表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣吼の咎者  作者: 凰太郎
~第三幕~
26/26

獣吼の咎者

挿絵(By みてみん)

 闇暦(あんれき)三〇年──。

 ニューヨーク〈エンパイアステートビル〉上層階──。

 オフィスライクな一室(いっしつ)(あて)がわれ、インディアンの娘は辟易(へきえき)と不満を(こぼ)した。

「柄じゃないんだよなぁ……」

「そう言うな。ここまで旗頭と率いてきた以上、責任がある」

 (かたわ)らの獣精が、父性を盾に(さと)す。

 ()の〈市長(ベート)〉が失脚してからというもの〈牙爪獣群(ユニヴァルグ)〉は衰退の一途(いっと)辿(たど)っていた。

 近隣勢力とのパワーバランスは崩れ、これ(さいわ)いとばかりに矛先(ほこさき)が集中する。

 この流れは、ラリィガ達〈ダコタ勢〉にも好機であった。

 これまでの守り一手(いって)から転じて、獣精(トーテム)を率いた攻めへと回った。

 戦力としては頭数が少ないものの、ダコタ周辺の勢力には背後からの奇襲策と機能したようだ。

 ()くして破竹の勢いで進軍に攻め落とし、(つい)には()まわしくも懐かしい激戦地〈ニューヨーク〉すら制圧するに至る。

 途中に下した勢力には彼女へ寝返る者も少なくなく、進めば進むほど大所帯と(ふく)れ上がった。

 そうした増強背景も、快進撃成功の一翼(いちよく)(にな)っている。

 が、それは結果としてラリィガの閉塞感を誘発した。

 元来、自由奔放が好きな気質だ。

 父親代わりのシュンカマニトゥから見れば、よくもここまで()(こら)えている。

 だが……限界が来た。

「アタシはイヤだかんな! 〈領主〉とか〈盟主〉とか……絶対やんない! クソメンドクサイ!」

「投げっぱなしにも出来んだろう? 皆、オマエ(・・・)に心酔して着いてきたんだ」

「勝手に着いてきた!」

「オマエは受け入れた」

「ぅぅぅ~~……」

 苦虫顔の駄々が渋る。

 シュンカマニトゥにしてみれば、我が子(・・・)をやり込めるなど御手の物であった。

象徴的存在(シンボリック)は必要だ。そうした旗頭が()る事で、有象無象は信念に団結する……磐石(ばんじゃく)にな」

象徴的存在(シンボリック)って、アタシは冴──!」無意識に言い描けて、はたと気性が鎮まる。「──元気かな? アイツ?」

 想いを汲み、獣精は「ああ」と静かなる同調を示した。

 あの激闘を通じて〝夜神冴子〟へ感情移入を(いだ)いたのは、何もラリィガだけではない。

 いつしか彼自身も憎からずに()かれ始めていた。

(不思議な娘だ……とんでもない象徴性(カリスマ)を持ってやがる)

 あの〈戌守(いぬもり)〉なる〝東洋の獣精〟が肩入れする気持ちも、少しは分かる気がした。

「なぁ? シュンカマニトゥ?」

「何だ?」

「……アタシが勢力を立ち上げれば、少しはアイツ(・・・)の手助けになるのかなぁ?」

「ラリィガ?」

「だって……世界(・・)を相手に(ひと)りはツラいだろ」

 純朴な素直さに(ほだ)され、淡い苦笑を肯定とした。

「ああ、たぶんな」

 正直、それはどうだか分からない。

 さりとも、シュンカマニトゥには確信がある。

 この娘──ラリィガは、決して私利私欲には(おぼ)れない。

 例え〈領主〉になろうとも……。

 それは、あの娘(・・・)と同質のものだ。

「よしっ!」一転に気合いを入れて、ラリィガは両頬を叩いた。「んじゃ、やってやるか!」

「ほう? やる気が出たようだな?」

「た・だ・し! アタシは、アタシのやりたいようにやる! 他勢力の体制なんか知らないよ! ワンマン結構! それがイヤなら出てってもらう!」

「フッ……いいんじゃないか? その程度の役得(やくとく)があっても?」

「言っとくけど〈闇暦大戦(ダークネス・ロンド)〉とかも、どーでもいい! アタシは……」

「ふむ? オマエは?」

「……アイツ(・・・)に再会する(ため)にやる! また肩を並べる(ため)に!」

 ()くして、この闇暦(あんれき)に、また新たな勢力が産声を上げた。

 最大の難所と構えられる北米を占める新勢力の出現は、あれよあれよと名を(とどろ)かせる。

 遙々(はるばる)、海を越えてまで……。





 不用心に街路を歩む(くろ)外套(マント)──。

 小柄な美少女であった。

 黒を基調とした衣装は高い肌露出に色香を(かお)らせ、太腿を魅せる繊細な脚線美は未成熟な禁忌を誘惑する。艶やかな赤髪はツインテールの双蛇を風と遊ばせ、醒めた童顔には外観年齢に釣り合わぬ達観を眼差(まなざ)しに滑らせた。

