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sideフェルマータ・カルテット視点?3 婚約解消!?


◆sideフェルマータ・カルテット視点?3 婚約解消ですか!?

 こんな風に母の策略通りにアルト様とのすれ違いの日々が増え、アルト様の贈り物を紛失したり、発見しても壊されていたり、妹に譲ったと誤解を生んだまま釈然としない日々が過ぎていきました。


 ある日、以前から約束していたことと気分転換しようかと、辺境伯家の従兄のバリストンと最近いい感じに知り合った友人のクインティナとの仲を応援しようと、一緒に観劇や孤児院に出かけた時に、従兄と私をおいてクインティナが席を外したりその場を離れて二人きりになっている時に限って、アルト様と腕を組む妹たちに鉢合わせてしまうのでした。


 バリストンお従兄様のお母様は辺境伯の妻として女性騎士としても有名なのですが、国境の辺境を守ると言う特殊な環境のため、子供を産んでもいつ親なし子になるかもしれないし安心して育てられないと、お従兄様以外の兄弟は作らなかったそうです。


 ……というのが建前上の話ですが、実際は蛮族が支配していると言う隣国との国境で小さないざこざがあった時に、敵から毒矢を受け、子を授かれない身体になってしまったそうなのです。


 そのためお従兄様に弟妹を作ってあげられず申し訳ないと、以前の親戚の集まりの時に寂しそうな笑顔でそっと教えてくださったのです。


 しかし辺境には優秀な騎士や兵士達がたくさんいらっしゃるので、


 「血の繋がった弟妹は確かにいないけど、義兄弟姉妹がたくさんいるから全然気にならないよ母さん」 とお従兄様はいつも嬉しそうに辺境伯夫人に言うのです。


 そういう理由でお従兄様は一人っ子なのですが、以前からずっと祖母によく似た私を本当に可愛い従妹としてとても甘やかしてくれます。いえ少々どころか、かなりの溺愛ぶりなのです。


 そう言う関係の私とお従兄様、アルト様と妹とが鉢合わせした時は、話の流れでお従兄様が私の頭をなでなでしながらからかっていた時でした。


 アルト様は渋面になって、気まずそうに妹を連れて離れようとしました。


 「従兄殿との交流を邪魔してしまったようだな。レガートリータ嬢、あちらへ参りましょうか」


 「あら、バリストンお従兄様はわたしに対しても優しくて素敵なお従兄様ですよ?

 そうだ! 問題なければこのままご一緒しましょうよ」


 「その通りだよレガート。フェリもレガートもオレには可愛い従妹たちだからね。同じ場所に行くなら一緒に行かないかい?」


 お従兄様は私とアルト様の仲を心配してそう申し出てくださったみたいですが、


 「いえ。侯爵夫人があまり遅くなるとご心配されるから、我々は先においとまいたします」


 アルト様はさも居心地が悪そうに、私とお従兄様の仲を邪魔したかのような表情で、妹と、逆らえない母とを優先するのです。


 「残念。お母さまの言いつけなら仕方ないわね。お母さまがいない時だから、たまにはお姉様と一緒に行きたかったのになあ……。お姉様、それではわたしたちはお先に失礼するわね。」


 「ええ、レガートリータ。また次回時間の合う時に一緒に参りましょうね」


 「本当ですか、お姉様。約束ですよ?」


 「トリオ卿、レガート、またね」


 「お従兄様、お姉様、ではまた」


 アルト様は本来私と会って、私と交流するために侯爵邸に訪問したはずでしょうに……これでは私がアルト様を放ってお従兄様との逢瀬を優先したと誤解したのではないかしら……


 こんな風に、アルト様が訪問すると言う先ぶれは、恐らくお母様の指示で私に伝わらないようにされ、タイミング悪く今日は誰も私を訪ねてこないと確信して出かけたはずなのに、全ての行動を母に邪魔されているのか、アルト様と母から押し付けられた妹の二人と鉢合わせてしまうのです。


 私はただ、お従兄様と親友のクインティナが、正式ではないけれど将来的に結婚を前提につきあいたいと私に相談してくれたけれど、二人ともさばさばした性格の割に二人っきりでは無口になってしまうから、仲をとりもつために行動したのに……


