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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-3】長い旅が再び始まる

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【13】短距離戦術打撃群、北へ

 2135年9月21日――。

嚮導型重雷装ミサイル巡洋艦"アドミラル・エイトケン"を旗艦とする短距離戦術打撃群は出港準備の最終段階に入っていた。

「各セクション、最終チェック!」

アドミラル・エイトケンは艦長のメルト・ベックス大佐を含めた10名以上のクルーによって制御され、平時は外部の様子を見渡しやすいブリッジ(艦橋)に常駐している。

今ブリッジで配置に就いているクルーたちは"Aチーム"と呼ばれており、戦闘時など重要な局面ではこのレギュラーメンバーが(ふね)を扱う。

アドミラル・エイトケンのAチームは3年前から同艦に乗り込み、その性能を完全に熟知しているベテランたちである。

「操縦系統及び機関部、オールグリーン」

艦の操舵と推進装置の制御を担当する操舵士はマオ・メイロン大尉。

技術進歩に伴う省力化のため、操舵士であると同時に機関士の役割も担う最重要クルーの一人だ。

「射撃指揮システム1、オールグリーン!」

「射撃指揮システム2、オールグリーン!」

重武装を擁するアドミラル・エイトケンでは兵装を扱う"火器管制官"は常時2人体制を採用している。

主砲、副砲、ミサイル発射装置といったメインウェポンの制御はフランチェスカ・コバト大尉。

それ以外の対空及び対潜兵器、チャフに代表される防御兵装の制御はイライザ・ズィーカー中尉が担当する。

「レーダーシステム、センサーシステム、ソナーシステム――オールグリーン」

単純な仕事量と責任性を考慮した場合、最も過酷なセクションとなり得るレーダー管制官も複数人体制が一般的だ。

Aチーム当番時の部署責任者はエーラ=サニア・ムリヤンケ中尉が務め、もう一人は彼女の補佐に回る。

「指揮通信システム、オールグリーン!」

艦隊の連携に欠かせない通信システムを扱うオペレーターもやはり2人体制となっており、Aチームメインオペレーターにして最年少ブリッジクルーのエミール・カザマ中尉が代表してシステムオールグリーンを宣言する。

