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見守る

 ヤンが子供を保護した頃、ゲオルクとアンは賞金首になっていた。エヴァにとっても親の仇。弟に領主となる教育を施しながら、虎視眈々と首を狙ってきた相手である。


 エヴァは、過激派の引き渡し要求の使命を帯びて谷の里へと旅立つ。


 森にいたはずのアンとゲオルクは、過激思想を広げながら旅をしているらしいのだ。穏健派の情報網に引っかかり、現在、エルフの隠れ里の中でも武芸が盛んな谷の里に滞在中だと判明していた。



 影響力のある過激派幹部がヒンベル領の出身であることは、騎士団にとって頭の痛いことであった。過激派があまりにも目立つと、領内に中央政府から討伐隊が派遣されてしまう。


 そうなる前に領内でなんとか混乱を収めたいと、ヒンベル騎士団は考えていた。

 ヒンベル領は穏健派である。平和主義なのだ。領内が戦禍に見舞われるのは防ぎたい。



 谷の里へ行く人員は、騎士団で公募があった。私闘は国で禁止されている。復讐心を抱くエヴァを森へのメンバーに指名するわけにいかない団長だが、敬愛していた領主の仇討ちを手助けしたいと思ったのである。


 募集は5名、志願者が3名。定員割れなら全員採用である。また今回は、危険な任務に強制派遣は出来ない領法を理由に、追加の2名は指名されなかった。


 里へ行くのは志願者3名。

 エヴァの他は、男性騎士2名だ。


 ひとりは、エヴァとはなにかとペアを組む同期のカレル。癖のある赤毛に茶色い目の大柄な男だ。陽気で呑気、既に子供が2人いる。エヴァたちのいる小隊の次期副隊長と目される実力者だった。


 もう1人は、年嵩のチャラ男ペトル。金髪に琥珀の垂れ目の優男。これでも武芸は得意である。

 しかしこの男、決まった相手を作らずに、女性と見れば声をかけるタイプであった。エヴァは亡き領主の娘だが、そんなこと気にせず、時々食事に誘われる。



 エルフの里に向かう山の中ですら、ペトルはエヴァを誘う。


「エヴァちゃん、ヒンベルに戻ったら、新しく出来たカフェにいこ」

「結構です」

「そんなこと言わずにさあ。ねえ、エヴァちゃん、怖い顔ばっかしてないで、美味しいもの食べよう?」

「余計なお世話です」

「エヴァちゃんさ、かわいいのに勿体ない」

「ペトルさんには関係ない」


 そこへ、水汲みで席を外していたカレルが戻って来た。


「ペトルさん、いい加減にしてください」

「なんだよ、カレル。邪魔すんなよ」

「エヴァが嫌がってるでしょ」

「そんなことねえよな?エヴァちゃん」

「嫌です」

「まったく。これさえなきゃペトルさんはとっくに副団長くらいになってるでしょうに」

「全くです」

「なんだよ、2人して虐めんなよ」


 エヴァの肩を抱こうとしたペトルから、カレルがエヴァを守る。その様子を、木の上から見ていた者がいた。



 ヤンが助けた子供は、エルフの孤児であった。皆殺しにされた小さな集落で偶然生き延びていたところを、ならず者に捕まったのだという。


 師匠のいる里まではあと少し。保護したエルフの孤児を避難させるのは谷の里にしようと決めたヤンは、子供と2人で旅をして来た。今は、木の上で休憩していたのである。


 カレルがエヴァを庇う様子に、ヤンは胸の痛みを感じた。だが、今の世の中で、ヤンがエヴァの隣にいるのは迷惑だ。エヴァに危険が及ぶ。


 守ってくれる人間ができたのだ。喜ぶべきなのだ。ヤンは自分に言い聞かせた。



 エヴァとカレルの2人は翌朝、一緒に水汲みをしていた。楽しそうに話しながら、まるで危険などないように。

 ヤンは昨晩のことも、今朝の2人も、一部始終を見下ろしていた。


 そもそも、ヤンとエヴァは単なる友達だった。ヤンはエヴァが好きだけれど、エヴァの気持ちはきっと恋ではなく友情なのだと思っていた。


 声をかけるのも躊躇われ、ヤンは木の上で切なげに自分の手首を掴む。そこには、エヴァが保存の魔法をかけてくれた想い出のブレスレットが嵌まっていた。



 エヴァはヒンベル騎士団の制服を着ている。何かの使者としてこんな遠方にまで派遣されたのだろう。騎士団にはそう言う使者がよくいるらしい。そう思ったヤンは、谷の里が過激派の手に落ちたことに思い至らなかった。


 ヤンが見る限りでは、エヴァは同僚らしき連れの2人と、気安い様子で旅をしていた。とくに歳が近そうなカレルとは、仲良くしている。

 まさか、過激派幹部となったゲオルクとアンを捕縛に向かっているとは想像出来なかった。



 ヤンは子供を連れている為、休憩をたくさん取らなければならない。また失恋に胸を痛めていたこともあり、ヤンの歩みは遅かった。

 それでも、険しい山に不慣れな騎士3人と同じくらいの速度ではあった。少しだけ、3人が先を行く。夜は追いついて、3人が休む場所の近くに生えている木の上で眠った。


 ヤンが木の上から見守り始めて4日目の朝、エヴァとカレルとペトルは、谷間の里に辿り着いた。村は目覚めたばかり。村外れの井戸へ水汲みに訪れたエルフの女性と目があった。


 女性は、騎士団の制服を見るなり大声を上げた。エヴァは、ちっ、と舌打ちをする。カレルが剣を抜き、ペトルは井戸にいた女性エルフの腕を掴む。


 建物からエルフと人がわらわらと出てきた。弓、槍、剣などで皆武装している。

 たちまち3人は里の者たちに囲まれてしまった。


お読みくださりありがとうございました

続きもよろしくお願いします

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