 またある時は、これまたクインティナがそばを離れた際に、私の眼にゴミか何かが入って目を痛めたようで、


 「大丈夫かいフェリ。オレが見て取ってみようか」


 とお従兄様は顔をかなり私の顔に近づけて痛めた目を覗いて見てもらってる時に、遠くにアルト様らしき方がお従兄様の背中側で厳しい顔をしていたかと思うと、くるりときびすを返して去った時があったり。


 またある時は、男装がいつも素敵で下手をするとかなりの貴公子にも見えるクインティナと二人で買い物をしているときに、私が新しく買った靴を履きなれなくてよろけたら、クインティナが抱きしめて支えてくれたのを、アルト様に目撃されたり。







 私は自分のタイミングの悪さに気恥かしさと同時に、何故か罪悪感まで覚え、そんな日々に耐えられなくて、侯爵邸の自分の部屋で、メイドのリリコに支度を整えられながら、私はつい愚痴ってしまったのです。


 「ねえ、リリコ。私とアルト様、このままでは婚約を解消した方がいいのかしら……」


 「まあ……お嬢様! 婚約は家と家との結びつき。そのような事可能なのでしょうか?

 ですがお嬢様がそれほど苦しんでらっしゃるのなら、侯爵閣下に一度きちんとご相談なされては?」


 「……そうよね。家同士の政略だったわ……でもだったら私が相手でなくても、妹でもいいわけよね……」


 このままではいけないとアルト様には手紙だけでは連絡がつかないことが多いし、来てくれないかもしれないと思い、テノール様に頼んでなんとかアルト様と二人で話し合える機会を取り付けたのです。






 そうして今日、やっとアルト様と二人っきりで、春先の気の早い花々が咲き始め刈り込まれた芝生が青々と輝き、まだ少し寒さの残る我が家の庭園に設えてある丸テーブルをはさんで、久しぶりにアルト様と私の二人きりで座りました。

 

 今日は私を一番美しく素敵に見せてくれるようなドレスをと侍女の手によって着せられています。


 「アルト様、今日は私の我が儘を聴いて訪問してくださり、本当にありがとう存じます」


 「あ……ああ」

 

 相変わらずアルト様は私の顔を真っ直ぐ見ず、やっぱり顔を反らしてらっしゃる。私は穴が開くくらいこんなにアルト様の顔をずうっと見てたいくらい好きになってしまったのに……


 しかし、これからの話し合いによっては、この思いと言葉は口に出したらアルト様を苦しめるだけだと、ぐっと飲みこんで淑女らしく冷静に次の言葉を発しました。


 「私のお喋りを五月蠅いとお考えでしょうが、今日はとても重要なお話をしたいので最後まで付き合っていただけると幸いですわ」


 私はとりあえず侍女やメイドたちを下げると、ていねいにお茶をそれぞれのカップに注ぎ入れました。


 「それでアルト様、私との婚約は家と家を繋ぐ重要な契約だと言うことはご理解してくださっていると存じます」


 しかしこの先の言葉を続けるには少しの忍耐が必要だった。それに今までの様に、真っ直ぐアルト様の表情を見ていられなかった。


 アルト様も何をいまさらという様子で呆れたように顔に手を当て俯いてしまった。


 私は顔を上げたアルト様を見たくなくて、俯いて膝上に握り込んだ手でさらにぎゅっとスカートを握りしめると勇気を出して話し続けた。 


 「お互い小さい頃から母たちに連れられて、それぞれの家も領地も行き来するほどの幼馴染ですし、私のことを妹みたいだとしか思えなくても仕方ありません。

 私の顔を見るのも、話をするのも面倒だし、嫌われているのも政略だからと私の一存で簡単に破棄できるはずがないのも承知で申し上げます。

 デビュタントのエスコートも父が初めてできた娘をエスコートできるならと喜んでくださったからよかったものを。アルト様には私のパートナーだと思われるのが辛かったことでしょう。もちろん領地が大変な時でしたから断られても我慢いたしました。

 ですが訪問する際はいつも花束だけ。手紙を週1送ってもお返事は数か月に1度。

 最近は私よりも妹のレガートリータと付き合う方がとても気楽で楽しそうでしたわね。そうそうお祖母様の葬儀の時も私より、妹の隣の方がよかったくらいですものね。

 ですから私考えましたの。

 アルト様のためにも婚約相手は何も私でなくてもかまいませんよね?」

 

 ……ああ……とうとう言ってしまったわ。と、アルト様に顔を向けた。


 「フェリ……フェリ?