「全セクション、オールグリーン! 続いて随伴艦の状況確認!」

各部署の報告を聞いた副長のシギノ・アオバ中佐はそれを大声で復唱すると、同じく最終チェックに入っているであろう僚艦たちを遠回しに急かすのだった。


 短距離戦術打撃群はミサイル巡洋艦と複数の駆逐艦で構成される典型的な水雷戦隊。

本来編入されるはずだった航空巡洋艦などの準備が間に合わなかったため、当面の間はルナサリアン戦争時代から慣れ親しんだ編成で任務に当たることになる。

「こちら駆逐艦ペーガソス、全セクションの確認完了」

短距離戦術打撃群に所属する駆逐艦は全て"ジェネラル・ビアンキ級全領域駆逐艦"に分類される同型艦。

その3番艦"ペーガソス"のステファン・オルフェーヴル中佐はオリエント国防海軍では珍しい男性艦長だが、完全女系社会の中でも良い働きをする男として知られている。

「駆逐艦ランボルト、本艦も全セクションの確認完了しています」

6番艦"ランボルト"の艦長はティファニー・ヌービル大佐。

冷静沈着な指揮で艦隊を支えてきたメガネ美人の智将である。

「こちら駆逐艦ヒュルケンベルグ、レーダーシステムの最終チェック中――たった今完了した。全セクション、オールグリーン」

短距離戦術打撃群の艦長たちで最年長のアール・エイト大佐が乗り込む11番艦"ヒュルケンベルグ"は最終チェックに手間取っていたが、あまり心配する必要は無さそうだ。

「駆逐艦カチュア、全セクションの確認完了!」

そして、艦隊の殿を務めることが多いジャンヌ・シュレッサー中佐の12番艦"カチュア"はスムーズに出撃準備を終えていた。

「……艦隊全艦の出撃準備完了しました。艦長、号令をお願いします」

全艦の準備完了を確認したシギノは艦長席に座るメルトにそれを報告し、彼女の合図でいつでも出撃できる状態であることを伝える。

「船体固定用アンカー全基解除! ドック開放と同時に機関微速!」

「了解、船体固定用アンカー全基解除――収納を確認」

副長の言葉に頷いたメルトからの指示を復唱しつつ、操舵席のコンソールパネルに並んだ各種スイッチを操作するマオ。

港湾施設と船体を繋いでいた錨の接続が解除され、船体内部へゆっくりと引き込まれていく。

「周辺警戒を厳とせよ!」

神出鬼没のレヴォリューショナミーはいつ仕掛けてくるか分からない。

VInMiC(ヴィンミック)(ヴワル統合軍事拠点)周辺はオリエント連邦の中心部とはいえ、用心に用心を重ねたいメルトは全艦に対し厳重警戒を命じる。

「艦載レーダーに敵影無し、地上のレーダー施設もアンノウンは捕捉していません」

「敵にとっては港を出る瞬間が狙い目だ。奇襲攻撃を受ける前に速やかに出港したいところだな」

レーダー管制官エーラ=サニアの座席に手を置きながら同じレーダー画面を確認すると、シギノは艦長の方を振り返り"このタイミングでの敵襲は十分あり得る"と指摘する。

「ええ……さすがに出オチで終わるわけにはいかないわね」

年上の副長に同意するようにメルトは軍帽を被り直して気合を入れる。

「短距離戦術打撃群、抜錨! 出港した艦から複縦陣の配置へ移行せよ!」

ドックと外界を隔てる扉が完全に開け放たれ、先ほどのメルトの指示通りアドミラル・エイトケンは微速前進を開始。

秋晴れの穏やかなヴワル湖にその威容を現すのであった。


 オリエント連邦を出港してから2日後――。

短距離戦術打撃群は国境線を越え、隣国ロシアの軍港都市ムルマンスクに停泊していた。

より正確に言うとムルマンスク市を含む閉鎖行政地域組織"ムルマンスクZATO(ザトー)"のエリア内にある、ロシア北方艦隊の拠点ポリャールヌイ海軍基地に投錨している。

「――そうでありますか」

そのポリャールヌイ海軍基地の施設内でロシア軍関係者たちとの会談に臨んでいるカリーヌ。

短距離戦術打撃群に与えられた最初の任務は"ヨーロッパ諸国への軍事支援"だが、同部隊の事実上の最高指揮官であるカリーヌにはいくつかの独自且つ強力な権限が認められている。

彼女はそれに含まれている《軍事作戦への利用に限られる制限外交権の付与》《任務遂行における作戦変更の決定権拡大》を行使し、友好国のロシア軍から何かしらの支援を引き出す算段だったのだ。

「うむ、我々も可能な限り情報収集には務めておりますが……」

とはいえ、レヴォリューショナミーの宣戦布告及び奇襲で混乱しているのはロシアも同じらしい。

基地司令と思われる軍高官の男性の言葉を総括すると、現時点では情報収集はあまり進んでいないという。

「いえ……お気になさらないでください。有益な情報は今後の調査によって必ず挙がってくるはずですから」

申し訳なさそうに首を横に振る軍高官を励ますように優しくフォローするメルト。

短距離戦術打撃群艦隊旗艦の艦長という役職の都合上、こういった場におけるメルトは"短距離戦術打撃群のヒロイン"として必要不可欠な存在だ。

「情報提供の代わりと言っては何ですが、食料品や生活用品については無償で補給できるよう手配いたします」

対レヴォリューショナミー戦に役立ちそうな情報は得られなかったが、ある意味ではそれ以上に直接的な支援となり得る補給の融通を引き出すことには成功した。

オリエント連邦本土を出たばかりなので物資には困っていないとはいえ、友好国が少ない地域での長期展開に備えてストックしておけば後々役に立つかもしれない。

「当地を出港後の行き先はどちらへ?」

「それは軍事機密にあたるので詳細はお答えできませんが、我々は西ヨーロッパへ進出する予定です」

別の軍高官からの質問については"軍事機密"という名目で明言を避けつつ、それでいて失礼に当たらないようカリーヌは極めてアバウトな返答で茶を濁す。

軍事的には同盟国と呼べるほど関係性であっても軍事機密への詮索を許すわけにはいかなかった。

「……であれば、当地に駐留している北方艦隊の一部を護衛に就かせましょう」

「帯同できるのはノルウェー海までになりますが、奇襲攻撃を狙う敵対勢力への牽制になるはずです」

幸いにもロシア軍の関係者たちは機密保持の意図を理解してくれたようだ。

そればかりか彼らは短距離戦術打撃群の戦力不足を気に掛けているのか、ロシアの勢力圏にいる間は護衛艦隊を付けることを申し出てくれた。

「ベックス艦長の華々しい戦功はよく存じております。前の戦争では貴官らの活躍に幾度と無く励まされましたからな」

「ありがとうございます……! 貴国のご厚意に感謝いたします」

ポリャールヌイ海軍基地のロシア軍関係者たちが親切な理由は至って単純明快。

彼らは照れくさそうにしながら丁寧に頭を下げているメルトの大ファンだったのだ。

【ムルマンスクZATO】

ZATO(ザトー)とは"閉鎖行政地域"のロシア語略称の頭文字である。

軍事産業や原子力産業の機密保持を目的に設定されており、ロシア北方艦隊が拠点とするポリャールヌイ海軍基地もZATO内に位置している。

ZATO内の都市は外国人はおろかロシア国民及び地元住民の出入りさえ制限していることから、俗に"閉鎖都市"と呼ばれる。

なお、名称に"ムルマンスク"とあるがその由来となったムルマンスク市はZATOに含まれておらず、むしろ"軍港に一番近い都市"を売りとすることで観光産業の振興を図っている。

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