表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王Lv.1-今日から世界は僕のモノです-  作者: 有邪気
第一章 来たる終焉
7/19

終焉の5【終焉の背後で…2】

 大シェオル大陸合衆帝国の首都、帝都マンスクワ州ロマノフ市の国会では来年度の予算配分について毎年の様に議論が紛糾していた。


 ただし今は夏の始まろうとする6月。紛糾する議会は始まった当初より幾分か落ち着きを見せ、来年度の予算配分はほぼほぼ決定した様な物だった。


 しかし、今もなお多くの予算を獲得を目指して命懸け…いや、正に生き残りを賭けて意見する一人の官僚が答弁していた。


 彼を見る周りの目は冷ややかを通り越して呆れ帰ってすらいる様だった。


 それでもなお魔法学庁長官、千田博(せんだひろし)の退化した魔法学の重要性と暴龍災害に対する有用性を語る口は勢いを衰えさせる事はなかった。


「結論を申し上げますと、地上で暴れる暴龍に対しては通常の銃弾やミサイルも通用しない!足止めをする豆鉄砲にもなりません。これらを考慮して、習得制限をかけられた魔法の一部を解禁し暴龍対策の科学兵器と応用すべきと結論付けました。以上です……。」


 千田はメガネの奥の疲れた目を閉じ議会に対して白髪混じりの頭を深々と下げ席へと戻っていった。


 千田の提案に反対である周りの貴族や政治家達は口々に汚い言葉で千田をバッシングするが無意味とばかりに彼等の後側に位置する役人の席に座った。


 議会の奥でその様子を静かに見守る顎と口に髭を蓄えた王冠を被る壮年はこの国の今上の皇帝であり、この国の建国者の末裔でもあるニコライ・ジュリィ・ロマノフ皇帝であった。


 この国の議会の大半は貴族や政治家の議員が決定するが時折、君主である皇帝のの采配によってこの国の大まかな方針が決定される事が少なからずある。


 貴族や選挙で選ばれた政治家達の役割はその大まかな方針を民意に沿った形に調整したり、或いは皇帝に直接方針の変更を進言する事である。


 もっとも変更など今代の皇帝の元では殆ど無いのだが。


 しかし今回の議題は先代皇帝からの肝入り、ここ数十年の大方針を転換させ得る大きな判断を求められる議題である為、殆どの議員は今更の方針転換など頭の片隅にも無いので有る。


 その為反論にのために議長に呼び出されマイクの前に立った総理大臣も不愉快そうな面持ちである。


「現在の技術でドラゴンに対応しきれていないかと言えばそうではない。一般に魔法銃と呼ばれる魔力装填銃。アレを筆頭とする対魔獣装備を強化したハイエンドモデルでも対抗可能で有ると報告を受けている。」


「そーだそーだぁ!」


「引っ込め魔法使いがぁ!」


 反論に参加したりヤジを飛ばす者達達もいる。それ以外の者達は欠伸をしたり別の作業をして時間を潰したり、果ては皇帝の御前で居眠りを決め込む愚か者もいる。


「その対抗策も使い手の魔法適性に依存する不安定な物。現在は無理でも遠くない未来暴龍を倒す魔法を用いない純科学兵器も現れる。そうなったら訓練すれば誰でもできる科学技術の兵器に切り替えて行くのは自明の理だ。」


「それ迄に犠牲になる市民や兵士はどうなる⁉︎総理は民を見捨てるおつもりか!」


「千田魔法学庁長官、答弁は指名されてから答えなさい。」


 千田の手順を無視した発言を議長は諌めたが、総理大臣は手を挙げてそれを制止しもう一言だけ答弁を行い千田の発言を封じ込めた。


「“被害は最小限である”というのが政府の認識である。」


「〜〜〜っ‼︎!」 


 千田は唇を噛み、声が出そうになるのを我慢した。出して仕舞えば楽になるが、同時にここで全てが終わると分かっていたからだ。


 だから誰にも聞こえない、しかし呻くように唸るように、心の中にあるコールタールの様などす黒い感情を乗せて声にならない悲鳴を上げた。


「レイシストが……!」





 議会が終わり千田は新人の補佐官を連れて自動車に乗り込み議事堂から足早に魔法学庁の本部へと向かった。


「出してくれ。」


「は、はい!」


 ハンドルを握った補佐官のチャーリィは慌ててアクセルを踏み込み危なっかしい運転で車を操る。


「もう一年経つんだろ?運転ぐらい慣れてくれよ。」


「あぁ、はい!いや…すみません。」


「はぁ、ゆっくりで良いから安全運転でな。」


 そう言って千田は本部に戻るのにも時間がかかると判断してノートパソコンを開いて今回の議会の内容を見直す事にした。


 カタカタと音を立てつつパソコンを操る千田の表情が優れない事をバックミラー越しに読み取ったチャーリィは、どうしても聞かずにはいられず赤信号に車が捕まった際に意を決して質問した。


