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4話・生徒会副会長・柴崎彩乃

「ここにいらしたの久遠君。あら、雪村さんも一緒にいたのね」


 そこに、セーラー服を着た黒髪ロングの姫カットの少女が現れた。

 その少女の名前は柴崎彩乃しばさきあやの

 蹴栄学園の副会長でもあり、俺の好きな女だ。

 清楚でスタイルにいい完璧美少女でもある。


(何か嫌なタイミングで来たな柴崎さんは。いつもは生徒会室で食事するはずなのに、何で今日は……)


「お邪魔……だったかしら久遠君? 雪村さん?」


「いや、そんな事はないさ。たまたま今日は美波と食べたかっただけ。入院中の食事は一人だったし、美波のクラッシャーの誤解の件もあるし……」


 と、俺は入院中も一人で食べてたとか、よくわからない適当な理由を言ったりした。ツナパンの最後の一口を食べた美波は、


「久遠君の言う通り、久遠君は私に付いたクラッシャーという渾名をどうしようか? という話をしてただけです。なので、私達の関係は今回の出来事が沈静化すれば解消すると思われます」


「あら、そうなの? でも今回の件はかなり広まってしまっているから生徒会にもクラッシャーの件は問題視されてましてね。当人がそう言うなら、強制的に沈静化させましょうか?」


 ニッコリと微笑む柴崎さんに、美波もニッコリと微笑んで返した。


「いえ、生徒会の力を借りたらハッキリ言ってかなり問題になります。不自然な沈静化は逆効果なのでお断りします」


「美波、ここは柴崎さんの意見を聞いてもいいんじゃないか? やはり生徒会の力は偉大で……」


「生徒会の力が偉大でも、偉大で無くても私は反対します。この問題は時間的解決を待つしかないのです。事故とはいえ、数年後には数億円プレーヤーの可能性がある、ユース代表選手に対してのクラッシャー行為ですから」


 やけに冷静な美波はパッチリした目を見開いたまま柴崎さんに言う。一度も俺に振り向きもせず、女王のように自慢のサイドポニーを後ろに跳ね上げた。やや目を細め、口元が俺が気付かないレベルで微かに歪んだ柴崎さんは、


「あら、そうでしたか。ならその件は生徒会はノータッチで行きますので、もし何かあればまた報告お願いします。最近、特にユース代表の期待の星の久遠君には変な虫……がつく可能性があって、生徒会でも監視してる事もあるのです」


「え? そうなの柴崎さん? だから俺の方によく来るわけ?」


「それは違いますわよ久遠君。私は久遠君の優秀なプレーヤーとして認め、お慕いしていますから久遠君の近くにいたいのです。お金目当てで近付く女とは違いますわ」


 わざわざ俺の近くに寄って柴崎さんは微笑んでくれた。父親が確か銀行の社長だから金には困ってないし、やはり柴崎さんは清楚でおしとやかだ。


「とにかく、クラッシャーの件は俺も対処するし、柴崎さんも対処してくれる。これで問題はないだろ?」


『……』


 何かピリピリしてんな美波の奴。

 それに柴崎さんも副会長オーラ出しすぎだよ。

 なんなんだこの二人の間にあるピリピリ感は……?


「お昼、久遠君といいですよ副会長。私はもう食べ終えたので、食後の散歩に出かけます」


 スタスタと美波と柴崎さんはニッコリと微笑んですれ違った。美波がいなくなったので、俺は柴崎さんと昼飯を食べる事になった。柴崎さんは女の子らしい弁当箱に、魚や野菜などがバランスよく揃っていて栄養価の高い弁当だ。


(美波の奴、明らかに柴崎さんを避けたな。確かに美波と柴崎さんは合いそうにもないか。それに久遠君、久遠君って他人行儀過ぎだろ……いや、別に彼女ではないし、友達……でもないのか? けど……)


 清楚でおしとやかな柴崎さんの事は好きだったが、今の俺はあまり関心が無くなっていた。関心が無くなっていると言うよりも、美波の事が気になっているだけだろう。あの女は摩訶不思議過ぎる女だ。


(理解不能で、予測不能のファンタジスタ。サッカーなら俺と同じ10番タイプだな。まぁ、美波は自分勝手な10番タイプで、俺はチームを活かす10番タイプだ……って何を考えてるんだ俺は?)


