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魔王Lv.1-今日から世界は僕のモノです-  作者: 有邪気
第一章 来たる終焉
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終焉の3【終焉の背後で-1】

 大シェオル大陸合衆帝国の東、アージャ州アシハラ市の上空百万メートル。

 地上は昼間だと言うのに星空が見える遙か彼方で、存在するはずのない奇妙な構造物が浮かんでいた。


 それは水晶の様な輝きを讃え湧水の様に透き通った、人が数千人は余裕で乗れてしまいそうな巨大なテーブル状の大地だった。


 そして、それ程までに巨大な構造物の上には僅か六名の人間の様な知性体が佇んでいた。


 “人間の様な”などと評したのは、空気が殆ど存在しない極寒の上空で平然と佇む彼らをただの人間とするには無理があると言うのが一つ。もう一つの理由はそれぞれ違いは有るが彼らの肉体の一部に角や尻尾、はたまた牙や鱗など人間ならざる異形を携えているからである。


 彼等は人龍と呼ばれる姿を取るドラゴン……紛れもないこの世界の頂点に君臨する上位生命体達なのだ。


 彼らは一体の立ちすくむ拘束された若い男の人龍を取り囲む様に五人の人龍が少し離れて床と同じ材質の透明な椅子に座り、中央の男を見据えていた。


 椅子に座位していた五人の中で最も態度が悪く偉そうな赤髪の人龍が中央の若者に言い放つ。


「小僧、自分の罪の重さは理解しているな?」


 ニヤニヤと皮肉たっぷりの笑顔で若い人龍を追い詰める。若い人龍はあたふた狼狽して必死で取り繕おうと言葉を並べ立てた。


「っち、違う!待ってくれ。誤解…そう誤解なんだ。龍王様に下剋上を仕掛けたのはちょっとした冗談……つまり出来心だったんだよ!成功したら嬉しいなぁ、なんてそれぐらいの気持ちで敵対しようなんてこれっぽっちも思ってなかったんだよ。」


 考えられないくらい身勝手で擁護の仕様がない苦しい言い訳だ。人間の価値観で言えばそう断ずるしかない馬鹿げた弁明に聞こえた。


 しかし赤髪の人龍、更にはその両隣の青髪の人龍と黄髪の人龍もそのとんでもない理屈を満足そうに頷いて聞き入っていた。


「いやいやいや、君の理屈至極最もだよ。下剋上は世の常であり、強さを追い求めるドラゴンにおいては当然の権利だ。寧ろ我々は君の勇気ある行動は賞賛に値すると考えている。いやまったく素晴らしい。」


 赤髪の人龍は若い人龍を寧ろ大絶賛し、両隣の人流達と共に拍手まで始めた。


 残りの二体は語らず、瑠璃色の髪の人龍は白い目で状況を静観しており緑髪の人龍に至っては目もつぶって完全に黙殺する勢いである。


 若い人龍は背後の二体の状況を知ってから知らずか三体の龍神から受けた賞賛に困惑しつつも若干の緊張は解けつつある様だった。


 ただ若者もそこまで愚かでは無い様で、であるならば何故自分がこの様な場所に呼び出され裁判を受けているのかという当然の疑問が湧いてきた。


「何、答えはシンプルだ。」


 赤髪の人龍が若い人龍の疑問に答えるべく隣にいる黄髪の人龍に目をやった。黄髪の人龍は僅かに笑みを浮かべながら自らの胸元を曝け出す。


 ちなみに黄髪の人龍は女であった為その豊満な胸も放り出すことになったのだが、本人は恥ずかしげもなく堂々としている。


 若者はまず胸に見惚れて顔を赤くしたが、じょじょに曝け出された胸元の状態の()()()に青ざめていった。


「え?な、な、な…⁉︎」


「そう、コレがお前の罪だ。」


 自分が問い詰められている理由を完全に理解した時、黄髪の人龍は答えた。


「不意打ちの攻撃を受けたウチの胸元は昨晩旦那に抱かれた時と変わらない、綺麗な状態ダヨ。」


 そう彼は昨日、彼女が酒を飲んで油断している所に自分の爪で彼女の胸を切り裂いた筈だった。


 当たった感触もあった。


 なのに、()()()()()()()()()()


