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第5話 魔法の訓練

 翌日。



「起きろーアマリリスゥー早速研究の時間だー!!!」

「うげえええええ……!!!」



 アマリリスはディートリヒに身体を叩かれたことで、ようやく目を覚ました。



 ドラゴンに転生したのは夢かもしれないと僅かながら考えていた。しかし目の前の研究第一な青年の存在が、現実であることを嫌でも思い知らせてくる。



「……私、本当にドラゴンなんだ」

「当たり前のことを述べてどうした、ドラゴンは三歩で全てを忘れるチキン頭なのか」

「そういうんじゃないですー……!」





 アマリリスはディートリヒに連れられ、家まで戻ってきた。そして中庭で待機する。




「さて、今日貴様に行ってもらうのは、魔法に関することだ」

「魔法? やっぱりそういうのあるんだ」

「『そういうのあるんだ』、だと……?」



 ディートリヒは朝食のサンドウィッチを食べていたのだが、その手を止め、勘ぐるような視線をアマリリスに向ける。



「……あっ!! えっと、違う、これはえーっと……!!」



 アマリリスは自分の失態に気付く。魔法なんて知らないことがバレたら、異世界転生してきたという事実にまで首を突っ込まれるのではないかと。



 だがディートリヒは冷静な態度を保ち続けていた。



「ふむ……魔法すら知らないなら、昨日のあれも納得いくか……」

「え、あれって……襲われていたこと?」


「そうだ。アマリリスの魔力量は非常に高いが、それを放出する方法を知らないとなると、あのような失態を晒すのも無理はない」

「失態って言うなよぉ……」



 落ち込むアマリリスだったが、ディートリヒが納得してくれたことにひとまずほっとする。



「というか、魔法を知らないドラゴンって有り得るものなの? 私以外にもいたりする?」

「どちらの質問に対しても、明確な回答ができん。ドラゴンは謎と神秘に包まれた生物なのだからな」

「謎と神秘……」




 ここでディートリヒは家の中に入っていく。サンドウィッチの皿を片付けると一緒に、一枚の絵を持ってきた。


 


「人間やその他大勢がどれだけ文明を積み上げても、ドラゴンは理不尽にそれを破壊していく。かと思えば恩恵を齎すこともしばしば。最も強い力を持ちながらも自由で気まぐれ、災害にも等しい存在だ」



 ディートリヒがアマリリスに見せた絵には、ドラゴンらしき存在が何体も描かれており、中央には黒い渦を巻いた物体が鎮座している。



「アマリリスは知っているか? この世界の成り立ちについて」

「知らないけど」

「なら端的に説明してやろう。創世の存在から10体のドラゴンが生まれ、創造主を破壊し、世界を人間やその他諸々に明け渡したのだ」

「世界創世にもドラゴンが関わっているんだね。凄いや」



 そして、自分もその凄い種族である。絵も交えて説明されると急に実感が沸いてきた。



「その通りだ……そのような存在について研究することは、やはり世界の真理を究明するのと同義なのだ。存分に理解できたな?」

「ハイ……存分に……」



 だから研究させろという無言の圧を、アマリリスはディートリヒからひしひしと感じるのであった。




 その後アマリリスは、身体に十数本の配線を接続させられる。



「……何これ」

「魔力の流れを可視化する装置だ。貴様が魔法を放つと身体が光るが、それだけだ。安心して魔法を使えるぞ」



 配線先は家の中にある魔道具に繋がっているので、若干動きにくいアマリリスだが、それはそうと深呼吸をする。



「ふんすー……」

「おっ、気合十分だな。なら貴様には闇のブレスを放ってもらおう」

「ブレス……できるかなあ……」



 アマリリスの脳裏には、ゲームとかで火の息を吐くドラゴンの姿が浮かぶ。あれの闇属性版だと思うことにした。



「安心しろ、貴様ならできる。魔力量が足りないが故にスカることがないのだから」

「……それはいいんだけど、どうやって出すの」


「ブレスなんだからまず口から出すだろう。口を大きく開けて、そこに魔力を集中させる。後は闇属性に変換して放てばいい」

「説明が抽象的すぎるよぉ……」



 だがこの手の技術というのは、得てして曖昧になるものだ。スポーツ選手のアドバイスだって実際にやってみないと実感が沸かないのと同じである。



 そうやって自分を強引に納得させたアマリリスは、口を大きく開く。




「すぅー……」



「……はぁ」



 息を吸ったはいいものの、緊張して上手く吐き出せない。ただの深呼吸で終わってしまった。



「どうした、何故ブレスを出さない?」

「出さないんじゃなくってぇ……緊張して出せないのぉ……」

「ふむ、緊張か。どれどれ」



 ディートリヒは立ち上がったかと思うと、


 一切の躊躇なくアマリリスの腹をくすぐり始めた。



「!? ちょ、ちょっとぉ!!」

「緊張しているならほぐすに限る!! ドラゴンであろとも腹を触られたら力が抜けるだろう!!」

「や、やめてぇ……!」




 これが仮に人間の女性だったら、紛うことなきセクハラである。違う種族だからこそ為せたこの抵抗感のなさ。


 アマリリスはその件について文句を垂れてやろうと思ったが――口から黒い奔流が流れ出したので、それどころではなくなる。




「おおっ!? 出たな!? 今の気配はそうだ!! もう一度やれ!!」

「えっ、あっ、うん……!」



 つい先ほどの感覚を思い出して、アマリリスは口を開ける。緊張が本当にほぐれたのか、身体が軽くなっており――


 今度はしっかりと闇のブレスを吐くことができた。正面の植物が黒く染め上げられていく。



「よしよしよしよし!! よくやった!! よくやったぞアマリリス……!!」

「え、えへへ……!」



 ディートリヒはわざわざアマリリスの肉体をよじ登り、頭頂部を撫でた。


 鱗に包まれているはずなのに、その感触が鮮明に伝わってくる。最近忘れていた感情が込み上げてきた。



(闇で陰キャで根暗な私でも……役に立つことができたんだ……)


(嬉しいな……誰かに褒められるのって、こんなにも……)





「よぉーし……! 今の何回か繰り返してみてくれ!! 魔力の流れを観測したら、今度は訓練に移ろう!!」

「く、訓練?」



 スケッチをしながらディートリヒは早口で続ける。



「今の貴様のブレスは、体内の魔力の一部しか消費していなかった! これを調整できるようになれば、有用な攻撃手段になること間違いなし! 貴様にはその可能性がある!」

「可能性……可能性……!」



 上手くいけば今のブレスよりもっと強力なものを吐けるのかもしれない。そう思ったアマリリスはやる気になっていた。



「そしてこの数日のうちに、貴様を脅迫材料にできるだけに育て上げてやるからなー!!」

「うん!! 脅迫だね!! 私頑張るよ!!」




「……脅迫?」



 突然物騒なことを言い出したディートリヒの目は、今後の未来を想像しているのか、とてつもなく輝いていた。

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