「あの…やっぱり今回も?」


 何が、とは言わない。


 だがそれだけで魔法学庁の経費削減についての質問であると察した千田は目の前の赤い信号を見つめながらそれに答える。


「当初の予算案は去年と比較して約五割の経費削減とされていた。だが最後の最後に皇帝陛下が待ったをかけてくださり、予算の大幅削減は時期尚早との判断を賜る。結果、去年から比較して十二%削減で抑えられる事になった。」


「や、やりましたね!」


「ただし来年には今回と同様以上の削減予定案が採決予定でありこれに皇帝陛下も賛成された。」


「……」


 最悪では無い、寧ろ既定路線より緩やかに縮小が進んでいる分延命されていると言っても良いだろう。だからと言って真綿で首を絞めるように緩やかに死んでいく現状を良しとするにはあまりにもやり残した事が多過ぎるのだ。


「魔法兵器を新たに開発しなければ、今以上に人が死ぬかもしれないのに。」


 先程議会で千田が言ったように、巨大な暴龍の硬い鱗に覆われた体には生半可な銃弾は効かず、ミサイルやドローン兵器も近づく前にドラゴンの魔力で張り巡らした結界に阻まれで衝撃や破片も触れることさえできない。


 卓越した魔法の知識と選ばれし膨大な魔力を持つ魔法使いが揃い始めて討伐できるのが暴龍なのだ。


 現在の魔力装填銃の威力は戦車の砲弾より何倍も強力でドラゴンに攻撃を当てれば傷付けることはできるが、倒したりは出来ずただ追い返すだけにとどまるのだ。


 これでは兵士は命をどれだけ賭けても住民の避難のために時間稼ぎしかできないのだ。


「総理大臣は現状の被害は最小限だとか言ってたよ。」


「何ですって⁉︎」


 そう最小限。


 暴龍の被害により毎回官民問わず三千名以上の犠牲が出るのに()()()だ。


 理由は単純だ。


 主に犠牲になるのはアージャ州の人間。中でも帝国の国教とされる宗教、龍神(ドラゴノート)教の信者が少ないアシハラ市民なのだ。


 去年の暴龍の被害者数は約一万四千名、うち一万二千人はアシハラ市民なのだ。


「帝国貴族のアシハラ市民に対する差別は異常です!全ての国民は平等だと憲法にも明記されてるのに!」


「おい。それぐらいで…」


「いや、やめません。俺は間違ってない筈です!」


「じゃなくて信号、青。」


「え?あっ!」


 チャーリィは再び慌てアクセルを踏み込み車を急発進させ車が前後に大きく揺れる。


「安全運転!」


「ごめんなさい!」


 千田はため息をついて、先程の話の続きをする。


「帝国は一千年の歴史を持つ。俺たちアシハラ市民の八割はジプシルという別大陸の極東に位置する島国から三百年ほど前にやって来た外様だ。法には従ったが宗教の追従が出来なかった。」


「ですがアシハラ市の民はシェオル合衆帝国きっての安定した治安を誇る善良な市民達ですよ?それに帝国は宗教の自由を認めている。」


「法的にはな……。だが習慣や文化、差別はそうそう変わらん。キッカケがあれば一瞬で変わるが、どんなに頑張っても何世代も変わらない事の方が多いんだ。それに………」


「それに?」


「いや、何でもない。」


 千田はそれ以上言葉にする事をやめた。チャーリィは自分を尊敬してくれているが敬虔な龍神(ドラゴノート)教の信者だからだ。


(まさか龍神(ドラゴノート)教の枢機卿が『アシハラ市民は異教の天罰により焼き払われている。』と語っていたなんて本人が知ってても言えるわけないよなぁ。)


 暴龍は天から堕ちてきた厄災だがドラゴン自体はドラゴノート様の使いであり神聖であるというスタンスを龍神(ドラゴノート)教の教会は崩していないのだ。


 厄災だから抵抗しても良いと言う言い訳を龍神(ドラゴノート)教の教会から了解を得るまで凄まじい苦労と犠牲を払った歴史も有るほどなのだ。


 ましてや龍神(ドラゴノート)を信じない愚か者であるアシハラ市民がいくら死んでもどうでも良いと言うのが政府の本音なのだ。


 千田が車から空を見上げると、昼間だと言うのにきらりと光る流れ星がハッキリと見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