終焉の17【災害の爪痕】
未曾有の暴龍災害から翌日の夕方。
警察、消防、軍などが全国から集まり復興と現場検証を始めて慌ただしく動き回っていた。
通常の暴龍災害なら破壊活動は人間の虐殺のついでの様に行われる為、街の復興はそれ程大した被害にはならない。
ただし今回の被害は歴代の暴龍災害でもトップを争う被害となった上に、サンダードラゴンの暴走により災害が起こった領域の電子機器が壊滅的打撃を受けただけでなく、いくつかの発電所も停止せざるを得ないほどの損傷が見られているのである。
それだけでも復興の難航具合は押して測れるものではあるが、それでも本来なら魔法学庁は政府の機関であっても災害復興や現場検証は門外漢であり、呼び出される事自体が異例の事である。
そんな異例が実現してしまった理由は災害の中心地、千田博が今立っている場所の目の前にあるサンダードラゴンの白骨死体である。
「話を聞いた時は何の冗談かと思ったが、実際に見てみてもやはり非現実的でとても信じ難い光景だ。」
ドラゴンは最強の生命体であり、この世界の食物連鎖における頂点に君臨する上位生命体である。
その為にドラゴンが寿命以外の理由でドラゴンの故郷…ドラゴノア大陸の外側で死に至る事は極めて稀な事例である。
ドラゴンの知識は龍神教会と魔法学庁以外は殆ど所有しておらず、客観的目線で学術的知識を持っているのは魔法学庁だけなので急遽呼び出しがかかったのである。
「死因はやはり、魔力の暴走による病死、或いは事故死ですか?」
現場検証を担当する若い役人に推論を交えて尋ねられるが千田は否定した。
「骨格が焼け焦げていることと、未だにこの辺り一体に微弱な帯電が見られることから、魔力の暴走による事故死とも取れるがそう断じてしまうといくつか謎が残る。」
「その謎とは?」
「ここを見てくれ。」
千田はサンダードラゴンの肋骨部分を指し示した。
「何か鋭い刃物で切られた様な平行な切り傷が幾つも重なる様に出来ている。何者かにやられた可能性がある。」
「そ…そんな、何者かにやられたって……このサンダードラゴンが何にやられるってんです?ドラゴンは最強の生命体です。傷つけるのも容易じゃ無い。そんな暴論がまかり通るはずがありません。」
「じゃあこの傷はどうなんだ?」
今度は無くなった右腕を指差した。
「この無くなった右腕の骨の断面は綺麗な平面になっている。千切れたり潰れたり、魔力暴走で焼き切れて崩れたりしたものじゃあない。明らかにごく最近切断されたものだ。」
何者かにこのサンダードラゴンはやられたと言う確たる証拠を突きつけられて現場検証の担当は反論する言葉を失った。
担当は少し考えてから千田に相談した。
「上にどう報告すればいいんですか?ドラゴンを脅かす存在を示唆したら教会に睨まれかねないんですが…。」
困った顔をする千田はため息をつきながら、報告書の内容をアドバイスした。
「はぁ、虚偽の報告は許されんからな……『肋骨に切り傷、右腕に切断された痕跡あり。白骨化した経緯は不明だが高圧電流により焼失した可能性が高い。死亡した予測される経緯は、主に三つ。魔力暴走で事故死。別のサンダードラゴンによる殺害。全く別の第三者による殺害』てな感じで報告して、結論は政治家共に任せてしまえばいい。」
「結論を迫られたらどうすれば…。」
「自分は魔力暴走だと思うって言って、後の可能性は俺が勝手に言ってたって言えばいいよ。」
千田は頭を抱えながら自分を言い訳にして正しい報告をするように言い含めた。
現場検証の担当は安堵して深々と千田にお辞儀をして、次の現場へと向かっていった。
千田が適当に手を振って静かに見送ると今度は逆の方向から別の人物が慌ただしく駆け寄ってくるのに気がついた。
国土交通省からの要請で現場に駆けつけていた科学技術省大臣のリー・ジョナサンだった。
