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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 2-4】その扉の向こうに待ち人あり

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【97】機械仕掛けの守り神(前編)

 前衛を務めるライガとリリカが次に進むべき通路を探し回っている間、それ以外の3人――ルナールとレカミエとクローネは全領域作業ポッドを護衛しつつ、広大な地下空間の中央に立つ"巨人"を調査していた。


「頭部は……一つ目のオオカミかしら? エジプト神話の神様みたいな姿だけど、それにしても奇妙な人型ね」


罠の存在に細心の注意を払いながら"巨人"の頭部に接近したクローネは、そのデザインの奇抜さを指摘する。


イヌ科動物の頭部を模した姿は確かにエジプト神話の神アヌビスを彷彿とさせるが、一方でエジプト文明のイメージとは決定的に異なる部分も見受けられる。


例えば、全体的な質感や工作精度は明らかに"古代兵器"のそれではない。


「《中央記念公園区画ノ全出入口ヲ封鎖シマス。一般住民ハ速ヤカニ退避、マタハ近クノシェルターヘ避難シテクダサイ》」


その時、警報音と共に機械音声によるアナウンスが地下空間の響き渡る。


「何だ……!? 何語だ? 何と言っているんだ?」


現在地球で使われているどの言語にも該当しないアナウンスに困惑するレカミエ。


「おい……くそッ! ここに来る時に通ったトンネルが塞がされた!」


そして、地下空間からの脱出方法を模索していたライガは想定外の事態に声を上げる。


アナウンス時に壁面の一部が赤色灯で照らされていたのでまさかとは思ったが、本当に閉じ込められるとは考えていなかった。


「さっきのアナウンスはそれを言っていたのか……!」

「《侵入者撃退ノタメ全テノ武力行使ヲ認マス。ウプウアウト、起動》」


聞き取れなかったアナウンスの内容をようやく察したルナールが唇を噛み締める中、機械音声は謎言語で淡々と喋り続ける。


「くッ……地震――いや、この巨人が揺れているのか!? こいつ……動くぞ!」


アナウンスが終わると今度は地下空間が地震のように揺れ始める。


これが本物の地震且つ地盤が軟弱だったら崩落の恐れがあったが、リリカは震源が地下空間の中央に立つ"ウプウアウト"の武者震いであることを見抜く。


「《我ラガ機械仕掛ケノ守リ神ヨ、我々ノ平穏ヲ乱ス輩ニ死ノ鉄槌ヲ》」


機械音声の正体――この地下空間を含む巨大構造物を築いた文明は、ウプウアウトのことを機械仕掛けの守り神と呼んでいるらしい。


もっとも、この時点ではスターライガチームの面々にそれを知る術は無かったが……。



「ッ! 一つ目が光ったぞ!」


ポッドの副操縦士席に座るフランシスは"巨人"のモノアイが不吉に輝くのを見逃さない。


「くッ……いかんッ!」


持ち前のイノセンス能力でそれが攻撃の前兆であることを察知したのだろうか。


ライガは焦るようにスロットルペダルを目一杯踏み込み、愛機パルトナ・メガミRMをポッドの前に飛び込ませる。


「ライガさんッ!!」

「ぐぅぅ……ッ!」


クローネが悲鳴に近い叫び声を上げた次の瞬間、血のように赤黒い極太レーザーがライガのパルトナを襲う。


背後に護衛対象がいる彼は強力な攻撃をあえて回避せず、実体シールドで真正面から受けに行く。


レーザーの範囲に対して防御面積が明らかに足りていないが、それでも白と蒼のMFの真後ろには安全地帯が生まれる。


「攻撃を止めさせろ! 頭部を――カメラアイを狙うんだ!」


パルトナは平均程度の防御力を持つ機体だが、長時間の高出力レーザー照射に晒されたらさすがに耐えられない。


"リーダー"の窮地を救うべくルナールは咄嗟に攻撃指示を出し、自らも乗機スードストラディヴァリウスの4砲身ガトリングガンで牽制を行う。


「ファイアッ!」


それにクローネのシン・フルールドゥリスが多銃身拡散レーザーライフルによる援護攻撃を重ねたこともあり、レーザー発振器を兼用していると思われる赤いモノアイの破壊に成功する。


