終焉の12【縺セ縺翫≧縺ョ縺薙%繧】Lv.???
僕は気がつくと一昨日見た夢の中にいた。
真っ暗で、真っ黒で…。自分の姿は見えるのに、身体に影のない奇妙な場所。
だが多くの点で違うところが見られた。
まずここは先程と同じアシハラ市のラウンドアバウトだという事、そして周りの風景は笑うサンダードラゴンと死んだマナが横たわる風景そのままだった。
だが奇妙なことに僕以外の全てのヒト、モノ、空、大地から空気まで黒いペンキをそこらじゅうにぶちまけた様に真っ黒で、時計の針を止めてしまった様にピタリと全てが停止していた。
まるで初めから何も動いてなかったかの様だった。
僕自身は不思議とその事に不安はなく、安心感のある心地の良い風景だと思えてしまう、奇妙な感覚に不安定感を覚えたがやはり心地よく徐々に落ち着きをとりも出していった。
落ち着いた心は目の前の絶望をもう一度直視させる。
マナが死んだ。
「僕のせいだ……。僕のせいでマナが…!」
「その通り。」
「っ!?」
顔を見上げるとそこには片膝を立てて座る僕がいた。
ニヤニヤといやらしい笑顔をしながら僕のことを見つめていた。
「やっとだ…ついにこの時が来た。」
「……お前は?僕と同じ顔で、声も似てて、その……」
「おいおい勘弁してくれよ!昨日今日出会ったばかりの他人を見たようなツラしやがって。そこまで情報出揃ってんじゃねぇかよ!」
あざける様に戯けて、大袈裟な身振りでヤツは捲し立てる。
お前は僕?
「そう俺はお前でお前は俺だ。もう一人のお前って訳じゃない。お前の奥底に、お前がこの世に生まれ堕ちたその時から心の奥の奥底に確かに存在していた。お前の中の嫉妬、欲望、食欲、虚栄、怒り、堕落、性欲、などなど不満やら葛藤やらそう言う暗くて黒い心の汚れみたいなものが俺だ。」
あくまでも僕と切り離された存在ではでは無いとコイツは語った。
だとしたら何故コイツは笑っているんだ。大切なヒトが死んだって言うのに。
僕は未だ戯けた態度を取り続けるコイツに強い怒りを覚えて睨みつける。
「何故俺が笑っているか分からないってツラだな。簡単な話しだ。俺は知っているからだ。」
「何をだ!」
コイツは横たわるマナの死体を指差して、淡々と告げた。
「夜野マナを復活させる方法をさ……!」
「っ⁉︎」
僕は藁にも縋りたい思いをグッと堪えて、反射的にその方法を聞く事を躊躇った。
僕はコイツが何なのかをよく考える。
コイツがもしコイツ自身の言う通りの僕の心の一部であるなら、コイツが知っていて僕が知らない事があるのは明らかにおかしいからだ。
僕を騙そうとしている可能性だって十分にありうる。
それに僕は生まれてこの方、僕の心の暗い部分がこの様な形で存在していた事そのものを知らなかった。
っていうか何で僕の心の暗い部分が独立して僕を嘲笑う様に目の前で座っているんだよ!
色々と考えてみるがやっぱり怪しい部分しかない。
そうやって僕が訝しんでいると言うのにコイツはケラケラと笑いながら僕の疑問をくだらないと吐き捨てた。
「記憶や意識は一つの塊ではなく、元々がバラバラで細分化されているものなんだよ。沢山の欲求や抑制が睨み合い、本能と理性がせめぎ合い、価値と倫理が殴り合う。全ては混ざり合った一つの結晶ではなく、幾つもの小さな意思が集まってより強い思いが外側へと吐き出される。だからこそお前やその他の人間は、矛盾を孕みながら生きいるんだよ。」
「僕はバラバラの僕の集合体だって言う事…?」
「そんなところだ。普通は気にしないし気にもならない。俺たちはレアケースなのさ。」
「僕はお前を今まで知らなかったのは何故だ!最初からいたのなら知っていても良いだろ。」
「………」
「なんだよ!」
「俺のくせに以外と頭が回るじゃないか。」
「あぁ!?」
自分自身に馬鹿にされた。
そりゃ僕は頭が悪いけど、もう少し取り繕ってくれてもいいと思う。
「大した話しじゃないさ、成長すると人間は心の暗い部分てのは押さえ込む様に成長する。お前もそうだそう言うふうに成長した。」
「押さえ込まれてないじゃん。」
「まぁ待て、普通なら押さえ込まれてしまうもんだ。カエルを幼子心に潰したり、虫の幼虫を爆竹で面白がって破裂させたり、弱いものイジメで他人を乗りで自殺に追い込んだり__そう言う無邪気な悪意の一つ一つは成長と共になりを潜める。何故だ?」
「……親や先生に怒られるから?」
僕は想像して少し背筋がゾクっとしてしまったが、恐る恐る質問に答えた。
「まあそうだな……やっちゃダメって教わるんだ。道徳として或いは社会のルールとしてな?そうやって人間は理性を成長させて悪意を退化させる。」
「話が見えないよ。結局お前はどうして出てきた!」
難しい話に焦れてしまい、僕は叫んで答えを急がせようとすると髪の毛を掴み、無理矢理顔を近づけさせられる。
僕とコイツとの顔の距離が、ギリギリまで近づき僕自身にコイツの息がかるがかる。
