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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-3】長い旅が再び始まる

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【16】ミルクの霧の中(中編)

 母艦アドミラル・エイトケンよりカタパルト射出されたゲイル隊はフルスロットルで空を翔け上がり、まずは霧が発生していない高度への上昇を目指す。

彼女らの乗機オーディールM3の機動力ならば10秒も掛からずに目標高度へと到達できる。

「ジャミングと対空迎撃のおかげで被られずに済んだか……よし、高度2000フィートで反転し上空から攻撃を仕掛けるぞ」

「隊長! 後方に食らい付いている敵機がいます! 機数2!」

眼下に広がる霧の海を眺めながらセシルが下降を指示したその時、編隊の左後方に就いているスレイが追撃機の存在を報告する。

「一機はバイオロイドの機体だが、もう片方は新型機か……?」

オリエント国防空軍随一のマークスマンらしく目が良いアヤネルはバイオロイドの機体――リガゾルドB型は特定できたが、それとエレメント(2機編隊)を組んでいる新型機の機種まではさすがに分からなかった。

散開(ブレイク)!」

とにかく、MFドライバーとしての豊富な経験から"嫌な予感"がしたセシルは間髪を入れずに散開を指示。

3機の蒼い可変型MFが一時的に編隊を解いた直後、彼女らが飛んでいた場所を2本の蒼く太い光線が通過していく。

セシルの先見が無ければ3機纏めて焼き払われていた可能性もあり得るほどギリギリの判断だった。

「くッ……避けられた!?」

「反撃を仕掛けてくる! ベーオウルフ、迎撃態勢を!」

必中を期した砲撃を回避されたホロはその操縦技術に思わず驚愕するが、リガゾルドB型を駆るバイオロイドNo.666"ライブ"は冷静に迎撃行動を促す。

「分かってるわよ! ――何ッ!?」

「各機、艦隊と地上施設を狙う敵航空戦力の排除を優先する! 私たちを狙う敵機はこのまま引きずり回す!」

先ほど発射した腰部レーザーバスターランチャーを構え直すホロのイセングリムス。

しかし、セシル率いるゲイル隊は白いMFを避けるように高速ですれ違い、そのまま濃霧が広がる地上へと向かって行く。

「了解! あの白いのは如何にも重射撃機だし、こっちの機動力ならいずれ振り切れる!」

「さっきの長距離射撃の火力は脅威的だけど、当たらなければいい話!」

最優先事項はあくまでも艦隊の防衛――。

伊達に3年近くチームを組んでいないアヤネルとスレイは隊長の意図を瞬時に理解し、スロットルペダルを踏み込み機体を遷音速まで加速させる。

「(相手にするまでも無いってことね。侮られるのは致し方無し――か)」

仮にもエースドライバーにとっては屈辱的な扱いを受けたにもかかわらず、ホロは悔しいとはあまり感じなかった。

ゲイル隊の行動は正しく客観的評価だったからだ。


「くそッ、噂通りのバカみたいな対空砲火だ……!」

一方その頃、濃霧に閉ざされた地上ではレヴォリューショナミー航空部隊と短距離戦術打撃群艦隊による戦闘が激化していた。

レヴォリューショナミー所属の"Gr-9B マーキス"は対艦攻撃のためアドミラル・エイトケンに近付こうとしているが、強烈な対空迎撃に阻まれ攻撃態勢に入ることさえままならない。

