39話・デートを重ねる京也と美波
夏が終わり、秋が過ぎた――。
まだ俺は生きている。
学園にも通っていた。
そして、美波のクラッシャー問題も蹴栄学園ではその話は過去のものになっていた。
柴崎さんとも普通に会話するようになっているけど、やはりまだ俺を狙ってるようだ。
体力も大きく減ってはいない。
美波とのデートの日々も楽しかった。公園デートも水族館デートも、遊園地デートも全て強く記憶に残っている。美波も色々とオシャレをしてくれて、俺は色々な美波を知る事が出来た。
学校では文化祭で勇者の役をやった。何故かクラス合同企画になり、他のクラスである柴崎さんのクラスとの演劇だった。それも異世界転生した勇者がチートとハーレムで活躍する話だ。その名も、「異世界ハーレムキングと百人の美少女!」
俺が何故、勇者という主人公が今の体力で出来たかと言えば、単純に剣を振るえば一撃で敵は倒れ、女がいればみんな惚れてしまう設定だから、そこまで大量にセリフも無くて動く事も無いからだった。そんな過去の話を、写真を見ながら美波の部屋で話していた。
「にしても、この勇者というのはやけにヒラヒラしたステージに上がるミュージシャンみたいな格好なんだな。後で調べたが、勇者って意外と軽装でムダにキラキラもしてなかったぞ?」
「そりゃそうでしょ。元は私とシバちゃんの考案ですから」
「え? お前達つるんでたの? しかもいつの間にか柴崎さんがシバちゃんに……」
「劇をやるって決まってから服装を相談されて、その後も仕方なく話していたらいつの間にかね。特に、予備校で仲良くなったのよ。
「そうなんだ。やっぱり仲良くなれたか」
「やっぱりとか言う予言怖っ! でも、どうせ劇をやるならやっぱ人を集めないと意味が無いからね。とりあえずサッカーやってて代表クラスだったし、知名度は高いからそれを利用させてもらったの。嫌だった?」
「嫌じゃないさ。どうせ劇をやるなら客がゼロなんて最悪だし、満員の方が盛り上がるからな。サッカーも同じだ。でも、俺が代表まで行ったとは言えサッカーをしてただけで、あそこまで人が集まるとは思わなかったよ。体育館から人が溢れてたもんな。舞台上から見ててチョット引いたし」
「だから棒読みだったのね。サッカー以外はダメだね」
「いや関係ねーし。普通に棒読みは俺の持ち味。みんな勇者は棒読みで良いって言ってたし」
「勇者は出てきて敵倒して、女の子にキャーキャー言われてだいたい終わるからね。他の男子は色んな役をこなして必死なのに、勇者に全て持っていかれてある意味可愛そうだった」
「それは俺に言われても困るな。異世界転生ものにした人間に言わないと」
「だそうよシバちゃん」
と、美波はスマホをかざしていた。
「美波……そのスマホ柴崎さんと繋がってるのか?」
「いやー驚いてるよ京也君。凄まじく驚いているね。シバちゃん御感想をどうぞ!」
「久遠君こんにちは」
「……おい美波。お前も柴崎さんのモノマネ棒読みじゃんかよ!」
通話状態でもない美波のスマホを奪おうと俺は手を伸ばす。すると、美波はわき腹をくすぐって来たので耐えきれずにじゃれ合ってしまう。そのまま俺は美波に馬乗りになってしまった。
『……』
さっきまでじゃれ合っていた二人が真面目な目つきになり、俺達はそのままキスをした。
そして、落ち着いた所でこの先の予定をまず美波から話した。
「とりあえず来月はマウスーランドにまた行きたい。絶叫マシーンは無理でも観覧車とかゆったり系なら大丈夫でしょ?」
「お前……病人に容赦ないな」
「最後の最後までは、病人とは認めないから」
強い眼差しだ。この女を好きになって本当に良かったと思う。
「それに、京也君は美波病なんでしょ?なら行くしかないよ」
「そうだな。俺は美波病だ。だから行くよ」
「そもそも美波病ってシラフで考えたの? それともあの時のノリで出た言葉?」
「え? あれ? なんかトイレに行きたいから戻って来たら言うよ」
「逃げるな」
「あう!」
こんなくだらない日々をもっと送りたいと思ってしまう俺は不意に涙が溢れてしまった。しかし、これは美波には見せられない。おそらく美波は受け入れてくれるだろうけど、なるたけ暗くなる事は避けないとならないと俺は思っている。
ワザとらしくクシャミをして、ティシュを取ろうとする。すると、無言で美波はティシュ箱を差し出して来て俺は鼻をかむ前に涙を拭う。今度は俺の今後の予定の番だ。
「美波……俺は年末にまた検査入院するんだ。だからクリスマスに大晦日や初詣は会えるか……」
おそらくこれが最後の検査入院になる。
時期的にも年が明ければ体力の衰えは目立つだろう。
ここで完治に向かってないと検査入院じゃなくて骨髄移植などにもなる。
そうなれば、俺は家族も友達も……美波ともお別れだ。
ってダメだな俺は。また暗くなろうとしてる。早く明るくしないと――。
「会えるよ。病院で会えばいい。私は会うからね」
ハハッ……やっぱ美波には勝てないわ。
この女は俺の全てを変えてしまった。
サッカーしかなかった俺が、当たり前の日常を楽しめるようになった。
サッカーユース代表という肩書きも気にせず、ただの男として接してくれた。
感謝してもしきれないよ……この美波には。
「……そうだな。会えるよ。来年も会える。俺達は会えるんだ」
込み上げる過去の思い出が俺の中でフラッシュバックし、抱き締める美波の肉体が意識の闇から俺を解放した。




