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sideアルト・トリオ視点? 婚約しよう!


◆sideアルト・トリオ視点? 婚約しよう!

 ── 俺はアルト・トリオ、21歳だ。伯爵家の長男として生まれた。伯爵家でも将来性を見込める豊富な鉱山の資源があり金持ちというか、伯爵家としては裕福な方らしい。


 あー ……それと、普通の貴族の子息ならデビュタントは15歳で披露するが、理由があって4年前の17歳の時におこなった。







 父をバス・トリオ伯爵に持ち、元子爵令嬢だった母をソプラノニア・トリオ伯爵夫人として迎えて俺が生まれた。


 フェリ……フェルマータ・カルテット嬢の母親のトレモロリア・カルテット侯爵夫人と俺の母親は、母の子爵家と侯爵夫人の生家のセクステッド伯爵家が隣接していたため子供の頃からの親友らしい。


 おまけに二人が結婚した時期も母が先に、それを追うように侯爵夫人が結婚し、互いの子供が異性として生まれたら、嫁に出そうか貰おうか、婿に出そうか貰おうかと、口約束であったがずっと以前から交わし合ったらしい。


 もちろん、トリオ伯爵領とカルテット侯爵領も隣接しているので、俺とフェリも幼馴染だ。


 まあ……幼馴染みと言ってもフェリは俺より5年遅く生まれたから、幼少時は義妹みたいなものだと思ってた。


 フェリの妹のレガートリータ嬢がよちよち一人歩き出来るようになった1歳くらいの頃から、母親に連れて行かれたり、連れてこられたり、互いの家をよく我が物顔で行き来してたな。






 俺が9歳、フェリが4歳、レガートリータ嬢が2歳の時。


 高い樹にたわわに実っている果物を食べたいと3人とも言い出して、俺がするすると登って3人分もぎ取っていると、レガートリータ嬢も真似してみたいと無理して登ろうとして、下の方の細い枝を掴んだと思ったら、次の瞬間には落ちていた。しかもその下に大きな石が突き出た場所があって、頭から血が出るほどの怪我をした。


 俺もフェリも慌ててパニックになったが、近くにいた伯爵家の騎士の一人が気付いて急いでレガートリータ嬢を伯爵邸に連れ帰り、医者の手配と親への連絡をしてくれた。それに出血の割に大した怪我でなく、医者の手当が早くて事なきを得た。


 ただ双方の4人の両親たちからこってりと説教というお小言と、ゲンコツを貰った。


 この時からあの時助けてくれた騎士みたいになりたい、俺も強くなって義妹たちを守れるようになりたいと漠然と思うようになった。


 それで親父と伯爵家の騎士たちに健康や運動や護身術のためにも剣を習いたいとお願いして、非番の騎士や親父に呼んでもらった教師に木剣を振り回して稽古を付けてもらうようになった。


 するとフェリから何でそんなことしてるんだと聞かれた。俺は義妹みたいに思ってる幼馴染たちに2度と怪我をさせないためだなんて恥ずかしくて言えず、


 「あー …… 俺は考えるより、身体を動かす方が好きなんだよな」ともっともらしく思える言い訳をしてフェリを納得させた。






 その思いが決定的になったのは、母親似で俺と違って将来女にもててさぞや大変な目に合いそうな賢そうな弟のテナー ……テノールが生まれた時だ。


 その間、騎士になるためにはどうしたらいいか色々調べて、そのためには家督はない方がいいと思った。


 11歳の時に、12歳から入れる士官学校に入りたいと親父に駄々をこねて口喧嘩になった。貴族の子息、ましてや跡継ぎなら王立学校に入るのが普通で、士官学校は低位の貴族や平民、嫡子でない次男以下が入るのが常だったからだ。


 最初は士官学校に入りたいなら勘当するとまで言われたが、母の執り成しで3歳から頭の良さを発揮し始めたテノールに家督を譲り、侯爵家の2人の令嬢のどちらかに婿入りすると言う話にまで発展してなんとか認めてもらった。


 だがその時はまだ幼馴染の2人のどちらに婿入りするかまで具体的には決まってなかった。そんな俺が、フェリを義妹でもただの幼馴染でもなく女性として意識し出したのはいつからだろう? 






