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一話︰貴方の美しい瞳に

 

 俺の名前は西条りあ。

 好きな食べ物は南瓜の煮物、好きな属性は風と炎。特技は正座したままの睡眠とポジティブシンキング。

 異世界転生してはや六年、転生特典で手に入れたチート魔眼で好き勝手暴れ、世界中を回って魔物を狩りまくり、やっとのことで魔王討伐を果たしたくらいの大ベテランである。

 魔王をぶち殺した恩賞ということで、国王さまから馬鹿みたいな大金を貰えたので、見晴らしのいい丘に孤児院を建ててみたのが昨年のこと。

 今の肩書はここの院長ということになるのだろうか。


 なにせつい先日までバケモノが暴れまわっていた世界なのだ、身寄りのない子供たちは大勢いた。

 そんな子たちをひきとって、街を回って備品を揃えて、孤児院を長期運営していく資金繰りに目を回して、病気の子を病院に連れて行って、時々は魔法や勉強を教えたりする。

 どれもそれなりに大変だけど、どれもそれなりにやりがいがある仕事で、それなりに楽しく毎日を過ごす。結構満足できる幸福な日々。


 しかしそれなりに忙しいことも事実であり、直近の仕事は孤児院長期運営を見越した資金の確保。国中を走ってお偉いさん方の長話を聞いて回り、三徹の末に孤児院に帰った時には月が出ていた。


 欠伸をしながら自室に戻ると、机の上にティーポットが置いてある。

『いつもご苦労さまです、お帰りになられたらお飲みください』とアリアの名前が添えられたメモが置かれていた。

 目撃した瞬間歓喜に震えた。なんてことだなんてことだなんてよくできた子なのだ、紅茶の淹れ方なんて教えた覚えはないのにあの子は天才なのだろうかと、狂喜乱舞しカップを傾けた。


 そこから先の記憶はなかった。


「で、俺としてはアレは紅茶じゃなくてアルコールだったって説を考えているんだけどどうかな?アリアが俺を労って用意してくれたお高い特別なお酒だったり?」

「………………お前状況わかってんのか?」


 副院長であるシクラは煽るように言う。

 全く失礼な話である俺の現況の理解は完璧である。


 目が覚めたら手足を縛られ、孤児院の地下室にて副院長+子供たち16名に囲まれ見下されている。

 正面のシクラは凍りついたような真顔だが、子供たちが妙にニヤニヤとした笑みを浮かべているのが印象的。

 自身の体調についても上述するのであれば、『手足が痺れて気分が悪く体の節々に力が入らない』といったところだろうか。


「うーん、みんな楽しそうだしパーティーでも始めんの?手足を縛らないといけないパーティーとなると中々特殊な趣向に思えちゃうんだけど……」

「クーデターだ。お前の動きを止められるだけの薬を盛った。優秀な教え子がわざわざこの日の為に作ってくれんだ。嬉しいだろ?」

「………………はぁ、くーでたー?」


 イマイチぴんとこない単語に首を傾げる。


「くーでたーって、あのクーデター?孤児院だぞ?シクラお前気は確かか?」

「俺は至って正常だ目的は金だよ。院長室の金庫に溜め込んでるだろ。十分裏切るに値する額だ」

「…………はぁ?」


 またもや理解に苦しむ言葉で首を傾げていると、アハハと甲高い笑い声を投げかけられる。

 シクラの隣に立つ見知った女の子。先月十六になったロベリアの声だ。


「アハハ、アハハハハ!ここまで馬鹿だといっそ哀れだなぁ!はっきり言ってやろうかアンタはもう用済みなんだよ!」

「お金さえあれば貴方の汚い顔を見る必要もないってこと!今まで保護者づらできて楽しかった!?」

「ねぇさっさと終わらせようよ……こいつが視界に入っているだけで不快だからさ……」


 ロベリアの声を皮切りにして、子供たちが次々と俺を罵り始める。

 俺の年齢はぱっと見三十代後半。中年のおっさんが地面に転がり女子中学生〜高校生の集団に蔑まれているという地獄のような光景がそこにあった。


『俺ってこんなに嫌われてたの?』『こんなお行儀の悪い真似をしちゃだめだろう』『小遣いは十分与えていただろうが』。言いたいことは色々とあったが、端的に言ってふつうに悲しかった。

 一応は仲間と思っていた人に裏切られたのだ。トーストを床に落としちゃったときの三倍程度の哀感が徐々に胸の内で膨らんでいく。


「く、くそっ裏切りやがったのか薄情者どもがぁ……!……まあこうなったらどうしようもないし、大人しくクーデターされるよ。クーデターされるの初めてなんだけど俺ってこれから追放されんの?着の身着までは取らないでもらえると助かるんだけど。通報されちゃうし」


 子供たちの罵声がいっそう大きくなる。

 興奮し過ぎなのが心配になってくるくらいに取り乱しがなり散らしている。


 しかし流石というべきか、シクラだけが冷静に静かにじっとこちらを見ている。


「危機感のなさに呆れるな。敵をみすみす開放するわけないだろう。やれ」

「いや具体的に言えよ。やれって何を…………あ゛っ!」


 べちょ、と嫌な音がする。

 シクラの合図にあわせて、ロベリアがフォークを力強く振るった。右眼に嫌な激痛が走る。ぱたたと血が飛び散る音がする。


「……………………痛ぇ……!暴力に頼るのかなんて奴らだ……!」


 反射的に瞑った目を開き、恐る恐ると見てみると、魔眼がぽつんと床に転がっていた。


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