設者の一人と目されるラヴェンツァリ博士の実家も取り潰された筆頭貴族だからな)」


 最悪の場合、たとえ筆頭貴族であっても上流階級から除名され財産や特権を失ってしまう。


 その代表例が不祥事やスキャンダルの渦中にあった当主の自殺が"責任逃れ"として問題視された、ライラックの実家ラヴェンツァリ家だ。


 そして、ライガがこれから向かう場所こそ忌まわしき事件が起きた旧ラヴェンツァリ邸である。


「(家柄を奪った祖国への復讐? 親交があったオリヒメの敵討ち? 博士の真の狙いは何だ?)」


 父親(女性)を死に追いやった祖国オリエント連邦に対する憎悪。


 3年前、生まれた星の違いや年齢差を超えた信頼関係を築いたアキヅキ・オリヒメの遺志。


 ライラックが"逆襲"に至った経緯を断言することは難しい。


「(家を出る前に母さんに聞くべきだった。博士の知り合いだったというあの人なら、何か知っていたかもしれないのに)」


 彼女と個人的に親しく貴族社会の内部事情にも詳しい母レティから情報収集するべきだったが、事を大袈裟にしないよう気を付けていたライガは完全に失念していた。

【Tips】

ライガが属するシルバーストン家はオリエント連邦に32家存在する筆頭貴族において序列2位に位置づけられる、名門中の名門として知られる。

これはシルバーストン家の始祖がオリエント連邦という国家の形成に深く関わるなど、非常に長く由緒正しい歴史を持っているためである。

なお、ライガは子どもがいない現当主レティシアの甥にあたり(母レティはレティシアの妹)、伯母の寵愛を受けていることから将来的な家督相続が確実視されている。


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