ジョナサンは千田の学生時代からのライバルで何かと突っ掛かってくる千田にとってめんどくさいと思える人物だった。
「おーい千田ぁ!久しぶりじゃねぇか、元気そうで何よりだぜ。」
「生まれ故郷がボロボロになって元気なわけあるかボケ!」
「ハハ!最悪な気分だろうがそんな口が聞けるんだ。お前はまだ大丈夫だよ。」
ジョナサンは千田の背中をバンバン叩きながら無遠慮な言葉を並べ立てるが千田自身は大して怒っておらず、これはジョナサンなりの慰めの言葉であると分かっていた。
それにジョナサンは不真面目な男ではない。現に辺り一体にいる自分の部下に軒並み指示を出していたのを博は横目で視ていたのだ。
博への慰めも災禍の中心部の視察に来たついでであると予想できた。
ジョナサンは博のから手を離し、神妙な面持ちでサンダードラゴンの死体に目を向ける。
「これが例の?」
「ああ…」
「報告者が嘘をついていたと考えてたんだが、よもや現実とはなぁ…」
ジョナサンは目の前の光景が余りにも現実離れしている為に、苦笑いを浮かべることしか出来ない。
「事実は小説よりも奇なりとは言うが、こんなシーンを帝国で小説に書いたら間違いなく検閲後に処刑されるな。」
「博、冗談に聞こえないぜ?」
「半分本気だからな。帝国に蔓延る龍神教会の権力は計り知れない。」
博が噂をしたからか、はたまた偶然か、復興の騒乱の向こう側から白い法衣を見に纏う集団が、一際大きな喚声を上げながら二人の元へと近づいて来た。
「博!教団の枢機卿だ!」
「龍神教の枢機卿猊下直々の降臨とは、穏やかじゃないな…」
「そこのジプシル人!この場は今や聖域であるぞ!!誰の許可を得て領域を汚すか!」
枢機卿は取り巻きを引き連れて殴りかかるような勢いで博の元へと迫ってゆく。
それを見たジョナサンは慌てて博と枢機卿の間へと入り無理矢理意識を自分の元へと向けようと試みる。
「お、お久しぶりで御座いますミハイル枢機卿猊下!このような場所に猊下自らお越しくださるとは!被災者達もさぞ喜んでおられたことでしょう。」
「君は……………………………おお、リー・ジョナサン科学技術大臣か。偉大なる枢機卿である私が来たのだ。喜び敬うのは当然のことだ!」
ジョナサンは一瞬忘れられていた事に顔をひきつるが、なんとか平常心を保ちつつ「ですよねー」と枢機卿の言葉を受け流す。
ジョナサンによって勢いを一時的に失った枢機卿だが、枢機卿はジョナサンを押し退け博の眼前で博を指差してがなり散らし始めた。
「何故この場にジプシル人がいる!ここは偉大なるサンダードラゴンが入滅された聖域であるぞ!」
博は目の前でがなりたてる枢機卿の言葉に眉ひとつ動かさず淡々と言葉を返した。
「先ずは遅ればせながら枢機卿猊下、拝顔を賜り恐悦に存じます。私は魔法学庁長官の千田博で御座います。」
「挨拶なぞどうでも良いわ!質問に答えんかジプシル人!」
「…畏まりました。サンダードラゴン様の御降臨によって齎された浄化の祝福にて亡くなった人々の数があまりにも多く、また破壊されたインフラなどの状況を調査すべく召集を受けた為に馳せ参じた次第で御座います。」
暴龍災害は龍神教に於いてはドラゴノートの祝福や天罰と称されている為ふ枢機卿の不興を買わない為、博はこの場では敢えて言い換えて話しをした。
しかし枢機卿は博の言葉に納得せず、寧ろ一層勢いを強めて博を攻め立てた。
「厚顔無恥なジプシル人め、異端者である貴様らがサンダードラゴンの神聖な亡き骸を拝する事そのものが既に罪であると何故気づかんか!?」
「……枢機卿猊下、私は生まれも育ちも大シェオル合衆帝国です。ジプシル人では…」
「黙れ!言い訳をするな!!この私に逆らうか!このジプシル人風情が!」
最早博が何を言っても聞き入れられるような雰囲気ではなく、途方に暮れるしかなかった。
横から見ていたジョナサンは仕方なく博の肩を引きここを早々に立ち去る事にした。