 そして、食欲も回復したのか俺は昼飯も柴崎さんと会話しながら食べていた。

 けど、パンの味も会話の内容も覚えていなかった事すら俺はこの時気付いていなかった。





 翌日になり、蹴栄学園に登校し校門を進んで行くと下駄箱で誰かが転んでいた。

 どこかで見た事のあるサイドポニーの女だ。

 間違いなく、あの女しかいない。


「大丈夫か美波? 貧血か? しっかりしろよ」


「大丈夫よ。つまづいただけ」


「ここは転びそうな物も無いのに転ぶなんて、アホだなお前。素晴らしくアホだ。アホのファンタジスタだ」


「ウルサイわよ」


 少し睨まれて俺は美波の後を見送る。

 昼休みになり、また一人であろう美波の元へ向かう。

 やはり中庭のベンチで一人で食事していた。


「何だお前、一人飯か?」


「また来たの? ファンの子達といた方がいいでしょうに」


「息抜きだよ。息抜き。美波が一人なのは俺の責任でもあるからな」


「息を抜く場所を考えて欲しいものだわ」


 まだクラッシャー事件の被害者は俺じゃなくて、美波という誤解が解けてないから一人には出来ない。

嫌われても、いや嫌われたくはないが……とりあえず俺が出来る範囲で協力はしないとならない。やはり、まだまだ女子達は美波を受け入れる様子は無い様だ。何か大きな権力さえ動いている感じがする。


「サッカーユース代表のイケメン君をクラッシャーした女じゃ、中々受け入れ先も無くてね」


「あの女共め。そんなめんどくせー事してんなら、俺がもっとハッキリ言っとくか?」


「あの女共って、あの子等は君のファンでしょ? とりあえず当分はこんな感じでしょ。しゃーない、しゃーないだよ」


「でもな……」


 その美しい横顔に見とれてしまう。

 何故かこの女と居ると楽だ。

 言葉もスラスラ出てくるし楽。

 その女に見とれる俺は女の言葉で我に返る。


「まぁ、来てくれて助かったよ」


 コーンツナパンをむしゃり、むしゃりと食べている。


「美波よ、もっとまともなモノを食べろよ。成長期は野菜なども必要だ。お前野菜嫌いなタイプだろ?」


「好きでーす。ジャン!」


「……野菜ジュースは野菜じゃないぞ。その理由はだな……」


「話が長くなるからいいよ。とりあえず飲んどこ」


「あ、うん。……美味い」


「よく出来ました」


「あ、ありがとうございます……って、間接キスじゃねーかよ!」


「あら、間接キス程度で赤を赤らめるなんて照れ屋さんねぇ君は?」


 何かもうイライラするから心をフラットにする事にした。

 マインドを整えるって事だ。


「まぁ、今のはQSKだから仕方ないよ」


「QSK? 何だその遊園地みたいな名前は?」


「QSKは急に、ストローが、来たから。って意味ね」


「いちいち変な言葉にするな。そんなんプレー中じゃ理解出来んよ」


「やはり君は私といるより、ファンの子に囲まれてた方がいいんでない?」


「あの女達は俺のファンだけど友達じゃない。友達は美波だけだと思う」


「……照れ屋な癖に、言う時は言うねぇ色男!」


「コラ! つつくな!」


 何だこの感覚は?

 ファンのかわいい子に囲まれていた時とは違う感覚……やっぱり俺は美波といると――。

 確実に美波に惹かれている自分自身を感じ始めていた。


 そのモヤモヤをかき消すように俺はサッカーに打ち込む事にする。

 俺の夢はプロサッカー選手で、女にうつつを抜かしてる場合じゃないからな。

 しかし、美波に対する悪意の包囲網はかなり複雑な網という事にまだ気付いていなかった。

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