 12歳になり士官学校の入学試験に合格して入学準備をし始めた頃、彼女の祖父のセプテット前公爵閣下の葬儀で、7歳とは思えない凛と毅然とした姿で弔問客たちと挨拶し続ける姿に、野山を駆けた幼馴染と違う姿に、一目惚れした。


 喪服を着た女性は常になく魅力的に見えるんだと年上好きのませた友人が話してくれてたせいもあるかもしれない。確かに、大人たちを相手にして12歳の俺よりもよっぽど彼女の方が大人じゃないかと。


 しかしお客さんたちの対応を終えて子供たちだけで放置されると、緊張が解けたのか俺の胸に縋りつくように『おじいさんがいなくなっちゃった』と泣きじゃくった。さっきまで大人だと思ってたのに、ただの可愛い女の子だったんだと気付いた。


 だから俺は恰好つけて、『可愛い孫のフェリが泣いてばかりいると、心配して爺さんが安心して天に昇れないぞ?』なんて言った。


 するとあふれる涙をこらえようとする意地らしい姿に、なんだか胸が締め付けられるように動機が激しく苦しくなって、俺が守ってやらないとと意識し出すと、異性として好きになっていた。


 しかし俺はもうすぐ士官学校に入り、強制的に寮に入らされるので、卒業するまでの6年間は、手紙も家族や婚約者など必要最低限の身内以外には許可されず、当然彼女には会えなくなる。休暇で家族のもとに帰れるのは年度が切り替わる1週間だけという徹底して厳しい校則だった。


 最も、忌引きや卒業見込みで試験や授業が免除された時など、家族に会いに行ける方法はあるが。それでも学校に入っている間に他の誰かに彼女が奪われたらと考えると、気が気ではなかった。


 だから親父に、フェリに婚約の打診をしてくれるように頼んだ。親父を困らせたのは、弟に家督を譲ってほしいと言い合いをした時以来かもしれない。


 テナーに家督を譲り、侯爵家の2人の令嬢のどちらかに婿入りすると言う話までしていたが、相手は未だたった7歳だ。貴族の婚約は早くても相手がもう少し自分で分別が付けれる10歳以上になってからといい顔しない親父に、母にも懇願してなんとか親父を陥落させた。


 けれど事は簡単に運ばなかった。侯爵が条件を出してきたからだ。


 侯爵は、自分が認められる、例えば士官学校での成績を首席で取り続ける、騎士団で功績を残す、もしくは小さい事業でもいいから自分で金儲けで成功する、その何れかの条件を満たした後でもその気持ちが変わっていなかったら縁談を考えると条件を出してきたのだ。


 だったら俺は全部やってやろうじゃないかと奮闘した。






 6年かかる士官学校を首席を取り続けながら飛び級制度を使って4年で早期卒業。騎士としての才能を見込んでくれた先輩騎士に拾い上げられた騎士団の中で見習い騎士として扱かれながら、卒業見込みの目途が立った15歳から2年間は、親父の下で勉強と事業を覚えた。


 親父に付いていきながら侯爵閣下の手掛け始めた鉄道事業の話も知った。何かそれに関連して役に立つ仕事はないかと考えていた時に、騎士団の使い古した道具と、新しく購入した道具とを運ぶのが大変だなと、他の見習いや新人騎士達と軽い冗談混じりの文句を言い合いながらこなしていた時に閃いた。輸送事態を仕事にしたらどうだろうかと。


 普通は商品を納品する業者が持ち込むか、商品を購入した相手が受け取りに来る。もちろん、双方の行き違いや間違った商品を取り扱ったり、納品先を間違わないように気を付けることも大切だ。もちろん2度手間になるようなことだが、重すぎる物、大きな物、数が多過ぎる物、遠方に輸送する商品や、貴重な物、扱いが難しい生き物とかなど、双方の輸送中の時間と手間がかかる。