「申し訳ございません枢機卿猊下!この愚か者には私からきつく言い聞かせて置きますので一旦この場は引き下がる事をお許し頂けるでしょうか?」
「去れい、去れい!この場をとっとと立ち去らんかぁ!」
「有難きお言葉!失礼致します!」
その言葉を最後に、博とジョナサンは逃げるようにその場を立ち去った。
「はぁ…はぁ…、全くお前は!異端審問にかけられて首が飛ぶぞこの野郎。」
ジョナサンは慣れない運動をしたせいで息を切らしていた。
「すまないなジョナサン、気を使わせて。」
「なぁに、同じ大学で同級生だったよしみだよ。はぁ…気にすんな。」
博とジョナサンは同じ大学で同じ学部の出身の人間だった。博は理学系の主席だったが、途中で魔法学系に移籍した。
ジョナサンにとってライバルとも言える存在だった博の学部の移籍は青天の霹靂であり、移籍直後も大学卒業後もずっと博に恨み言を言っていたのを博は覚えていた。
だからこそ、同じ大学出身だからと言って慰めてくれたり一緒に枢機卿から逃げたりしてくれた事を意外に思った。
「で?結局は何の用だ。まさか旧交を温める為にわざわざ俺に話しかけに来たんじゃねぇだろう?」
千田のツッコミにジョナサンは分かりやすく思い出したと大袈裟なジェスチャーを交えて話し始めた。
「取り調べでお前に見てもらいたい奴がいるんだ。」
「取り調べなんて警察か諜報部の仕事だろう?科学技術大臣が出張る事かよ。」
「いやいやその諜報部様から直々に依頼されてな?医学や精神治療を施して情報を出そうとしたんがぁ…どうにも捗らない。だから手っ取り早く私からお前を、魔法学庁長官の千田博なら簡単に出来るって推薦したんだよ。」
「勝手な事を…」
確かに千田なら魔術によってさまざまな手段で個人からの情報を抜き出せるが、まだ災害発生から一日しか経っていないのに諦めるのが早すぎると千田は心の中で毒づいた。
「ここでいっちょ役立つ所を見せれば、皇帝陛下の覚えめでたくなって魔法学庁が“省”に繰り上げられるかも知れないぜ?」
「……」
千田は分かっている。勿論、魑魅魍魎が跳梁跋扈する政界の幹部の一角を担うリー・ジョナサンも知っている。
そんなに甘い話は有るはずがない事を。
ただし今、魔法学庁に必要なのは一つでも多くの結果と実績を残す事である事には間違いない。
どちらにしろ千田が急ぎで片付けるべき仕事は今の所存在しない(やろうにも枢機卿が邪魔してくる)為、ここはライバルの親切に乗っかって情報収集の為にも取り調べに協力する事にした。
ヘリコプターで数分揺られた場所にあるアシハラ市の北に位置するエゾ市の総合病院に二人は来た。
病院の廊下をジョナサンの秘書に案内されながら歩いてゆくと、二人の帝国軍人によって警備された病室にたどり着いた。
「リー・ジョナサン科学技術大臣だ。こっちは魔法学庁長官の_」
「千田博です。」
二人の挨拶で名簿らしきものを確認した軍人達はビシッと敬礼してからハッキリとした大声で挨拶をして扉を開けて二人を中へ案内した。
「お待ちしておりました!どうぞこちらへ!」
千田は軍人の大声を煩く思いながらも軽くお辞儀をして中へ入って行く。
その部屋は空っぽで何も無い場所だった。異様なほど殺風景で、ベットもカーテンも点滴も…病院にあるべき設備は何も無かった。
有るのは椅子がひとつだけで、その椅子も人が一人縛られながら座っている為、実質使える設備は何も無いのと同じ様なものだった。
中にいたのは先程述べた椅子に縛られた男が一人と、スーツを着たなんの変哲もない役人の様な男女が二人、男の前に立っていた。
「ご足労頂きありがとうございます。」
「いいよいいよ。私は貴族政治家だけど、フットワークは軽い方だからね。国の為に役立つことができるなら、何処へでも駆けつけてみせるさ。」
