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勇者のシリーズ

勇者だと思い込んだポラスと、見捨てられなかった魔王アレスのお話

作者: ユミヨシ

とあるド田舎の国、イーナ王国に勇者に選ばれた?少年がいた。

名前をポラスと言う。黒髪のなんの変哲もない田舎の少年だ。

両親はいなくて、近隣の農家の畑の手伝いをしながら、なんとか生きて来た少年である。


というか、このド田舎少年、ポラスは土に刺さっていた錆びた銅の剣を引っこ抜いたので、

自分が勇者と思い込んだとんでもないオッチョコチョイな男であった。

彼がそう思いこむのも無理はない。村民達に、勇者伝説を小さい時からさんざん聞かされ、

勇者たるものは聖剣を手に入れたら、魔王を倒しに行くものだと信じ込んでいたからである。


「聖剣を抜いたからには、俺、魔王を倒す旅に出る。」


錆びた剣を天に翳せば、村人達は皆、おおおおおおっーーー。と感動したふりをして。


「言い伝えの通りだ。勇者が土に刺さった聖剣を抜き、魔王を倒すとは。」

「頑張って来いよ。ポラス。」

「応援しとるぞ。」


村人達の声援を受けて、勇者ポラスは北の村にあると言われている魔王城?へ向かって出発したのであった。

それが、厄介払いとも知らず。




で、こちら魔王アレスゾディアス。襟足まである黒髪の美形の青年である。


強大な魔王が、魔物を率いて人間に悪さをしたのは、30年前を最後に、

今は10の魔国に分かれて、人間の国の地下に存在し、

魔王アレスゾディアスは第10魔国の魔王であった。



第10魔国はこのド田舎のイーナ王国の地下にあるのだが、地下は日当たりが悪いので、

地上に出て、そこの地主さんに頼んで、土地を借り、屋敷を立てて、魔族の使用人と共に平和に暮らしていた。

使用人達は、畑を借りて葡萄畑を作り、ワインを生産して魔王様の為にいそいそと働いている。

魔物を操って人間を討伐するなんてとんでもない。

地下の魔国も狭すぎて、魔物も生息していない平和な国である。


赤ワインを優雅に飲み、ソファでのんびりと夕焼けを楽しんでいると、使用人の一人が慌てた様子で駆け込んできた。


「大変です。アレスゾディアス様。」


「どうした?そんなに慌てて。」


羊のような角を持ち、黒の貴族服を着こなしたアレスゾディアスは、飛び込んで来た使用人をチラリと見つめ。

使用人は慌てまくっていて。


「勇者が討伐に参ります。この屋敷に。」


「なんと勇者が?俺が何をしたというんだ???静かに暮らしているだけではないか。」


「そ、そうなんですが…。如何しましょうか。」


アレスゾディアスは立ち上がると、


「勇者は今、どの辺にいる?」


「シュリンの森の辺りかと…」


「解った。ちょっと出かけてくるぞ。勇者を探すついでに、ガーザスを狩ってくる。」


ガーザスと呼ばれる狼の魔物の鋭い爪と牙は、病の薬として高値で売れる。毛皮も高級毛皮で需要が高い。

魔王自ら、狩に出向き、ガーザスを狩って、生活の足しにしていた。

第10魔国は豊かな国ではない。


人間に化けて、外套を羽織り、剣を腰に下げ、荷物を背に背負う。

水晶玉を手に取ると、呪文を唱える。


ポンと水晶玉を放り投げる。

シュリンの森を念じれば、魔法陣が展開されて、アレスゾディアスはその中に飛び込んで転移した。




それより、2日前、勇者ポラスはシュリンの森の中で迷子になっていた。


「あれ?この場所はさっき、通った気がするんだけど…おかしいな。」


日も暮れてくるし、お腹はすいてくるし、広い国では無いので、魔王城?は北の村にあると聞いていたので、一日もかからない位に着くはずなのだが。

ポラスは泣きたくなった。

森の中は、危険なのだ。

魔物の狼やら、色々と出てきたら、勿論、聖剣???でやっつければいいんだけど…。


錆びた剣を手にポラスは震える。


ワオーーーーン。獣の声が聞こえる。


光る目が、闇の中に浮かび上がる。魔物の狼ガーザスが数匹いるようだ。


ポラスは怖くなって逃げ出した。




ポラスが獣から逃げ出して2日後、

人の姿に化けたアレスゾディアスが森に現れた。


勇者を見つけたら、自分が害を人間に及ぼす事はないと説得し、帰って貰い、

獣のガーザスを探して、狩をしようと森の奥深くへ歩き出した。

アレスは転移魔法が使えるので、迷うことなく安心だった。



森の奥から一人の少年がフラフラと歩いてくる。


「そこの少年、どうしたのか?迷子なのか?」


「うわーーーん。怖かったよう。」


ポラスはアレスゾディアス(以下、長いのでアレスにしよう。)に抱き着く。


アレスはポラスの髪を優しく撫でて。


「大丈夫、大丈夫。俺は道に詳しい。君はどうしてこんな森へ?とりあえず、この森を抜けよう。どこへ行きたいのかね?」


ポラスはアレスの顔を見上げて。


「俺は勇者ポラス。魔王を倒しに、北の村へ行きたいんだ。」


