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魔王Lv.1-今日から世界は僕のモノです-  作者: 有邪気
第一章 来たる終焉
15/19

終焉の13【繝槭リ縺ョ縺薙%繧】Lv.???

 マナの中は先程の僕の夢の世界と同じく真っ暗だった。


 だけど同じ暗闇でも雰囲気が全く異なり、僕の世界は蠢く様な闇の躍動を感じられた。


 うまく言えないが僕の世界が悍ましき生命の脈動と評するのであればマナの中はそう、()()()()()と実感できたのだ。


 マナの中は前は霞がかかって見え辛く、地面は凍りついた様に冷たく寒く、孤独や停滞を強く実感させ、歩く気力すら奪われそうになる。


 イメージは僕の暗い夢とは真逆の()を強く連想させられる。


 寂しくて凍えそうになりながらも僕はマナの中をひたすら歩き続け、マナの名前を何度も呼んだ。


「マナぁ!どこに居るんだぁ!迎えにきたぞーーーー!」


「僕が悪かった!謝るから返事をしてくれぇ!」


「ここで君を見つけられなきゃ、僕はきっと後悔する!」


「姿を見せてくれぇ!寂しいんだ!そばに来てくれよぉ。マナぁ!」


 僕はマナの名前を何度も呼んだ。


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……


 お腹が空き過ぎて唾すら出なくなっても、喉が裂けて血が出ようとも、歩きすぎで足にヒビが入り肉が裂け骨が見えようとも。


 何時間も何日も何年も……或いは何世紀もの間、僕はひたすらマナを探し続けていた気がする。


 ここに必ず居ると()()()()()から。


 そして、その確信はとてつもなく長い年月をかけてあっさりと、だけどもやっとの思いで、()()()()現実へと変化した。


「やっぱり居た!やっと見つけられたよ、マナ!」


 周りの景色と変わらない虚空の冷たい暗い大地に膝を抱えてうずくまっていた。


 さっきまでぼろぼろだった僕の体は、マナに会えた喜びでここへ来たばかりの頃へといつの間にか戻っていた。


 僕は長年の願いが現実になった様な喜びに打ち震え、元気になった体でマナの元へと喜び勇んで駆けていった。


 だが僕の感情とは反対にマナは冷め切った様な、全てに絶望した様な静かな声でボソリと言った。


「……来ないで。」


「っえ!?」


 僕はマナの拒絶の言葉にギョッとして、マナの元に辿り着く前に急ブレーキをかけて立ち止まってしまう。


 僕はマナに会いたかったのにマナはそうじゃなかったのか?


 いや、ずっと歩き続けてたから忘れていた。


 僕は言葉でマナを深く傷つけていたじゃないか。


 あんな事を言っておいて、悪くもないのに必死で謝るマナに対して『どっか行ってくれ、顔も見たくない。』なんて言っておいて何も無かった様に喜ばしい再開シーンを夢見るなど虫が良過ぎるにも程がある。


 僕は佇まいを整えて深く深く頭を下げてマナに謝った。


「ごめんなさい!」


「?」


「僕が酷いことを言ったから傷ついて、辛い思いをしたんだよね?僕の事なんかもう嫌いだと思う!顔も見たくないだろ?声も聞きたくもないだろ?ただの自己満足だって分かってる。だけど、あの時マナを傷付けた言葉を全て撤回させてくれ!本当にごめんなさい!」