「俺が人間として成長したその結果が俺だ。お前の中で退化するはずだった悪意が独自に成長を遂げた。別れられない程に強い心と心の結びつきが反発し合い、俺と言う人格の様な物を形成したのさ。」
コイツは答え合わせが終わると乱暴に突き放す様に僕の髪の毛から手を離した。
僕は尻餅をつき痛みに耐え打ちのめされながら考えた。
そうだ、昔の僕はもっと今より他人を傷つける事に躊躇がなかった気がする。
いつしか、痛みを知り、苦しみを知り、規範を知り、倫理を知り、友を知り、自分の弱さを突きつけられ、他者から愛を受け取り、社会に教わった美徳に毒されて、僕は優しい僕を作りあげた。
だけど僕は反対に、自分の成長と共に大きくなる僕と言う存在を無視して放置してしまったのだ。
「……今更僕を受け入れろって言うのか?」
僕は自分が優しさを手に入れた事を後悔していない。
この優しさで手に入れたものも僕の短い人生の中にたくさん有ったと言う事も事実であると理解しているから。
今更捨てたくはない。
「さぁな?どうだって良い。責めるつもりもない。こんなのはごくごく些細な問題だよ。そもそも今そんな事がお前にとって重要なことか?」
だけどコイツは僕の疑問や葛藤を一蹴してしまう。
「よく考えろよ。さっき迄の話はなんだった?極端な話、俺がどこの誰で何のどれであれ関係がないだろう?たとえ俺がペテン師であってもお前はこう言わなきゃいけない筈だ。」
そう言われて僕はようやく気付いた。気付かされた。
僕が今ここにいる理由を。
そうだ。僕が今知らなきゃならない事はコイツの事なんかじゃないんだ。
例え騙されても、貶されても、陥れらても、縋るものが藁であっても、蜘蛛の糸でも、目に見えない霞であったとしても、僕はそれを掴まなければならないんだ。
「マナを救う方法を教えろ!」
「良くできました!」
幼い子をあやす様にコイツは小さく拍手した。
「ただし、一つ条件がある。どんなに時間がかかっても良い。俺のある野望を叶えてほしい。」
何をどうしたいとはコイツは敢えてなのか、僕を試す為か、自分の野望の中身迄は語らない。
聞いても今は答えない、そんな確信があった。だから僕は間髪入れずに迷わず応える。
「わかった。じゃあ早く教えろ!」
僕がそう即答するとコイツは先程とは打って変わって、目を丸くしキョトンとした顔で少し驚いた様子だった。
「良いのかよ?野望の中身を聞かなくて。承諾したら例えどんなに困難でも、どんなに残酷で惨たらしい運命を辿ろうと、冒涜的で許されざる罪を背負おうとも必ず叶えてもらうぞ?それでも良いのか?」
僕のあまりに早い回答にコイツは僕が深く考えずに答えを出したと考えたのだろう。
コイツは僕を恐ろしい形相の鋭い目つきで睨みつけ、僕に凄んで脅して来た。
だから僕はさっきの仕返しに、逆にニッと笑って見せてコイツに自分の出した答えを聞かせてやった。
「その願いは多分、僕が叶えたくて諦めたはずの願いなんだろ?だったら極端に僕が望まない結果が出る事をお前自身が許容できるはずが無いんだ。それに…」
「それに?」
「例え世界の名前も知らない人間共にどんな犠牲が出たって僕がマナを諦める理由になんてなりはしないだろ?」
コイツは少し驚いた様な顔をしたが、変に納得したのか内側から何かが込み上げる様に笑い始めた。
「……ククク、ハハハハッハッハッハ‼︎!そうだな、そうだよなぁ?なんせお前は俺なんだからなぁ!罪がどうとか人道がどうとか、今更どうでも良い話しだよなぁ?ハッハッハッハ!」
「いやどうでも良くは無いけど。」
目的の為に手段を選ばない的な言い回しのつもりだったが、遠回しに人でなし認定を受けた気がする。
「じゃあ早速教えてやるよ。」
「_ぅぐっ!」
そう言うとコイツは片手で僕の首を乱暴に締め上げて持ち上げる。
首の皮膚に爪が食い込み息ができなくて、肺が必死に空気を取り込もうとするが無駄に収縮と拡大を繰り返して顔と胸が苦痛とともに熱を帯び始める。
だけどものすごく苦しいはずなのに、妙に楽しくなって来て、苦痛と共に幼少の頃に戻って無邪気に遊んでいる様な感覚を味わう。
「方法は簡単だ。まずはお前がマナに__」
「もう分かってる!」
そうだもう理解できている。
今まで知っていたはずなのに、ずっと昔から理解していたのに何故か分からなかったその方法。
コイツと話していてそれが分かった。分からされ、理解させられ、そして思い出したのだ。
僕の中に有る許されざる力、その使い方を。
「そうか、そうだったな。お前は俺だものなぁ?」
「そうさ!僕はお前だ!」
そう言い放つととびっきりの笑顔でコイツは躊躇なく僕の顔をマナの死体に叩きつけた。
「行ってこい、この腑抜け野郎がぁ!」
真っ黒なマナの死体は泥人形の様に変形して、いとも簡単に僕はマナの中へと侵入させられる事となった。