歯の浮く様なセリフを吐く学友を感心した様な呆れた様な目で見ながら今回の本題となるであろう縛られた男に千田は注目した。
「……田中一之?」
椅子に手錠とロープで縛られていた男は、博のよく知る人物だった。
「お知り合いですか?」
「その前にあなた方の身分と名前をお聞きしたい。ご存じとは思うが俺は千田博、魔法学庁の長官をやっている。」
「失礼した。我々は国家安全保障情報局、所謂諜報部の者です。名前はジョー・スミス。よろしくお願いする。」
丁寧にお辞儀をしながらも大きな態度でスミスと名乗った男は千田に名刺を渡した。
「同じく助手のクリスタル・ジェイソンです。」
こちらの金髪の美女も見本の様な綺麗な姿勢で名刺を渡してくれた。
千田は「どうも。」と言いつつある種の畏怖の念を抱きつつ二人の名刺を受け取って、先ほどの質問に答えた。
「知っての通り俺は魔法学庁長官ですが、彼を筆頭とするアシハラ市内のフォートレスの魔法銃の調整などで顔を合わせる事があったんです。」
「成る程…つまり仕事上の付き合いがあっただけの知り合いですかね?」
「あぁ〜いえ、何度か顔を合わせるうちに気が合いましてね。お互い忙しい身で時々飲みに行っていただけでしたが本音を言い合えるぐらいには仲が良かったです。」
「報告ありがとう。こちらの情報とも齟齬は見られない。」
スミスはしれっと、千田と一之が友人で有る事を知っていた事を暗に明かして見せた。
これは表立って初めて接触した千田を試すと同時に、自分達の前で嘘をつく事は無意味であると告げてきたのと同じで有る。
千田にそのつもりは更々ないが、もし嘘や齟齬が生じていた時のことを思うと背筋が凍る様な気がした。
そんな千田の様子を見て、フォローのつもりかクリスタルが言った。
「ご安心ください。帝国にとって有能で正直者の人材は大変有用です。あなたが変わらなければ我々が関与する事はごく稀で有ると思って下さい。」
「俺はジプシル系移民の末裔で龍神教の信者でもない。おまけに皇帝陛下の長年の政策に逆行する思想すら持ってるんだぞ?それでも有用で無害か。」
それを聞いたクリスタルは冷たい笑顔で応えて見せた。
「そういう馬鹿正直な人間は役に立つ以外の行動が出来ないものです。あなたは警戒に値しません。」
半ば馬鹿にされた様な台詞を吐き捨てられ千田は少し苛立ちを覚えるが、逆にその台詞が今後の自分の行動に対してあれこれ考えなくて良いという安堵の方が大きかった。
「まぁ今回のメインはそこじゃなく、彼から情報を取る事です。」
スミスはそう言って縛られた一之の方に視線を移す。
「そうだ。何故田中さんは縛られてんですか!彼が何をやったってんですか!?」
千田がスミスに向かって問い詰めると後ろからジョナサンが冷静に答えてくれた。
「暴れるんだよ。何故かは分からないが、何かに対して異様なほど怯えていて、喚き散らしたかと思えばぶつぶつと訳の分からない言葉を繰り返したり、激しい自傷行為まで見られて収拾がつかなかったんだ。この拘束は逮捕というより周りや彼自身を守る為に施されたんだよ。」
ジョナサンの落ち着いた説明によって千田は納得しきれないが、一之の今の状況の経緯を理解することができた。
「……だとすれば余計に分からない。田中さんは歴戦のフォートレスの兵士でもある。生命の危機も一度や二度じゃなく経験してるのに一体何に怯えてるって言うんだ?」
「それも我々が知りたい事のひとつだ。我々としても彼が勇気あるソルジャーであるとは認識しているが、今の彼はその面影すらない。当時、彼をこれほど迄に追い詰めるほどの何があったのか…フォートレス唯一の生存者として是非とも語ってほしいんだ。」
「唯一の生存者……田中さん。」
千田は沈痛な思いで一之を見つめた。
今の一之の状況もそうだが、彼がどれほど過酷な修羅場をくぐり仲間を失ってしまったかを想像してしまったからである。
千田が一之を思い俯いていると横からスミスがせかしてきた。
