薬師 ポーション作りのお手伝い
エリーはギルド内の自分の部屋に向かった。
「状況を整理したいの」
エリーは突然振り返り際、黒猫に語りかけた。
「ダンジョンでの黒ちゃんのアドバイスは実に的確だった。あなたなら相談相手になりそうだし」
エリーの話では今の現状で憂いているのは『冒険者不足』『ギルドの資金不足』らしい。
魔物討伐はダンジョンに潜れば幾らでもできるが、魔石や魔物のドロップ素材に支払うお金がギルドにはないという。
他のギルドでは素材を武器屋に流通させ資金を得ているが、この町は冒険者が少ないため、武器の需要が無いとの事。
『まずはギルドの資金を集める方が先だな』
黒猫がエリーの相談に乗る。
「やっぱりそうだよね」
『魔石が低料金なのは根本的な問題だが、先立つ資金がないと高値の取引が出来ん』
猫の癖に言う事が世を見据えた様な言い分だ。
「黒ちゃん。ちょっと龍でも倒して来て。大金が入るのよ。お願い」
『はあ、猫がどうやって龍を倒すんだ。魔物さえ狩れないのに!』
(チッ。使えないわ。治癒魔法が使えるくらいだから、魔王か何かに変身して闇魔法とかでチャチャって龍を倒せると思ったのに)
エリーは自分の都合の良い事ばっかり考えていた。
(この娘すごくブラックだ。悪魔よりも腹黒い。注意しなくては)
「ふふふ」『あははは』
似た者同士が笑って誤魔化す。
「まあ龍だもんね。それもそうね。猫って弱いのね。コツコツ稼ぐしかないかな。とりあえず、薬師のおばあちゃんのトコに行って営業よ」
薬師のエレナ婆さんは主に回復液ポーションの販売で生計を立てている。エレナ婆さんのポーションは冒険者に人気で体力回復以外にスタミナも微量回復するらしい。冒険者の間では「優しいポーション」と言われていて他領からも買い付けに来るらしい。
「エリー。よく来てくれたね。いつもありがとさん。またいつもの様に樽に水を満たしておくれ」
エリーは言われるままに得意の水魔法で樽に水を注ぐ。エレナ婆さんのポーションはエリーの水が主成分だった。
「エリーの水は優しいんだ。清らかで澄んでいて。ポーションの材料には最適だよ」
「そ、そんな。私が清らかで心が澄んでいて、清純な乙女なんて。ちょっとだけ自覚しているけど」
『おぬし、聞き違いも甚だしいぞ。心が澄んでおるなんて一言も言ってないであろう』
エリーは何食わぬ顔で黒猫に水魔法を放った。
「エリー。そのネコはなんだい?禍々しいものを感じる。どうか私に近づけないでおくれ」
「って訳でアナタ、退場ネ。しっしっ」
(やっぱり、四足が白いってのは演技悪いのか?このおばあさんの言う事は妙に信頼できる。ここはひとまず退散だな)
「のう。エリー。あの猫はドアを閉めて出て行きおった。不思議な猫だ」
「おばあちゃん。それは私の躾がいいからよ」
(あの猫め。妙なところが人間臭いんだから。人間の習慣は知らずに出ちゃうものだし、人間が生まれ変わったと言うのも本当だったのね)
「私ね。おばあちゃんのポーションをもっともっと広めたい。ギルドの力不足で薬草が集まらなくて申し訳ないんだけど、私頑張るから」
「ああ。頑張っておくれ。私の薬でひとりでも多くの人を救いたいものだからね」
薬師のエレナ婆さんの家を出てエリーは独り呟く。
(あーあ 。薬草栽培出来ないかなぁあ。薬草が量産出来れば色々解決できるのになぁ)
『薬草を作ることなら出来るぞと思うゾ!ナニ簡単な事だ』
黒猫はおばあさんの部屋から出て来たエリーと合流し、エリーに話かけた。
「ぷぷっ。何も知らないのね。今まで誰一人として薬草栽培に成功出来た人いないんだから!」
「薬草は魔の植物の一種。ならば魔の栄養を与えれば簡単に育つだろう。魔物の死体や魔石を養分にしているんではないのか」
不意に立ち止まり、呆気にとられた表情で黒ネコを見つめるエリー。
「黒スケ!グッジョブ。早速試してみよう」
(呼び名が黒スケになったな。それに妙な単語を思い出したな)
エリーは早速、実験に移った。エレナ婆さんの孫のリンちゃんに畑まで案内してもらい、暇人なチビ・デブ・ガリを呼び出す。
散々文句言っていた少年たちもリンちゃんに会った瞬間に態度が変わった。
デブのテルは、リンが持って来た焼き芋に夢中にがっついている。チビのタンは鼻の下を伸ばしてリンちゃんとお喋りに夢中。ガリのウィルはリンちゃんの胸ばかり見てるじゃないか!
胸の小さなエリーがダークサイドに引かれていく。
(そんなに大きな胸がいいのか?この3人にはあとでお仕置きが必要だね)
『おぬし、心が澄んでる乙女ではなかったのか?心が真っ黒だぞ』
エリーは余計な事を言うネコだと思いながら
「さあさあ、始めるよ!」
まずは畑を焼いて除草する。
「焼き払え!巨人兵」
巨人兵ってなんだよと言いながら火の属性を持つウィルが畑にファイアウォールをかける。
次に土属性の魔法で土を耕し、風魔法で土に空気を送り込む。
「すごい。すごい。あっという間に畑が出来ちゃった」
薬屋の孫の凛ちゃんが拍手喝采する。
少年たちを誉めるこの娘、策士だなと黒い考えをするエリーだったが、魔石を植え付けその魔石を黒ネコが踏む度に魔石が液状化して地面に染み込んで行く。これで薬草栽培の畑は出来上がった。種を撒き数週間で薬草が育つ筈だ。
夕暮れに染まる畑を見ながら感慨にふける少年少女たちだった。
「あー。ベント商会に行くの忘れてた」