「君の罪はシンプル、不意打ちで他人を傷つけられない程に君が弱いという事だ。例え我々が各龍族の頂点、最強の()()()()であっても赦される事ではない。」


 そう彼は始めから傷つけた事を責められた訳ではない。傷つけられないほど弱い事を責められるという逆の意味で責められていたのだ。


 それが五体の最強の龍達であっても一矢すら報いれない弱者として生まれ強者に歯向かうなど、上位生命体として生きる価値も認められないのである。


 黄髪の龍王は衣服を着直し、赤髪の龍王が罪状として若者に三つの選択肢を提示した。


「一つは潔く死刑、弱いドラゴンに生きる価値なし。しかし君は前途ある若者だ。コレからの可能性にも大きく期待したいので我々はお勧めしない。」


 一つ目の選択肢に若者は当然首を横に振って拒否した。


「一つは百年間奴隷として労役に励む事。これもお勧めしがたい。人間奴隷に並んで働くなど誇り高きドラゴンなら死以上の苦痛の何物でもない。だが君という可能性は潰える事はない。」


 二つ目は先程以上に強い拒否反応を見せ風が起きる程素早く顔を横に振る。


「最後の方法はお勧めの方法、人間の都市に降り立ち災害を齎し人間の魂を供物として我々に献上せよ。当然人間達も微力ながら抵抗をするだろうがね?」


 若者は愕然として口元を震わせる。


「そんな…そんな…」


「怖気付いたか?」


()()()()()()()()で良いなら最初から言ってくれよ!」


 青色の髪の龍王の問いに応える様に若者はホッとして話し始めた。


 若者の答えに赤髪の龍王は大笑いした。

 どうやらわざと若者の不安を煽りからかっていた様だ。


「ハッハッハッハッハッハ!」


「アンタら人が悪いぜ儀式の為に呼び出したなら最初っから言ってくれれば良いのに。」


「いやいや、一応刑罰であると言うのは本当の話だ。つまみ食いは許されぬ上に供物の量が規定値に達しなければ先の二つの刑のどちらかを受けてもらう事になるのだからなぁ。」


 あくまでも罪に対する罰という形であると若者を引き締めるが儀式の失敗はこの百年間、ただの一度もないのである。若者もそれを知っている為、罰則が軽いものだと理解して安心したのだった。


 赤髪の龍王が前方に手をかざすと若者の足元に透明な大地を通り抜けられる穴が空き拘束に使用されていた鎖が弾けた。


「そこから飛んで行け。数は三千以上。場所は直下のアシハラ市中央から直径十五キロ圏内。人口は少なく無いがもたもた遊んでると逃げられて失敗するぞ。時間は人間がアシハラ市から完全に消えるまでだ。」


