「今はもう気にしてないのよ。」
「今はもう気にしてないのよ。」
彼女は夫である彼に言った。
すでに時計の針は夜の2時を指し、
11月の中旬だからだろうか、肌に刺さるような寒い夜だった。
「あなたと初めて会ったとき、運命だと思ったわ。
よく言うでしょ、初恋は体に電流が流れるって。
私がそうだったの、初恋でもあったのよ。
あなたと結婚できて心の底から幸せだと思ったの。
だから、あの時は本当に傷ついたわ。
あなたが知らない女と一緒にいて・・・路上でキスなんてして・・・。
誤解しないで、あなたを責めたいわけじゃないのよ。
私にも至らないところがあったと思うの。
だから、あなたがあの女とキスをしたことを責めたいわけじゃないし、
ホテルから出てきたことも怒ってないわ。本当よ。
私が積極的に夫婦の営みをすれば良かったのよね。
あなたは酒癖が悪くて、いつも酔って私を殴ったり、蹴ったり・・・。
そのあとで謝って・・・でも、お酒を辞めるつもりはなくて・・・。
そんな日は枕を涙で濡らしたの、知らなかったでしょ。
しかたないわよね。
あなたって私の気持ち、少しも理解しようとしなかったもの。
私の考えてること、感じてること、やろうとしてること・・・何一つ。
本当に・・・・・・馬鹿な男。」
彼女はそう言うと、右手で彼の顔を優しくなでた。
彼女の手に、彼の体温は感じられなかった。
「今はもう気にしてないのよ。」