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魔王Lv.1-今日から世界は僕のモノです-  作者: 有邪気
第一章 来たる終焉
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終焉の9【終わり5.5】Lv.??

 アシハラ市中央のラウンドアバウト前の広場にあるベンチに座って私は、夜野マナは自分のしでかした事を悔やんでいた。


 しでかした事は単純だ。


「私のせいでマオが傷ついた。」


 マオは私を傷つけた事を悔やんでいるだろう。だけど私がマオを傷つけ無ければそんな事にはならず、マオが私に対して悔やむ事もなかったのだ。


 つまり全ては私のせいなのだ。


 思えば私はマオにたくさんの優しさや幸福を与えられながら、私自身が変わる事は一切なかった。


 昔と比べれば友達も出来たが、マオに勧められ、マオに心配をかけないために作ったに他ならない。


 友達の事は一緒にいると割と楽しいから好きだが、関係の根底にはマオの存在が常にあり、それがブレる様な事はなかった。


「最低だよね…全ての責任をマオに押し付けている様なものじゃない。」


 思えば昔から夜野マナ(わたし)と言う人物は他人と言う存在に大きな失望を抱いていた。


 父と母は財閥と政治家貴族の政略結婚的な夫婦で、仲が悪い…というよりお互いにお互いが興味がない様で極めて冷めた家庭だった。


 二人とも仕事で忙しい生活ではあるが、たまに目があっても口を聞かないどころか見向きもせずすれ違うと言う様だった。


 当の私はと言うと教育は乳母に任せられっきりで、コレまた両親との会話は年に数回程度、進路や将来の在り方について『こうしろ』『ああしろ』と、まるでロボットにプログラムを入力する様に端的に命令されるだけで、後は放置である。


 一度、振り向いて欲しくて子供ながらに万引きや、癇癪じみた暴力を学校で振るうこともあったが、やった事実そのものを家の力で揉み消された挙げ句、両親は口を揃えて『もっと上手くやれ。』と端的に注意された。


 二人とも私に対して怒ったり、叱ったり、諭したり、寄り添ったりなどと言う親らしい行為は決してしなかった。


 ただひたすら自分の、自分達の一族に貢献する事を第一に、それに見合う能力を身につけて、一族が積み上げてきた財産や利益を守る事だけを教育されてきた。


 私も成長を重ねてそれを受け入れつつあったが、同時に生きる事に対する虚しさや誰にも理解されないことへの冷めた思いが募り、小学二年生の頃には周りの同級生や教師が同じ人間でなく、言葉を話す獣の様に思えてならなかった。


 下手に頑張らなくても、教師より勉強が出来てしまい、周りより卓越した頭脳を持ってしまった事も、他人に対する無関心に拍車をかけた。


 言い出したのが誰かは分からないが学校のそういった様子を両親が知る事となった。


 流石に誰とも友達にならず機械の様に勉強だけをこなすだけでは、幾ら情操教育を重んじていない我が家でも()()()()()()()では一族の存亡に関わると判断せざるを得なかったのだろう。


 幸い勉強は既に家庭教師の甲斐もあって小学生低学年ながら高度に教育された高卒のレベルにまで到達していたので、今更勉強内容で学校を選ぶ必要も無かった。


 私は小学生三年生からそれ迄の将来のエリートを育てる学校ではなく、公立で近くに住む子供なら誰もが通う普通の小学校に転校した。


 そこで私はマオに出会った。


 出会った当初は同じクラスながらに接点もなく、女と男で話題も合わないので話す事も暫くはなかった。


 だが()()()をキッカケに私は彼を好きになった。


 始めは友達として。


 次に異性として、初恋の相手として。


 そして徐々に気持ちは募ってゆき、今ではマオが私の人生の全てとなった。


 両親はそれを知り、激怒して私達を突き放そうとしたが、一人娘としての特権と両者の仕事に対するアドバイスを手土産として、恋愛の自由を強引に補償させた。


 私が生まれた後に父が病気で子供を残せなくなった事も交渉を有利に進める材料となった。


 両親が怒っていた理由はシンプルで『頭の悪い孤児でなく、私達が選んだ由緒ある優秀な人間と結婚しろ』と言うどうしようもない、クソの様な理屈だった。


 私と釣り合う頭脳の人間なんてそうはいないし、例え私以上に優秀な人間がいたとしても私は微塵も興味が湧く事は無いと確信できる。


 マオの能力はどうしようもなく低い。


 だけどマオは私に優しく接してくれ、私の冷徹さや能力を物ともせずに心の壁を飛び越えて、私の孤独と虚無感を癒してくれた。


 私の心を解きほぐし満たしてくれたのだ。


 今でも忘れない。マラソン大会で道端で体育座りをしながら俯きがちにサボっていた時の話だ。


 周り誰もがサボってる私を流し目に通り過ぎることしかせず、教師ですら政治家と実業家の令嬢で言う事も聞かない厄介な生徒である私に一言「ゴールした事にしおくから、校庭には帰ってくる様に…」とだけ言って放置したのだ。


 だけどマオは違った。


 マオは最後尾で少し青くなった顔で必死になって走っていたにも関わらず、道端で不貞腐れた不真面目な私に手を差し伸べて一言、とても嬉しいたった一言を私に言ってくれた。


『一緒に走ろ?』


 そのたった一言が私の心をどれだけ救ったかマオでも理解してはいないと思う。でも、私は本当に人生で一番嬉しかったのを覚えている。


 結局マオは途中から走れなくなってしまい、歩いてゴールする羽目になったが、私の手をずっと握っていてくれたマオの手はとても暖かかった。


 あの暖かさが私が世界に存在する事を実感させてくれた。


 だから私は、周りから見て異常だとも取れると分かっていても、マオに私の全てを捧げて尽くしたいと思ったのだ。


 マオを誰よりも愛しているから。


 なのに私はマオを傷つけてしまった。


『努力が実らず足掻いても何一つ身に付かない僕とマナ自身を比べて優越感に浸って笑ってたんだろ?挙句、結婚なんかして僕を部屋で飼い慣らして、一生馬鹿にして生きていくつもりだったんだろうが!』


 マオがそんな事を思っていないのは百も承知だ。


 だがあの時のマオは導侍のイジメによって酷い劣等感に苛まれ苦しんでいた。


 導侍の質問と私の無遠慮な意見が合致してマオの心をより深く抉る事になったのだ。


 マオの言葉は言わば私の心の鏡であり、私自身の醜い内面の投影にしたにほかならなず、マオは導侍の誘導と私の冷たく単楽的な言葉に傷つけられた被害者だ。


「私がマオを傷つけた。私のせいだ…。私という存在がマオを追い詰めたんだ……。こんなに好きなのに、愛してるのに……私はもう、一緒にいる…資格もないんだ!」


 喉の奥からお腹の底まで、締め付けられる様に冷たくなってゆくのを感じた。


 きっと永遠に私は一人ぼっちなのだ。


 一緒にいられたかも知れない最愛のヒトを取り返しがつかない程に私は傷つけてしまったのだから。


 遠くから暴龍災害の発生を知らせるサイレンの音が響き渡ってくるのを感じる。


 周りの喧騒がパニックに変わり、シェルターへと逃げてゆく人間たちの声が遠くへと掻き消えていった。


 そうだ、いっそこのまま暴龍に殺されてしまおう。


「そうすれば、マオの心の中にちょっとは私の事が残るかな?」


 本当に、最初から最後まで身勝手で嫌な女だよ、私は。


 遠くから響いてくる雷の轟音が、私の涙をせせら笑っている様だった。

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