「こりゃあルナサリアンが一網打尽にされたって伝説も納得がいく」

「怯むなよ、対空兵器だって無敵じゃない。潰していけば必ず突っ込める隙ができるはずだ」

ルナサリアン戦争で最も有名な武勲艦の伝説はレヴォリューショナミーに(くみ)するロシア人青年将校もよく知っている。

……当然、最後は乗組員たちを誰一人死なせること無く月面に大破着底したという顛末についてもだ。

MFドライバーの一人は"人が造った物なら必ず壊せる"と僚機たちを激励し、それを実践するように対空機関砲へ狙いを定める。

「――フッ、テロリストにしてはよく考えているじゃないか」

「み、ミサイルアラート!? 散開(ブレイク)ッ! 散――!」

だが、目の前の強敵に集中するあまり彼らは"蒼い悪魔"の接近に気付くのが遅れてしまった。

対空兵器に攻撃を仕掛けようとしたその時、航空無線に"蒼い悪魔"ことセシルの声が混線すると同時に大量のマイクロミサイルが出現。

警告音を聞いたGr-9Bのドライバーは反射的に回避運動を命じるが、そう叫んだ彼自身が霧の中から飛来したミサイルに次々と被弾してしまう。

「各機、まずは母艦に纏わりつく敵機を蹴散らすぞ! 間違って友軍の"マーキス"は撃つなよ!」

濃霧に紛れ込むように上空から襲い掛かってきたゲイル隊のマイクロミサイル一斉攻撃に晒され、レヴォリューショナミー航空部隊は蜘蛛の子を散らすように散開。

それを見たセシルは同士討ちに注意を促しながら各個撃破の指示を飛ばす。

彼女の操縦技術はコンディションが悪いほど冴えわたるらしく、そうしている間にも顔色一つ変えること無く敵のGr-9Bを撃墜していた。

「了解。IFF(敵味方識別装置)の確認はいつも以上に慎重に行わないといけませんね」

「ロシア海軍機は私たちの邪魔をするな――って傲慢に割り切れれば楽なんだがな」

霧の中とは思えない鋭い機動で敵を瞬時に追い詰める隊長機を眺めつつ、スレイとアヤネルも単騎突撃が得意なセシルをフォローするため戦闘態勢に入るのだった。


 ゲイル隊の加勢によりアドミラル・エイトケン周囲の戦況は一気に防衛側優勢へと傾く。

「ベーオウルフが合流するまでは何とか持ちこたえるんだ!」

「遅い! ゲイル3、ファイアッ!」

ベーオウルフ――ホロの援護を待つGr-9Bに躊躇い無く攻撃を仕掛けるアヤネルのオーディール。

ファイター形態の機体下面に装備されたバトルライフルの命中弾で敵機が怯んだ隙を突き、正確且つ一方的な連射で更に畳み掛けていく。

大口径実体弾を発射するバトルライフルは反動の大きさが厄介だが、その悪影響を感じさせないほどアヤネルは高い命中率を維持していた。

「被弾した!? くそッ! どこから撃たれ――!」

「へッ、私たちは目を瞑ってても戦闘機動ができるんだよ……!」

高威力な実体弾を食らい続けた水色のMFは被弾箇所から火を噴き出し、体勢を立て直せないまま水面に叩き付けられバラバラになってしまう。

いずれにせよ、視界が限られる状況でも計器類の情報だけで戦えるアヤネルには勝てなかっただろう。

「ゲイル2、ファイア!」

「ぐあッ!? 敵と味方の区別もできねえのかよッ!?」

「あ……! ごめんなさい!」

同僚に負けじとスレイも実体弾射撃武装のアサルトライフルでGr-9Bを攻撃するが、これは残念ながら友軍であるロシア海軍の機体。

あわやフレンドリーファイアという事態に友軍のMFドライバーからは当然怒られてしまい、スレイは思わず相手には通じない母国語のオリエント語で謝罪する。

「ゲイル1よりCIC(戦闘指揮所)、ブフェーラ隊はまだ上がれないのか?」

僚機たちの戦いぶりを見る限り、航空優勢の確保は問題無さそうだ。

それよりもセシルは自分たちに続いて発艦する予定のブフェーラ隊の状況を気に掛けていた。

「こちらCIC、発艦準備自体は既に完了している。上空の状況を見て射出タイミングは指示する」

「……私たちのエアカバー次第というわけか」

CICのシギノ副長の予想通りの返答を聞いたセシルは"やっぱり"といった感じの表情を浮かべる。

彼女の率いるゲイル隊が敵航空戦力を蹂躙し、連携が不可能になるほど追い詰めるのを待っているらしい。

「(さっきの白いMFとその僚機のバイオロイド――奴らが追い付く前に如何に敵を減らせるかの勝負だな)」

ゲイル隊の戦闘力ならば個人戦でもGr-9Bには後れを取らないだろう。

それよりも遥かに強力且つ厄介な2機のMF――イセングリムスとリガゾルドB型の存在に警戒しつつ、セシルは引き続き雑魚の掃討に臨む。

「ゲイル1、ファイア! ファイア!」

小型軽量で取り回しに優れるカービンを実体弾射撃武装として持ち込んだセシルのオーディールM3にとって、操縦技量・機体性能共に格下のGr-9Bは撃墜スコアの足しにもならない相手であった。