「……」


 僕が捲し立てる様に謝罪の言葉を口にすると、マナはゆっくりと少しだけ顔を上げて、謝る僕の姿を涙を溜め込んだ綺麗なその瞳にに写し込んだ。


 そしてマナは少し泣きそうになりながら、先ほどより大きく悲痛な声で、問いただす。


「なんで何も悪いことをしてないマオが謝るの?」


 そう言ったマナの顔は、僕が『顔も見たくない』と言い放った時よりも辛く悲しそうな表情をしていた。


「マオは自分で酷い事を言ったって言ってるけど、違うよ。私がマオに()()言わせたの。私が何も考えずに導侍の質問に答えて、それがマオの心を深く傷付けた。」


「それはマナは導侍が僕の事を言ってたなんて知らなかったじゃないか!そんな事、僕も十分に分かってたはずなのにマナに酷い事をたくさん言ったじゃないか。」


「マオは辛い気持ちを吐き出しただけ。悪いのはマオを傷つける事を言って、マオが私を傷つけたと思い悩ませて、あまつさえこうやってマオに謝罪までさせてしまった私。」


「そんな……」


「全部、私が、悪いの…。」


 マナはまた俯いて、顔を伏せてしまった。


 口で勝てないと言うのもそうだがマナは自分に非が有るという事を譲らない、その考えを変える事は困難だ。


 今ここで口論を繰り返しても僕は負け続けて、その度にマナが深く傷つくだろう。


 ならばストレートに、寄り道せず当初の予定を実行に移す方を優先しよう。


 僕はマナにどちらが悪いかという事を一先ず横に置き、彼女を生き返らせる事を提案した。


「マナ、僕がここ迄来た理由が分かるかい?」


「……」


 マナは黙って首を横に振った。


「マナはサンダードラゴンに殺されてしまった。だから生き返らせに来たんだ!」


「え?どういう事?」


 ストレートに言ったが返って裏目に出たかもしれない。


 今僕をはたから見たら、ただただ突拍子もない痛い事を言う馬鹿な中学生でしか無いだろう。


 流石に同年代では屈指の聡明さを誇るマナでも頭に疑問符が出ている事だろう。


 僕は自分の頭が良く無い事は自覚しているので、マナの頭の良さにかけて押し通す事にした。


「マナは死んだの!だから生き返らせに来たの!」


「いや、うん死んだんだろうなぁとは思ってたし、それは理解できてるよ?」


「じゃあ後は簡単だ!生き返らせに僕はここまで来た!」


「あ、ごめんね。マオ、そうじゃ無いんだよ?『どうやってなのかな?』って、疑問だったの。」


「ここ迄は歩いてきた!」


「惜しい!そこじゃ無いね。わたしが知りたいのはマオがどうやって私を生き返らせようとしてるかって事なんだよ?」


「成る程、そういう事か!」


「そういう事だ!」


 酷く頭の悪い会話をしてしまった。


 恥ずかしくて僕の方が死にたい気分になってきた。


 僕は赤面しつつも彼女の疑問の確信に答えた。


「ごめん、やっぱり僕は頭が悪いから上手く説明は出来ない。だけどコレだけは確かだから信じて欲しい。僕にはマナを生き返らせられる力が有る。だからここ迄やって来たんだ。」


