出会い
「先生!大変です!また伊藤さんが
いなくなりました!!」
「また?! 困ったね… 」
「親御さんに連絡した方がいいですよね?」
「いや、敷地内のどこかにはいると思うんだ。
ちょっと手が空いてる人がいたら探して貰って!」
「わかりました!!」
久しぶりに実家に帰ってきたら何やら騒がしい…
「あー、拓真くん!おかえりなさい!」
私を発見してそう言ってくれたのは、
ウチの父親が営む小さな診療所の受付をしてくれている、古株事務の片瀬さん(多分70代)だ。
「ただいま片瀬さん。…何か急患ですか?」
バタバタと駆けずり回るスタッフの皆さんを横目に
訊ねる。
「どうも入院患者さんが1人、いなくなっちゃったらしいのよ。」
「…それは大変ですね…。」
事態は想像より大変だった。
「どう?大学は…医大生なんて大変でしょう?」
片瀬さんは私を小さい頃から知っている人。
身内のレベルで心配してくれる。
「そうですね、まだ始まったばかりですけど…
学年も上がるにつれて大変みたいなので、今年はひとまず帰ってきました。」
帰れる時には…そう思って今年は帰省した。
「そうよ、そうよ。帰れる時は帰ってらっしゃい。
私も拓真くんに会えて嬉しいよ…」
まるで孫の帰省を喜ぶおばあちゃんみたいだな…
有り難い事だ…。
私は片瀬さんに軽く会釈して受付を後にする。
ここは都内から高速で4時間離れたL県の田舎町。
私の実家はこの田舎町の小さな診療所。
私は幼い頃より父親の医者としての背中を見て育ち、
いつしか医者になることを当たり前と思って成長した。
医者になるために今は寮に入り、都内の大学へ通っている。
診療所の裏手にある実家に着く。
診療所と同じ石造りの古めかしい実家。
「?」
玄関先に何かいる。
静かに近づくと、玄関の柱に凭れて女の子が寝ていた。
中学生くらい?
さらさらのボブヘア。Tシャツにハーフパンツ。
肌の色が透けるほど白く、手足の長さが際立つ。
元気なスタイルだが…今は夏。
蚊に刺されないか?
と余計な心配をしつつ、どうしたものか考える。
とりあえず…家に入れるか?
いやしかし…どうやって? 運ぶ?
セクハラで訴えられ兼ねないぞ?
仕方なく起こしてみることにする。
恐る恐る肩を叩いて、「あのー、もしもし?」と
言ってみる。
やがて女の子が目を覚ました。
目覚めた女の子は整った顔をしていた。
瞳が大きくて吸い込まれそう…
「大丈夫かい?」
私が声をかけると「寝てただけだから…」とクールな
返事。
「あー、蚊に刺された〜」そう言って女の子は
突然手足を掻き出す。
「わー、待って!掻いちゃダメ!薬、あげるから!!待って!!」
私は慌てた。
こんなに白い肌、皮膚がいかにも弱そう。
案の定、彼女の肌は掻き跡がすぐに赤くなって
血が滲んできていた。
私は慌てて家から薬を持ってきて女の子に渡した。
「…ヒリヒリする。」
と薬を塗りながら女の子は文句を言う。
「ここは私の家、病院の敷地なんだけど、君はどこから来たの?」
疑問だったことを口にする。
「んー?病院から抜けてきた。暇だったからちょっと散歩したくなって…。」
その言葉を聞きながら私は顔を蒼くする。
「もしかして入院してるの?」
さっきの騒ぎの原因はこの子なんじゃあ…?
「あー、うん。一応…」
私は急いで携帯を取り出し診療所に電話をかけた。
「君、名前は?」
「伊藤奏だよ。」
ビンゴ!!!!!
私はその後慌てて女の子を入院病棟へ連れて行った。