 ……はあ~。そこまで言うなら俺も言わせてもらうぞ。いいか、最後までよく聞けよ?

 デビュタントのエスコートは領地を父に頼んで俺は実は駆け付けたかった。しかし侯爵夫人からの連絡で既に他の者にエスコートを頼んだからと……それに俺は伯爵家……いや。だから俺は安心して領民たちの元へ行ったんだ。

 それに花束だけ? 贈り物はいつもメイドか侯爵夫人に渡したはずなのに? 手紙も俺だって毎週何通も出していたぞ?

 しかし侯爵夫人から、あまりしつこいと嫌われるからと忠告されたから控えただけだ。

 それに贈り物だ。大半は妹君に似合うからと渡したといったのはフェリだよな? 俺からの物を身に着けたくないほど嫌われているとは知らなかったよ! おまけに気に入らない物を庭に捨てていたのを教えてくれたのはメイドだぞ? だから贈り物は無駄だと判ってからは邸の花瓶に飾られる花ならまだ受け入れてもらえるからと俺は!……

 それに訪問してもフェリは風邪をひいているから感染すとよくないからとか、先約があって出かけたからとか、いつ訪問しても会ってくれないじゃないか? 俺が嫌いで避けていたのはフェリのほうだろう?

 それに最近誰かさんと仲がいいのはフェリもだろう? 俺以外の男とキスしたり抱き合ったり頭をなでさせたり、不誠実なのはフェリの方じゃないか?

 それにダルセーニャ様の葬儀の時は、ダルセーニャ様が育ての母親みたいな人だと聞いていたし、それくらい親しい人を失くして憔悴してるのにありきたりな慰めの言葉など陳腐で偽善のようで不用意な言葉をかけれなかったからだし、フェリの姿を見て俺は……とにかく! レガートリータ嬢が隣にいたのは偶然だ!

 レガートリータ嬢のことは本当に幼馴染として義妹以上に思ったこともないし、言っちゃ悪いが男好きで奔放なお前によく似て俺に近づいて科作って媚売ってきたのは妹さんの方だぞ!

 以上!!」


 驚きました。これほど初めて怒りと言う感情を露わにしたアルト様を見るのは、幼少の時以来な気がします。


 ああ……ああ。つまりそれ程私は噂通りの淫乱だと疑われ、政略結婚する相手としてアルト様も無理して努力し続けてくださっていたのですね。


 「まあ! そんな風に思ってらっしゃったのですね? 酷いですわ! バリストンお従兄様のことを仰っているのなら全くの見当違いも甚だしいですわ!

 そんな風に疑われるのでしたら、私たち婚姻してもいつお互いが浮気してるかとうまくいくはずありませんわよね?

 いいでしょう。それほど仰るのでしたら妹と婚姻した方がアルト様のためにも結果的にはよいのではなくて?」


 「ああ、そうだろうな! お前みたいな女と結婚したら一生後悔して疑い続けなきゃならないだろうな!

 侯爵閣下からの命令でもなければ、誰がお前なんかと結婚したいと思うものか! こんな婚約今すぐ破棄してしまいたいよ!」


 ……とうとう。アルト様に見限られてしまった!


 私は目頭からあふれ出てきそうなものをぐっとこらえて握りしめた拳に入れた力を手が白くなるくらい更に爪まで食い込ませて何とか怒りよ静まれ、どきどきする心臓よ落ち着けと深呼吸して吐き出すと、淑女らしくいつものように冷静に、アルト様を心配させないよう表情を崩さず口を開いた。


 「トリオ卿……私たち……」


 先ほどまでの言い合いですっかり冷めきったお茶の入ったティーカップを前に、その言葉の同意だけはさすがに私の方でも躊躇し言おうか? いいえ言うまいか! と散々考えあぐねました。


 私の瞳の奥が熱と動揺で気を保たないと溢れてきた涙がこぼれだしてしまいそうです。それでも長年の淑女教育のなせる技で血の気の引いた顔をきっとアルト様の真正面から見据えました。


 アルト様も先程言った自分自身の言葉に、さすがに冗談だろうと苦笑した顔を、何だと不機嫌そうに私の方に向け直しました。


 それとも自分の失言が恥ずかしくなり、誤魔化そうとますます頑なな表情になっていらっしゃるのかも。


 騎士見習いとして見事に鍛え上げられた肢体を豹のようにしなやかに動かし、バカバカしいと優雅にティーカップを取ろうとした手を止めて私の次の言葉を待ってくださってます。