 僕はマナに向かって手を差し出す。


 マナは僕の容量を得ない言葉を信じてくれた様で、僕の差し出した手に応えてゆっくりと手を伸ばそうとした。


「ごめんね、マオ。」


 だが途中でハッとした様に我に帰り、自分の手を引っ込めてしまった。


「マオの言葉はとても嬉しいし、私も生き返りたいよ?でも私はその手を取るわけには行かない。」


「え、どうして?」


 この世の断りに反するとかそんな話だろうか?そんな事は気にしなくてもいいのに。


 僕はそんなふうに考えていたが、マナはもっと別のことを考えていたのだ。


「私はまだ、マオを傷付けた事に関して私自身を許してないの。」


 そう、先程わざと横に置いておいた筈の問題はマナの蘇りそのものに大きな壁として立ちはだかって来たのだ。


「あれは僕が悪いって……あ、いや僕がマナを許すからそれで良いって事にしようよ!」


「マオは優しいね。でも、それじゃあダメなんだ。」


「何で?」


 マナは達観した様な絶望した様な、少し悲壮にも見える真顔で言った。


「これは私の罪だから。私は償いのためにもここで死ななきゃならないの。本当はここで会うつもりもなかったんだけどね…。」


 それは覚悟だった。信念とも言えるだろう。


 マナは僕を傷つけた事を大きな罪として断罪する為にもここで死ぬつもりなのだろう。


 そして今僕は何となく理解した。


 何故あんなにも長い間、マナを見つけることが出来なかったのか。


 恐らくマナは僕に会う事も、自らの贖罪の為に禁じていた。マナが僕に合う事をある意味で拒絶していたが故に僕は長期間にわたって探し続ける羽目になった。


 それでもマナに会えたのは僕がぼろぼろになってもいつまで経っても自分に会う事を諦めなかったが故に、マナが折れて仕方なく僕に会ってくれたのだ。


「でも僕はマナに生き返って欲しい!そう願ってここ迄来たんだ!」


「ごめんね、せっかく来てくれたのに。でもねもう決めた事だから。」


「嫌だ!生きてよマナ!マナが望むなら結婚だってするからさ!生きて僕の側に戻って来てくれよ、マナぁ!!」


「…ごめんね。」


 そう言ってマナはまた俯いてしまった。


 今度は何を言っても、何をしようと顔を上げなくなってしまった。


 もう決めたから、これが私の罪、私の贖罪だと言わんばかりに、マナは起きる事そのものを拒絶した。


 僕は必死に言い募り、身振り手振りでマナの気を引こうと奮闘するが、マナの反応を得る事すらできなかった。


 僕が疲れを自覚して肩で息をし始めた頃、僕の中に苛立ちの様な感情が芽生えた。


「もういい…。」


「……」


 マナは反応しない。きっと、やっと諦めてくれたかとしか思ってないのだろう。


「マナとの明るい未来を手に入れる為にここ迄頑張ったけど……もういい!」


 駄々っ子の様に、手に入れたいおもちゃが手に入らなくて拗ねる様な言い方に我ながら幼稚だと思うが、仕方ない。


「マナとの未来が手に入ら無いなら要らない!代わりにマナの全てをもらう!」


「っ!?」


 驚愕…俯くマナの背中からはそんな感情が読み取れた。


お前(マナ)は何もしなくていい!何もせずに、ただ黙ってその身も、心も、魂も、全て僕へ捧げればいい!!!」


 暴論、暴言、ハラスメント的であり、他人の権利や人格を丸で無視した僕の僕らしからぬ言動に、マナは驚愕したのだろう。


 一過性の怒りかもしれない。また自分が言わせてしまった暴言なのかもしれない。或いはただ戸惑っただけなのか。


 マナは恐る恐る、僕の顔を見上げて理解した。


『全て僕へ捧げればいい!!!』


 コレこそが僕の願いであり、僕の信念なのだと。


 マナは僕の思い、僕がマナを捧げろと言った事にマナ自身の歪んだ愛情故か歓喜し再び目に光を宿そうとしていたが、それでも彼女は動けなかった。


 それ程に彼女の罪悪感は根深いものだった。


「む、無理だよいくらマオのものになっても私の罪は消えない。」


「何を勘違いしてるんだ?」


「え?」


「僕は全てを捧げろと言った筈だ!だからお前の罪は既にお前のものじゃ無い!その罪も全て僕が背負うべき僕の罪になったんだ。お前はもう罪を償わず黙って僕に従えばいいんだよ!」


 乱暴で、横暴で、傲慢で、強欲。


 自分の願いのためならどの様な罪も背負うと言う僕の姿はどう写ったろうか?


 酷い事をしている自覚は有る。


 絶対に嫌われる自信がある。


 それでも僕はマナが欲しかったんだ!


 僕を愛してくれて、僕に尽くしてくれて、僕に優しくて、見た目も可愛く美人で、僕の情欲を唆る、僕にとって何処までも都合の良いマナの全てが!


 僕の願い、僕の思いにこの暗いマナの世界が耐えきれなくなったのか、僕の中から湧き出す様な不思議な力がマナの世界に急速に広がっていき、マナの世界を少しずつ壊して、ミシミシとひび割を入れていった。


「本当に…マオは勝手だなぁ。」


 涙をボロボロ流しながら笑ってそう言うマナは、ゆっくりと僕に手を伸ばす。


 その動きはぎこちなく震えており、既に彼女は自分の意思で動いてはいなかった。


 まるで糸に吊し上げられた操り人形の様に僕から差し出された手の中へと引き摺り込まれてゆく。


「捧げよ!お前(マナ)の全てを我が手中へ!!!」


 僕とマナの手が繋がると、世界は音を立てて崩れていく。


 その崩壊はマナの思いも、覚悟も、信念も、全てを置き去りにして吹き飛ばしてしまった。

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