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第31話! 愛重ねて!

 ルゥとの時間を大切にして国からでるか、嫌われてでもルゥのために神を続けるか。

 ライラクは何も助言しない。

 今回ばかりは、リィが自分で決断しなくてはならない。


「どっちでも、ルゥへの愛は変わらないのに……」


 夜風がリィの心をより冷ます。

 家が見えてくると、自宅の前には警備係の信者が二人いて、彼らはリィを発見するなり、走ってきた。


「神よ、他の信者から聞きました。今日は姿を見せず、説教をしてくれなかったと」


「私の妻も救いのお言葉がなく大泣きしていました」


 たった一日顔を出さなかっただけでエライ騒ぎようである。

 こちとら毎日毎日欠かさず働いているんだから、ちょっとくらい休んだっていいもんである。


「あ〜、今日はそういう日なのだ。数日に一日は働かず体を休める日とする」


「「なるほど~」」


「そうだなあ〜、だいたい七日に一回休む」


 こうしてこの世界に休日の概念が誕生した。

 どうせなら一日と言わず三日くらい欲しいものである。


 玄関扉の取っ手に触れる。

 妙に扉が重く感じた。

 開ければなかにルゥがいる。ルゥに会ったら、決めなくちゃいけない気がする。

 妹を選ぶか、国を選ぶか。


「あの、ライラクさん、ミーラちゃん。ここで待っててもらえませんか? 一人で、ルゥと話したくて」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 家に入って、大きく深呼吸したのち、ルゥがいる寝室に入った。


「ルゥ、ただいま」


「……」


 無視されるのは予期できた。

 正直死にたくなるほど辛いが、ルゥの心情を察すれば致し方ない。


「あの、あのね、ルゥ」


 決断しなくては。先延ばしになんてできない。

 明日には国から追放されるかどうか決まってしまう。


「あのね……」


 ならばどっちだ。

 王に怒られルゥと国を出るか、ルゥに嫌われてでもあの子の生活を守るか。

 国と、信者たちのことを思えば当然後者。だが神様活動の原動力は、ルゥなのだ。


 どっちだ、どうすれば……。


「姉さま」


「え、なに!?」


「昨日は、すみませんでした。駄々をこねてしまって。私は、姉さまのおかげで生きていられるのに」


「そ、そんなことないよ! むしろ私こそ、ルゥがいるから生きていけるんだもん。これまでがんばれたのだって、ルゥを想って……」


「さっきミーラちゃんと話して、思い知りました」


 ミーラと話した?

 まさかミーラはトイレから帰ってこなかったのは家に帰っていたから?


 リィはミーラが何を話したのか気になったが、脳の片隅に追いやった。


「きっとミーラちゃん以外の大勢の人も、同じくらい姉さまを信仰しているんですよね」


「ど、どうだろうね」


「姉さまの教えがどんなものなのか、詳しくはしりません。善き教えだってことしか。それで救われた人がたくさんいる。しかもそれは、私のためにはじめたこと」


 ルゥの声に涙が混じった。


「それを奪ってまで姉さまの隣にいるのは、きっと罪。でも、私は姉さまとの時間がもっとほしい。遠くに行ってほしくない」


「ルゥ……」


「私は、自分ではなにもできなくて、頭も悪いので、神のことも、姉さまとパリオさんの関係も、病気のことも、いろいろ考えても、ただ頭がぐちゃぐちゃになるだけで! 何が正しくてどう受け止めれば良いのかわかりません。ただ!」


 ルゥは見えないはずの目を見開いて、叫んだ。


「私は、姉さまに死んでほしくありません! 永遠に姉さまに愛されていたい!! それだけは……確かなんです」


 リィは胸を締め付けられて、たまらずにルゥを抱きしめた。

 同じだ。やはりルゥは妹、悩みも願いも、同じだ。

 リィだって先がわからない。決められない。ただ、ルゥを愛し、愛されていたいだけ。

 死にたくない。永遠にルゥの側にいたい。


「ルゥ、大好きだよ。寂しい思いをさせてごめんね……」


「姉さま……病気なんて、嘘なんですよね」


 途端、喉が痛くなって、リィは吐血した。

 あぁ無理だ。これは現実。自分に未来などない。死は確実に迫っている。

 ルゥを永遠に愛し続けるなんて、できない。


 たった一つの方法を除いて。


「ごめんねルゥ。やっぱり私、神様続けるよ。ルゥを本当に愛しているから、ルゥに素敵な世界を残したい」


 少ない時間をルゥに捧げて、そのあとはどうなる。

 来年自分が死んだら、ルゥはたった一人、厳しい世界に取り残されてしまう。

 そんなこと、絶対にさせない。させてたまるか!!


 ルゥに残すのだ。神として作り変えた、新しい善き世界を。

 たとえいま、ルゥに嫌われたとしても。

 それが、ルゥを永遠に愛す方法だから。


 はじめからそのつもりだったのに、とんだ回り道をしたものである。


「私は変わったかもしれない。だけど、この愛だけは変わらないよ」


「……わかりました。なら私は、ずっと姉さまを信じます。姉さまの愛を」


 他にどうすることもできない。

 最愛の姉が残された僅かな時間を削ってまで自分のために世界を変えているのだ。これ以上は望めない。


「ありがとう。これからはちょっとでも長くルゥと一緒にいられるよう努力するね。隠し事もしない。お姉ちゃんと神様、どっちも頑張るよ」


 リィは涙に濡れたルゥの頬を親指で撫で、彼女の唇にキスをした。


「あと何回、姉さまとちゅーできますか?」


「わかんない。だから、たくさんしよう」


 それから何度も何度もキスをして、互いに愛の言葉を囁き、そして、肌を重ねて溶け合った。


 余談だが、ライラクとミーラはいつ家に入っていいのかわからず、結局朝まで外で過ごした。

ついにしましたね。

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