 しかしその時間と手間を他の誰かが請け負ってくれたら? そんな考えを親父に提案したら、喜んで協力してくれた。おかげで輸送関係の仕事は成功し、この輸送事業は、侯爵閣下の鉄道事業にも大いに貢献できる代物だった。


 それに騎士としても17歳の最年少騎士として同い年だが、王立学院を首席と飛び級で同じく16歳で早期卒業した同級生みたいな王太子に声をかけてもらった。


 将来、王太子が考えている精鋭部隊を作りたいが、自分が20歳になって父親の国王陛下の仕事を覚えるように引き継ぎが始まるまでは案は通らないだろうが、実現できる実力を自分が付けたらその時は来てくれないか? とまで声をかけてもらった。


 おかげで俺が17歳、フェリが12歳の時に、親父を通して婚約の許可をもぎ取った。


 だが新しい条件を告げられた。節度ある付き合いをするように。不埒な真似をしないように。健全な範囲と適度な距離を保てないようなら、すぐに婚約の話をなかったことにするからなと脅迫された。


 なんだよそれじゃ近づくことも手を握るのも抱き締めることもダメなのかよと思ったが、それでもやっと愛おしいフェリに会えればいいかと、その時は単純に考えてた。……






 こうして婚約者になって最初の顔合わせをすることになった。母や弟のテナーに何か手土産を持って行った方がいいと助言されて、何がいいかなと迷うとテナーが


 「食べ物はやめた方がいいですよ。嫌がる女性もいますからね。花なんかどうです? 花が嫌いな女性は少ないですし。ああ、けれど過剰な匂いや花粉をまき散らす花はアレルギー等を考慮した方がいいですね。それと一応花言葉とかも調べた方がいいですよ」

 

 8歳にして母に連れられた社交の場で既に令嬢たちを手玉に取ってる弟に、さすがだなと感心して花屋には、過剰な匂いや花粉の出ない花や無難な花言葉や種類の花束を作ってもらった。


 侯爵邸に先ぶれを出してから到着すると、執事のセバスチャンが5年前とは幾分老けて白髪が混じり始めた頭で対応してくれた。


 「おや。やんちゃ坊主だったトリオ卿が見違えましたなあ」と。


 「いやだなあ、セバスチャンさん。セバスチャンさんも相変わらずご壮健な上に手厳しい」


 執事に命じられたメイドに居間に案内されると、緊張しながらフェリと対峙した。5年前の7歳だったころも美少女で、将来成長したらさぞかし美人になるだろうと思ってた以上に、12歳になった彼女は俺には眩しくて綺麗だった。


 「久しぶりだなあ、フェリ。侯爵の爺様の葬儀以来だからもう5年も経つのか。妹さんや他のご家族は元気か?」


 見惚れたせいでなかなか口を開けない。なんとか緊張を解こうと、よちよち歩きのレガートリータ嬢を思い浮かべて思い出し笑いで緊張が解けた。しかしフェリに花束をつきだしてしまい、びっくりしたフェリの様子に最初から失敗したかと思った。


 恥ずかしそうに花束を受け取るフェリが、慣れていないのか不器用そうにはにかんで微笑む姿が、またさらに可愛くて愛おしく、花束を受け取った手を掴んでフェリを引き寄せ抱き締めたかった。


 「お久しぶりでございます、トリオ卿。ようこそ我がカルテット家へご足労頂き、ありがとう存じます。

 父からよくよく言い含められておりますわ。とりあえず腰掛けてから話しませんこと?」


 なんだよ。久しぶりに会った幼馴染に卿呼びかよ。すっかり淑女教育が板についたのか? 寂しいと思ったが侯爵閣下から出された節度ある付き合いをという条件のせいかと思い、頭を冷静に切り替えた。


 案内してくれたメイドがワゴンに茶菓子を乗せて運び込むと、フェリが花束を居間の花瓶に飾るようにと命じた。お互いに居間のソファーに向かい合って座ると、丁寧にフェリ手ずからお茶をそれぞれのカップに注ぎ入れてくれて、茶菓子を勧められた。