 嗜好の柘榴(ザクロ)(かじ)り、少女は周囲を見渡す。

 煉瓦(レンガ)造りの建築群は、頑強さを貫禄と()き違えて建ち誇る。

 さりとも、活気を生む人の気配は皆無だ。

 籠城(ろうじょう)(まが)いに息を潜めた生活環境──。

 見飽きた。

 闇暦(あんれき)では日常的な情景だ。

 常態的な街路の(とばり)は、はたして一歩(いっぽ)踏み込めばジメジメとした湿気に彩られた路地裏が続く。

 左右を煉瓦(レンガ)壁に挟まれただけの安い迷路だ。

 しかしながら、好奇心は刺激される。

 こうした場所にはトラブルが巣食う。

 鮮血の臭いを(はら)み……。

 だから、彼女は足を踏み入れた。

 退屈な世だ。

 些細な刺激でも(きょう)と欲しい。

 (しばら)く黙々と歩き進んだが、暴漢の一人(ひとり)も現れない。

 はたしてハズレを引いたか……。

 腰の細身剣(レイピア)も落胆するというものだ。

 と、気配が匂う!

 即座に少女は、その場から(はず)れた!

 左手で路面を支えた後転ながらに、右手では真紅の細身剣(レイピア)()(たずさ)える!

 先刻まで居た地面が銃撃の閃花を白く咲かせた!

 頭上からの奇襲!

 何処に潜んでいたかは知らないが、襲撃者は建物上階から降って来た!

 (ある)いは屋根か?

 どうでもいい。

 些事(さじ)だ。

 高揚が(たの)しむ!

 フォーマルスーツの女!

 タイトスカートの脚線美が回し蹴りを繰り出す!

 リーチは長い!

 だがしかし、当たってやるほど(やす)くも無い!

 潮の(ごと)く身を引き、凪ぐ爪先に(あご)(さき)を過ぎさせた。

 その尖端に微々と(きら)めく銀光は、仕込み刃の自己主張。

 二撃──三撃──流れるような連続蹴りが空気を裂く!

 その総てを()わしつつ、突きに間合いを詰めた!

 瞬間、不可視の壁に(はじ)かれる!

 沸いた!

 その悦を口角(こうかく)が示す!

 (はじ)かれた勢いを円心の軌道に乗せ、逆方向からの横凪ぎと転じた!

 相手の首筋を(とら)える!

 そこで寸止めを()いられた。

 まったく同時のタイミングで、少女の額には銃口(じゅうこう)が定められたからだ。

 白銀の銃──。

 珍しい。

 永い流浪でも、こんな武器は他に知らない。

 そして、アイツ(・・・)以外に所有者はいない。

 嘘のように躍動は氷像と鎮まる。

 黒月(こくげつ)を目隠しする雲間が晴れ、微弱な月光が両者の容姿を克明と浮かび上がらせた。

「またキサマか」

 皮肉めいて淡い高揚を(ふく)む。

 やはりアイツ(・・・)だ。

「そう邪険にしないでくれるかなぁ?」

 朗々とした挑発を向けるも〈怪物抹殺者(モンスタースレイヤー)〉の瞳は笑ってはいない。

「しつこいものだな……何度目だ?」

「さぁて? 興味無いし?」

「ま、人間(・・)にしては骨があるがな」

「ねぇ? 〈孤独(こどく)吸血姫(きゅうけつき)〉さん?」

「何だ」

「……ダルムシュタッド、村人、十六人」

「……何の(まじな)いだ?」

「チッ! またガセ(・・)じゃん!」

 冴子の首筋に添えられた(あか)細身剣(レイピア)──。

 相手の眉間に標準を定めた白銀の聖銃──。

 はたして、どちらが仕止めるのか……。

「キサマには、色々と()い詰めたい事はある。だが、とりあえず──」

「そうね、とりあえず──」

 無粋に(よぎ)濁風(だくふう)が、不快な臭気に予感を置き去る。

「「──まずはコイツらを倒してから!」」

 前後の挟撃(きょうげき)に群がる〈怪物〉達!

 運命の出会いが背中を預けた!





[完]


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