「よし、怯んだぞ! 今のうちにポッドを下がらせろ!」


レーザー照射が停止しバックアップのサブセンサーへ切り替わる僅かな隙を突き、リリカは牽制攻撃を続けながら護衛対象を最大限後退させるよう命じる。


スターライガチームには指揮系統に基づく明確な上下関係が存在するが、緊急時は必要に応じて指揮官以外が指示を出すことを許容する柔軟性も併せ持っている。


「ライガさんッ! 大丈夫ですか!?」

「ああ……シールドは融けたが、機体は問題無い」


クローネの心配とは裏腹にライガのパルトナはシールドを失い、左腕の装甲表面が熔解した以外に目立つダメージは見られなかった。


「だが、この"巨人"を倒さなければ先には進めなさそうだ」


当面の危機は凌いだ。


しかし、レカミエの言う通りこれは逃げることができない"ボス戦"であった。



「全機、このサイズの敵の攻撃をまともに食らったら一発でアウトだ!」


ライガたちが駆る機動兵器MFは大型機でも全高5~6m・全備重量6~7t程度の数値に収束している。


一方、彼らが対峙するウプウアウトは小さく見積もってもMFの約6倍――35m程度はありそうだ。


重量は体積に比例すると考えられるので、2乗3乗の法則に当てはめて計算すると6×6×6=216倍となる。


密度や比重の違いを考慮しない単純計算の場合、"巨人"の機体重量はヘビー級MFの約216倍――おそらく1000tは超えるだろう。


無論、実際にはこの地下空間の地面を踏み抜かない程度には軽量化されているはずだが……。


「攻撃来るぞッ! 回避ブレイクッ!」


ウプウアウトの巨大な剛腕――メイスのような武器を持った右腕が動く予兆を感じたリリカが叫ぶ。


「……ッ! こういう風に避けるんだ!」


その一撃はあまりに大振りなためスローモーションに見えるが、実際の速度は明らかに音速を超えていた。


しかし、音速よりも速く振り下ろされる巨大なメイスをライガのパルトナは最小限の動きで回避。


強烈な風圧に煽られながらも、それさえも巧みに利用して機体をスマートに立て直してみせる。


「そのてのひらの餌食になるわけにはいかないな……!」


"巨人"のパイロット――または自律制御用AIの戦闘センスは決して悪くないようだ。


右腕が振り下ろし動作から復帰するまでの間、フリーになっている左手で周囲を飛び回るMFを捕まえようとしてくる。


大質量にモノを言わせた原始的な攻撃は絶対に防ぎようが無い。


ルナールが実践しているようにこの状況では完全回避こそ最大の防御となる。


「これだけの巨体だ。下手な攻撃は全く通らないかもしれない」


また、30mを超える巨体を支える強度も極めて厄介だ。


レカミエは有効な攻撃を与えられずジリ貧になることを懸念していた。



 確かにウプウアウトはデカく、速く、しかも硬い。


真っ向勝負で挑むのはなかなかに骨が折れる。


「さっきはよくダメージが……そうか! 脆い所――例えば関節部とかを狙えば……!」


だが、賢いクローネは単純明快な活路を見い出す。


つい先程の攻撃で破壊したカメラアイに剛腕と剛脚を動かすための関節部――人型ロボットには構造上防御が難しい箇所がいくつかあった。


「ルナサリアンの巨大ロボットと戦った時を思い出せ! 全機、火力の出し惜しみはするなよ!」


じつはスターライガチームは3年前のルナサリアン戦争の時、旧ルナサリアンが投入した巨大ロボット型超兵器と交戦したことがある。


その超兵器も量産型でありながらMFの5倍近いサイズを誇る巨人だったが、ライガたちは小回りを活かすスズメバチのような戦い方でそれを全て撃破していた。


「了解! 最大火力の押し付けならば得意分野だ!」


根本的な質量が桁違いの相手に対しては、ありったけの火力を叩き込まなければ有効打にならない。


ルナールのストラディヴァリウスは最強武器であるギガントソード――MF用超大型実体剣を抜刀。


剣と言うにはあまりにも大きすぎる得物を構えながら攻撃態勢に入る。


「短期決着で行きましょう。時間を掛けるほど護衛対象にターゲティングが向かうリスクが増す」


レカミエも乗機νベーゼンドルファー(Vスペック)の"グラン・アルブル"を背部から分離。


両手持ち式の超大型ツーハンデッドビームソード形態に切り替え、足を止める必要が無い格闘戦を積極的に仕掛ける。


「巨人ってのは駆逐される存在であることを、奴らに教えてやらないとな!」


同じ小隊の2機に比べるとリリカの強化型νベーゼンドルファーは一撃が重い武器を持たず、純粋な攻撃力では少なからず見劣りする。


ただし、優れた運動性と6基のオールレンジ攻撃端末を活かした豊富な手数、そしてリリカ自身の技量により火力不足をカバーしていた。

【2乗3乗の法則】

ある物体の代表長さ(数学で言う変数のようなもの)が比較対象のn倍とした場合、面積はnの2乗、体積はnの3乗に概ね比例する法則性のこと。

例えば人間をそのままの形で10倍に拡大すると体重(体積に比例するとされる)は10×10×10=1000倍となるが、それを支える脚部の断面積は10×10=100倍にしかならない。

つまり脚部も相応に太くしなければ筋肉量が不足し、運動どころか自分自身の重さに耐えられないのだ。

仮に体重だけ今の10倍に増加したら、あなたの足はどうなるか――想像に難くないだろう。

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