「魔王を?この国の魔王は悪さをしていないし、平和に人と共に暮らしているという事だぞ。っていうか…俺がま…。」


魔王と言おうとした。だが、何故か言えなかった。

この無邪気な少年を怖がらせたくない。そう思えた。


「えええええ?そうなのか?てっきり、魔王は悪い奴だと…村の人達もそう言っていたし。」


「それならば、魔王が住むという北の村の屋敷へ行って確かめたらどうだ?」


「そうですね。有難うございます。そうします。」


「とりあえず、この森を抜けないと…俺の名はアレス。この森へ魔物の狼ガーザスの狩をしに来た。」


「アレスさんですね。よろしくお願いします。」



ポラスと共に日が暮れ始めた森の中を歩く。

魔族は暗闇でも目が効くが、ポラスは真っ暗になると、動けなくなって。


「す、すみませんっ。俺、暗くてどうしたらいいか…」


「仕方がない。おぶってやろう。」


ポラスを背負って真っ暗な森を歩く。

ポラスは礼を言う。


「有難うございます。今日会ったばかりなのに…親切にしてもらって。」


「いや…礼には及ばん。」


アレスは思った。これって…もしかして、ほっといても良かったんじゃ…

自分の北の村の屋敷にたどりつけるとも思えないんだが…

自分は魔王なのだが、勇者?ポラスを背に背負い、森を歩いているのは一体全体…

かえって案内する事になってしまった俺って…自分を呪いたい。


それに見た所、聖剣??いや、なんだかただの錆びた剣を持っているみたいだし…


いや、この可愛い生き物をほっておいたら、何だか気の毒に思った。



森をもうすぐ抜けそうである。


背のポラスに声をかける。


「もうすぐ、森を抜けるぞ。」


ポラスは、嬉しそうに。


「有難う…。でも、俺…ここから出られないや。こういう風に貴方に出会いたかったな。

魔王様。本当に有難う…。俺、貴方を倒そうだなんて、間違っていたんだね。」


フっと背が軽くなった。


背にいたポラスは消えてしまった。





ああ、そうだ…。思い出した。


本当は違う…。


勇者を見つけたら、自分が害を人間に及ぼす事はないと説得し、帰って貰い、

勇者を探しながら、魔物の狼ガーザスを探して、狩をしようと森の奥深くへ歩き出した。

そこで、森で迷っているポラスに出会ったはずなのだが…


そこで、見つけたのが、食い散らかされた骨である。

錆びた剣が転がっていて、しかしこういう光景は珍しい光景ではない。


ガーザスを目的に分け入って、逆に殺されてしまう人間だっているのだ。


「ガーザスが近くにいるのか?」


辺りを警戒する。視線を食い散らかされた骨に戻せば、骨は消えて、そこに黒いフードを被った骸骨の死霊が座り込んでいた。


死霊に話しかける。


「お前が見せた夢だったのか?ポラス。」


「魔王様…。親切にしてくれて有難う。とても嬉しかった。俺、死んでいるんだね…

魔物に殺されて。」


「勇者の魂は強い…。だから、こうして死霊で存在出来るんだろう。

もし、お前が望むなら、森から出してやろう。俺の屋敷へ来ないか?

俺が悪い魔王か自らの目で確かめるんだろう?」


アレスが近づいて、死霊のポラスに優しく話せば、ポラスは悲し気に、


「悪い魔王じゃないよ。優しいもん。アレス…。生きていたかったな。

俺、勇者じゃないよ。こんな弱い勇者なんていないし。」


「ポラスは鍛えれば、勇者になる魂を持っている。さぁ…こんな所にいないで、

俺と一緒に森を出よう。」


手を差し出せば、ポラスはおずおずと骨である手でその手を握り締めて。


ポラスを背負って、アレスは歩き出す。

今度こそ本当にこの森を出る為に。


って…魔法陣展開すればいいんじゃ…俺は…いや…


ポラスに取って、この森を出る事に意味があるのだ。

魔法陣を使ってしまっては、ポラスが森を出る事を認識できない。


「ほら…もうすぐで、森を出るぞ。」


「ああ…出られるんだね。有難う。アレス…」



森を抜ければ、午後の日差しが降り注いでいる草原で。


「綺麗な草原だろう?もうすぐ秋になるな…」


「ああ…とても綺麗だ。」


「とりあえず、俺の屋敷に行こう。これからの事はそこで考えよう。」


魔法陣を展開して、ポラスを自分の屋敷に連れて行った。


そう、この可愛い生き物をほってはおけない。例え死霊になっても。



この後、アレスはポラスを連れて、北へ旅に出て、

マディニア王国の聖剣お使い男、じゃなかった、ディオン皇太子殿下の所で、ポラスは本物の聖剣を得て、死霊の身でありながら、真の勇者を目指すのだが、それは別の話である。


本当にポラスは可愛い。マジでこの可愛い生き物をほっておけないんだな…。困ったものだ。


アレスは事の成り行き上、健気にも、ポラスにずっと付き添い、面倒を見て、

その後も彼の力になり続けたという。



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