ケニー商会から資金調達
ベント商会の窓口はケニーという少年だ。
ケニーはギルドマスターの息子。エリーの従兄弟にあたる。
「待ってたよ。エリー。随分遅かったじゃないか?まさか、一晩中ダンジョンにこもってたとか?」
「ごめん。ごめん。世紀の大発見したのよ。私、薬草の栽培に成功したかもしれない!」
「ちょっと、待って」
ケニーは廊下に誰もいない事を確認してドアの鍵をかけた。
(この少年だけはまともだ。聡明さが同じ血筋とは思えん)
黒猫は素直な感想を持った。
『エリー。この少年に薬草販売を委託しろ。ギルドの資金調達はあっという間に稼げるぞ。利率は半分で良い。薄利多売も必要ない』
「利率?薄利多売?」
エリーの口から漏れた言葉にケニーが反応した。
ケニーという少年がこちらを意味深に見ている。
「エリー。その黒猫どうしたの」
「うん。最近、ちょっとね」
「猫が利率とか薄利多売なんて知ってる訳無いもんね」
「そうよ。この猫、ちょいお馬鹿さんで調子乗ってるのよ」
『お馬鹿なのはおぬしの方だぞ。色々バレたみたいだ』
少し驚いた表情をしたが、さすがは商人。動揺を見せず商談を始めた。
「では黒猫くん。初めまして。ケニーです。あなたのお話を聞きましょう」
『栽培法を知っているのは今のところエリーだけだ。現在、薬師の裏の畑で栽培している。栽培法は貴様にも教える。好きにすると言い。我々の目的は、ギルドの資金調達がメイン。それに武器等が流通してギルドが栄える事だ』
エリーに通訳してもらい、話を聞いたケニーは大きく肯くと話始めた。
「ギルドに協力は惜しまないよ。だって父上が責任者だからね。僕の夢は自分の商会を持って国中を相手に商売する事だよ。ケニー商会の支店を国中、いや大陸中に開いて大商会にしたいんだ。君の言ってたのは利益と販売価格についてだね?」
『大量生産して安値で市場を独占したら目立つし良い事はない。貴様ならうまく立ち回れると思ったのだ。薬師もエリーもお金儲けに興味があるのではなくギルドや冒険者に還元したいだけなんだ。貴殿ならその気持ちを受け入れてくれる筈だ』
「ああ。もとよりそのつもりだよ。僕もギルド長の父上の力になりたいし、大金だけを目的にしていない。商人のプライドにかけて誓うよ。うまく立ち回れるかはやってみないとわからないが、任せてくれるなら計画を立ててみるよ」
「大丈夫!ケニーならできる!うん。任せたからね」
エリーは凄く調子良い。一番心配なのはエリーなんだが。
「エリー。僕は頑張ってみるよ。エリーはいつも冒険者の味方だしね。有望な武器職人も町に連れて来るから剣の素材とか沢山集めてね。この領地が平穏なままで冒険者が集う街になればいいね」
(この少年は領主の娘より領地の事を考えているぞ。これで良いのか?本当に良いのか領主の娘)
「念願のギルドの繁栄が見えて来たわ!やったね。領地は父上や兄上が頑張っているからまず大丈夫よ。うん」
後日、ケニーは雑貨屋や冒険者相手の小売店、問屋に契約を交わし「ケニー商会」を立ち上げた。
そして薬師や武器職人を他の町から連れて来てケニー商会直営の薬工房と武器工房を作った。
そしてポーションの売価を下げず、卸し価格を若干安くした事でケニー商会の評判は上々。
ケニー商会の利益の多くがギルドに流れる事となった。
今日も機嫌が良いギルドマスターがエリーを褒め称える。
「おー愛しのエリー。最近ますます、綺麗になったな。孝行息子のお陰で高い素材も買い取れるし、なんでも出来る。ポーションだって我がギルドのみ特別料金だぞ」
(優秀なケニーよりもエリーの血筋を感じさせる言葉だなぁ。実際、この二人って凄く気が合ってるし)
「ケニーは優秀ね。それで魔石の買取金額を倍にしてはどうかしら?冒険者がこの町に戻ってくるかもしれないし」
「いや〜。倍の金額にすると他の領地のマスターから苦情が出るよ。せめて1,5倍位でいいんじゃないかな」
魔石が1個100Gから150Gになった。
ちょっとの進歩だけど、150Gは飴玉の金額じゃない事は確かだ。
それよりも魔石の買取価格が他のギルドより高い。ケニーが良い武器屋を作ってくれた。これから冒険者が集うかもしれない。ギルドの発展に大きな手応えを感じるエリーだった。