 こんな時でも格好いいと思ってしまう。春先の日に当たって煌めく見事な銀髪と、吸い込まれそうな紫の瞳で、迷惑そうに睨みつけるかのような顔でさえ。


 確かに。普通は女性の方から男性に対して先にあれこれ示唆する事を言い出すのは失礼でしょう。


 しかし、それでも私にとってどれほど勇気のいる言葉であろうとも、爵位が侯爵家であるという一点においてのみこちらが有利であるはずですわ。


 だからこそ、その決定的な言葉を告げるのは爵位が下の伯爵家のアルト様よりも、私から伝えるべきだと気力を振り絞って言いました。


 「……正式に婚約解消いたしましょう」


 はっとアルト様の眼が一瞬驚いたように見開かれた気がしましたが。一度口に出した言葉を引っ込めることはアルト様の矜持が許さないのでしょうか。瞳の奥に仄暗い影を見た気がしましたが、アルト様は初めて私の眼を真正面から見てくださいました。


 「フェリの言い分はよくわかった。婚約解消すればいいんだな?」


 その言葉でやっと私は解放された気がした。心の奥の痛みと苦しみに知らないふりをして、アルト様を解放して自由にしてあげるべきだと悟ったから。だから努めて明るくアルト様が疑う余地もないくらい嬉しく思えるように告げた。


 「ええ。もちろんそうしましょう! 父にもちゃんと伝えておくわね」


 「言いたいことはそれだけか? じゃあもうここには二度と立ち寄る用はないな! 正式な書類は父宛に送ってくれ!!」


 アルト様は吐き捨てるように体中からあふれる怒りを発散するかのように勢いよく椅子を倒して立ち上がると、伯爵家の馬車にさっさと乗っていなくなった。

 

 私もアルト様に未練があると思われたくなくて、わざと怒って見えるように勢いよく椅子からすっくと立つと、後ろも振り返らずに自分の部屋に向かった。一生の後悔とアルト様への深い思慕の想いを隠したまま……






     *****






 「そうか……残念だがフェリがその方がいいと言うのなら急いで書類を用意しよう。それに娘の望みを叶えることしか親に出来ることはないからね。

 しかし解消した後はどうするね? 次の婚約者を直ぐに用意することは……フェリが望むなら頑張ってみるが、そう簡単にはできないよ?」


 私の現状を知った父、カルテット侯爵は、婚約を解消させ白紙にさせる手続きをできる限り素早く行ってくれた。けれど優しく見つめる父の身体が、とても小さくなってしまったかのように見えた。


 「私の我が儘でお手を煩わせて本当に申し訳ないと思いますわ……トリオ伯爵家との手続きや、婚約時に交わした条件については全てお父様の良い様に。

 それと……次の婚約については、当分考えられませんわ。侯爵家の長女であり貴族の娘としては失格かもしれませんが、他の貴族家から打診されても暫くはお断りしてくださいませんか?

 それでは失礼いたします」


 しかし事業の資金支援についてはトリオ伯爵家はカルテット侯爵家との友情心で継続してくださることになり、鉄道事業が無事に軌道に乗ったことだけが唯一の救いでした。






     *****






 しかし、母の侯爵夫人にとっては今回の婚約解消のほうが一番の嬉しい知らせだったようです。


 嫌って憎んでさえいる私より、母に良く懐き溺愛している妹を婚約者にどうかとソプラノニア伯爵夫人に提案したらしい。


 けれどアルト様は


 『フェリ……いや、フェルマータ嬢に振られて婚約解消したからと言って、すぐに妹殿に乗り換える軽薄な人間になりたくないのでね。

 それに未だにどうしてこうも簡単に婚約解消されたのか納得したくないんだよ……』


 え? 自分で売り言葉に買い言葉言ったくせに? 


 婚約解消から三日経ち、父の事業に気分転換ついでにとついていった際に、トリオ伯爵と伯爵家の跡継ぎとして事業の勉強をと本格的についてきていたテノール様からその話を聞き、私は一瞬嬉しく思いながらも、アルト様は政略だと思ってなかった? 少しは好いてくれてた?


 もしかしたら、よりを戻せるかもしれないと小さな期待を抱いてしまったのが私の過ちだとこの時は気付かなかった……


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