「はぁ……次は間違えないようにしないと」

同士討ちというシャレにならないミスを犯しかけたスレイは気持ちを切り替え、今度はIFFの反応を慎重に確認してから攻撃に移る。

同僚たちの安定感が異常に優れているだけで、スレイも霧の中で偏差射撃を行える技量は持っているのだが……。

「何やってんだよ? そんなんじゃ後ろから撃たれても文句言えねえな」

「うるさいわね――ってきゃあッ!?」

先ほどの同士討ちを茶化してくるアヤネルに一言言い返そうとするスレイだったが、彼女の口から漏れ出たのは突然の揺れに対する女の子らしい悲鳴であった。

これが至近弾によるものであることは過去の経験からすぐに理解できた。

ともかく、機体にダメージが無かったのは幸運としか言いようがない。

「長距離射撃!? さっきスルーした敵のエースか!」

僚機が攻撃を受けたらさすがのアヤネルも軽口を叩くことを止め、速やかにチームメイトを援護可能なポジションに就く。

ここぞという場面での真面目さはアヤネルの長所の一つだ。

「ゲイル隊! そのエースを優先的に撃墜してちょうだい! 長距離射撃の正体はおそらくそいつよ!」

アヤネルの予想通り、先ほどスレイ機を掠めた攻撃は敵エース――イセングリムスのアウトレンジ攻撃だったらしい。

アドミラル・エイトケンのCICから指揮を執るカリーヌはそれが最大級の脅威だと判断し、その排除をゲイル隊に命じる。

「攻撃の正体――解析できました! 弾種はMFサイズのレールガン用徹甲弾!」

「甲板にごく浅い角度で命中した時に跳弾したんだ。スレイ大尉に流れ弾が飛んで行ったのは不運だったが」

じつはイセングリムスの長距離射撃――背部折り畳み式レールキャノンによる攻撃は元々アドミラル・エイトケンのブリッジ(艦橋)を狙った一撃だった。

オペレーターのエミールから分析結果を聞いたシギノは肩を(すく)めているが、危うく直撃しかけた当事者(スレイ)にとっては全く以って笑い事ではない。

「いくらMFの火力でも集中攻撃を受け続けたら撃沈されるわ! ゲイル隊は敵エース機の排除を優先して!」

全高4~6m程度の人型ロボットであるMFは攻撃力を重視した兵器ではないとはいえ、機種によっては単機で駆逐艦を沈めてしまう程度の総合火力を有している。

事実、アドミラル・エイトケンも前の戦争ではルナサリアン版MFの執拗な航空攻撃により大破着底しているから、二の舞を恐れるメルト艦長の危惧は至極当然の反応だ。

(ふね)の直掩は私たちがやる! だから早く発艦させてくれ!」

また、同艦の格納庫ではリリス率いるブフェーラ隊が発艦可能な状態でスタンバイしている。

当人たちはいつでも上がれると息巻いているが、上空の安全を確保できていない状況ではゴーサインは出せない。

「CIC、ブフェーラ隊を緊急発進させろ! 敵部隊が連携を取り戻す前に!」

しかし、艦隊防空のために少しでも戦力が欲しいセシルはCICに味方部隊の発艦を要求する。

自分たちが敵部隊をかき乱している最中の今なら行ける――と。

「……CICよりフライトクルー、カタパルト射出の権限をそちらへ委譲する」

所属は異なれど階級が高いセシル上級大佐(=准将相当)の決定にメルト大佐は逆らうことができず、事実上押し切られるカタチでブフェーラ隊の発艦を承認せざるを得なかった。

【レーザーバスターランチャー】

一般的には「MFの腕部で保持して使用する、ジェネレーター直結式の長砲身・大出力レーザー兵器」を指す。

"バスター"という形容詞はその中でも必殺武器として運用可能な高性能装備に付けられることが多い。

なお、機体背部への固定装備など腕部で保持しない方式の場合は"キャノン"と呼ばれ明確に区別されている。

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