 「……あ……ああ、そうだな……ありがとう……それより、その呼び名だが……以前とは立場が変わって婚約者になったとはいえ、アルトと呼んでくれないか」


 執事のセバスチャンが遠くから目を光らせていたが、せめて恋人らしく親しくしてほしいなと、恥ずかしくて勇気が出ず下を向いて無茶ぶりをした。


 「まあ……私ったら……愚鈍で気付かず申し訳ございません。

 伯爵様も弟君のテノール様も同じトリオ卿ですのに……そうですわよね。

 確かにお互い以前と違う立場と関係になるとはいえ、区別するためにもアルト様とお呼びさせていただきますわね」


 俺は様もいらないんだが……と思い顔をパっと上げたが、フェリの困ったような顔に戸惑った。そう言えば俺が一方的に想ってるだけでフェリ自身はどう思ってるんだ? 眉間にしわを寄せながら口元に手をあてて考えると、彼女は未だ幼馴染の域を出ていないのかと俺自身の思い込みに恥ずかしくなり、横を向いて誤魔化した。







 しかし顔合わせのお茶会が居間から庭に変わろうとも、フェリの声を聞いてるだけでもますます好きになっていた。


 姿を見てるだけで恋しい。手を握りたい。抱きしめたい。膝枕で埋まりたい。キスしたい。それからその先の……と不埒な考えに陥ってしまう。


 流行りの観劇の話をしてくれてるんだろうけど恥ずかしくて「そうかあ」とフェリは観劇に興味があるんだなとしか受け取れなかった。


 だから自分を律しようと、その度に彼女をまともに見るのが好き過ぎて恥ずかしいので、居間の彫琢やら、庭の季節の花やら、囀る鳥を探すふりをして、視線を浮遊させながら頭を冷やした。


 それから俺の士官学校時代や友人たちのことを聞きたがるので、フェリが俺以外の男に気があるのかと嫉妬して「ふうん」と不愛想な返事しかできなかった。


 それから親父に怒鳴られながら学んだ伯爵家の事業の話をされたが、出来の良いテナーとの差を思い知らされて「なるほど」と落ち込んだ返事しかできなかった。


 侯爵家の事業の話題も振られたが、親父に付き合ってたまに会う侯爵閣下に睨まれながら鉄道事業の説明を聞き、そのおかげでフェリとの婚約を許可してもらうために輸送事業を成功させた時の苦労とか思い出してしまい、「ああ」と碌な返事ができなかった。


 他にもフェリが彼女の好きな物事の話を教えてくれると、俺に自分のことを知ってほしいと主張してくれたのかと嬉しいが恥ずかしくて「へえ~」と間抜けな返事しかできなかった。


 しかし俺の欲望や妄想を見抜かれたのか、暫くするとフェリが話題を提供しなくなり、居間では静かに彼女の趣味の娯楽本を読んだり刺繍や編み物をしている姿を見つめたり、庭では花を愛でたり、小鳥のさえずりに耳を済ませたり、季節の景色を眺めたり、俺がフェリを近くに抱き寄せたい性欲に抗うべく耐えているのにどういう拷問だという時間を過ごさなければならなかった。


 それである日、とうとう堪え切れなくなり、何か話題で気を反らしてほしいと思い、


 「何だか静かだな……何か相談したいことはないのか?」と言うと、今読んでる本の内容が面白いとか、刺繍や編み物を贈った相手が貰った時の顔を見るのが好きだとか、見ている花の由来や花言葉とか、庭師のオクテットが嵐で落ちたヒナを苦労して育てたら毎年その鳥の子供たちらしい鳥が巣を作りに戻ってくるとか、どんな話もフェリの声を通して聞くと、俺には心地いい風の音みたいに聞こえて目を瞑って聞き入った。


 彼女のたわいのないお喋りでも彼女の声を聞くのだけでも好きだった。しかし好き過ぎて俺からはどうしても気恥かしさで話しかけられなかった。何を話せばいいかどもってしまうほど俺は男ばかりの士官学校と騎士団の中でがむしゃらに過ごしたせいで女性の話題には疎かったし、口下手だったから。


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