「ハッ!必ずや成功させます。」


「さっさと行け。」


 赤髪の龍王から急かされると、地面に空いた穴に頭から飛び込みそのままシェオルの大地に吸い込まれていく様に落ちていった。


 数秒後、一度だけシェオル大陸の空に大きな稲妻が走るのが見えた。


「さぁて今日は久しぶりのご馳走だ。楽しみだねぇ!」


 赤髪の龍王は透明な椅子に体を預けてのけぞる様に座りながら、ニヤニヤと凶悪な笑顔を浮かべながら呟いた。


 それを聞いた黄髪の女龍王が携帯していた大きな徳利を見せびらかす様に持ち上げて妖しく笑っていた。


「へへへ、今日はいい酒を持ってきて正解だったヨネ。ウチの旦那にも持って帰って土産にしてやるんダ。」


 反対側の青色の髪の龍王も嬉しそうに舌舐めずりしていた。


「最低三千だろ?奴はいくつ狩りとってくるかな。」


「五で割り切れる数をちゃんと狩りとって貰わないとまた喧嘩になっちまうからそこも言い含めるべきだったカネ?」


「いやいやいや、下手な事言うと数が減る。ここはいつも通り割り切れない分はくじ引きで良いだろう。」


「供物の魂も一つ一つケーキみたいに切り分けれれば良いのにな!」


 ギャハハハハと大きく下品な笑い声が響く。


 残りの二体の龍王はその会話に眉をひそめて呆れた様にため息を吐いていた。


 緑髪の龍王が苛立ちを隠さずに立ち上がった。


「胸糞悪い。帰らせて貰う。」


「オイオイオイ、もう帰っちまうのか?」


 赤髪の龍王の引き留めも意に介さず、緑髪の龍王は角と四脚の脚が生えた透明な大地をも超える大きさの緑色の蛇の様な獣に姿を変えて遥か東の水平線まで飛んでいってしまった。


「付き合いの悪い奴だ。」


「付き合いの、悪いついでだ。ワシも、帰らせて、貰うよ。」


 緑髪の龍王の隣にいた龍王が重い腰を上げた。


「オイオイオイ、お前ら供物がいらねぇのか?我々ドラゴンの糧となる物だし、何よりどんなご馳走だって目じゃ無い至高のグルメだぜ?」


 瑠璃色の髪の龍王は赤髪の龍王を一瞥し、その美しい顔に似つかわしく無いしわがれた老婆の様な声で淡々と応える。


「我々の、一族は、燃費が、良いんだよ。さっき飛んでった、奴の、一派も、然り。それにねぇ……」


「なんだ?」


「我々は、龍神(ドラゴノート)や、お前らのやり方は、好かん!」


「あ゛ぁ゛⁉︎」


 怒りで顔が赤くなった赤髪の龍王の手の爪に魔力が込もると、瑠璃色の髪の龍王を中心に強烈な吹雪きが吹き荒れる。


 不意に視界が遮られ吹雪から顔を腕で守ってしまう。


 かき分ける様に魔力を込めた高熱の爪で吹雪きを無理矢理かき消すとそこに人龍は居らず、遥か彼方に巨大な瑠璃色の鯨が飛び去るのが見えるだけだった。


「ッチ!偏屈な奴等め。」


 赤髪の龍王は仕方なく椅子に座り直し、黄髪の龍王に儀式の訂正を伝達させた。


「おい、あの小僧に伝えろ!内容は『狩りとる数を三万に増やせ』だ!」


「良いのカイ?失敗しちゃうカモヨ?」


「コレは試練だぁ!龍王に楯突くぐらい度胸があるんだこれぐらい出来なきゃ奴もそこまでだ。その時はこの俺様が直々に処刑してやるよぉ!」


「あいつ本来ウチの一族なんだけど。」


 この儀式の訂正が彼の私怨によるものでわざと失敗させて若者を殺す為のものであると誰の目にも明らかだった。しかし赤髪の龍王の右手は比喩でなく赤々と燃え上がり、彼の理不尽な怒りをありありと表していた。


 青髪の龍王は辺りが炎で熱くなっていると言うのに赤髪の龍王に対する恐怖で震えていた。


 黄髪の龍王は恐怖はしていなかった。ただし赤髪の龍王を止める為に怪我をしたり魔力を消耗したり、こうやって色々考えるのも面倒になり、自分の一族の若者を切り捨てる事にした。


「まあウチを不意打ちで殺そうとした奴の自業自得ダネ。それに奴が失敗しても供物は手に入るカラネ。」


 そうケラケラと笑いながら、彼の実力では到底不可能な儀式の訂正内容を無慈悲にも伝達してしまうのだった。

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