「千田博長官。今は彼の事を思って憐れむよりも職務を全うしてほしい。田中一之も正気であればそれを望んでいるはずだ。」
分かった様な口をきくなと言いたかったが、千田はグッと堪えて「…はい」と短く返事をした。
クリスタルが改めて一之の状況を詳しく教えてくれた。
「今の一之さんは完全に精神の安定を失っており、極度の発狂状態にあります。我々も国民のために命懸けで戦った者に対して心苦しいのですが、鎮静剤や自白剤の投与、催眠療法などで一通りの尋問を試みましたが、有用な答えが未だ得られていない状況です。」
「成る程、分かりました。彼がこの先元に戻る保証もない為、残る手段としてこの国で魔術を唯一使える俺に白羽の矢が当たったと…。」
「理解が早くて助かります。」
「ただし、俺の魔術は国の衰退した魔術を参考に殆ど独学でかろうじて使えるレベルに落とし込んだ欠陥技術だ。結果は補償しかねるぞ。」
「それも我々は情報として理解している。今我々が掴んでいるのは藁だ。千切れても仕方ない物であるとわかっていて君をここへ招致した。成功遺憾で我々の君に対する評価が落ちる事は無いと保証しよう。」
千田は期待してないから気楽にやれと言う、彼らの裏の言葉にため息をつきつつも、目の前の友人を自分の手で救う機会であると考えた。
千田は自作の魔導書を懐から取り出して、オリジナルの魔法を行使した。
『千田式魔術法典、第三章、第三項、安寧の付与』
千田が魔法を唱えると一之は優しい光に包まれた。
見ているだけでも落ち着く強力な癒しの光であり、横で見ていたスミスもこれには感心して「ほう…」と唸る。
「田中さん。俺が分かりますか?田中さん!」
魔法の影響で正気を取り戻したかどうかを確かめるべく、千田は一之を大きな声で呼びかけてみる。
しかし…
「…ぅう、ぅうあああうああああ!ぇああああああ…ああああ!!!」
「うわっ!?」
一之は涙を流して縛られた体を大きく揺すり、首も千切れそうに成る程振り回して泣き叫んだ。
そしてそれを見た千田は改めて理解した。田中一之の心が既に壊れており、二度と元には戻らないと言う事を。
「やはりダメか……」
スミスも肩落として呟いた。
千田は一瞬だけ逡巡してスミスに願い出た。
「目的は情報を得る事ですよね?ならもう一度だけ魔法を使うチャンスを貰いたい。」
「今の魔法は情報を得るためのものでは無かったのか?」
「彼を治療する事で情報が得られると考えて行使した魔法だ。直接的に情報が得られる魔法では無い。」
「ふむ、その口振りから察するに直接情報を得ることが出来る魔法があると言う事だね?」
「はい……ただ幾つかの法に引っかかる可能性が大きい魔法でもある。倫理的、道徳的にもかなり難のあるが使用するなら俺は責任を取れない。」
「つまり見て見ぬふりをしろと?」
「違う。見て見ぬふりじゃ何かあった時俺が切り捨てられて終わってしまう。たった一つの情報に俺は命をかけられない。裁判所から令状を取り付けるかあんたの責任で魔法を行使する様に俺に指示して欲しい。」
「ふむ……。」
スミスは顎に手を当てて考える。
千田はスミスに対して無茶な要求をしたつもりはない。国家安全保障情報局がどれ程の権限を有しているかは分からないが少なくとも一省庁の長官クラスや大臣を動かせる程度には大きな権限が有るのだ。
面倒ではあるだろうが法をある程度捻じ曲げて任務を遂行するくらいの事は普通にできると踏んでいる。
その推測が何処まで正しかったのかは不明だが、スミスは殆ど葛藤する事なく千田の要求に応えてみせた。
「いいだろう。この場で何が実行され、どの様な事態に陥ろうとも全責任は私が背負うと約束する。」
「……本当だな?」
「我々は嘘つきだ。信じられないならやめてくれた方がいい。」
千田はスミスが言った言葉を受け止めてどうするかを考えた。