13話・人生の岐路へのカウントダウン
柴崎副会長の校内転落事件以降、美波への嫌がらせ行動は無くなったが、相変わらず美波は周囲から孤立していた。クラッシャーという渾名も忘れられて来てはいるが、まだまだ誰もが普通に接していないようだ。
一応、昔の友達などは話しかけるようになっては来ているようだが、一度壊れたモノは中々直るのも困難なようだ。
校舎から転落した柴崎さんは、落ちた場所が花壇の土だったので特に大きなケガも無く、一週間ほど休んでからまた登校し出した。
柴崎副会長とグルだった三石も俺を避けるようになっており、部活中の戦術確認などサッカーの事しか話さなくなっていた。人に言葉をぶつける事が、あんな結果を生んでしまってしまい怖くなってしまったんだ。そして、美波のイジメの件も表面上は落ち着いていたから、ハッキリ言ってもう三石に問い詰めるような事はしたく無かった。
自殺未遂を起こされた恐怖が俺の首を締め続けているからだ。
あれからずっと、幻覚の柴崎副会長が恨みが募る顔で俺の首を締め続けている――。
その件も有り、あまり美波との会話も弾まないので、俺はサッカーに集中して取り組むようになっていた。
サッカーでも仲良くなるキッカケを作れず、まだ三石とは上手く行っていない。それに、俺のプレイもレベルが低下していて最近ミスが目立って来ていた。判断力、集中力、体力--あらゆるものが急激に低下しているのを感じる。
サッカー部全体も雰囲気が暗く、このままだと全国大会の優勝どころか予選敗退レベルだ。予選なら俺や三石がいなくても問題無くいけるだろうが、夏は代表で三石はおらず代表落選の俺は、身体の不調でコンデションが上がらない。
「最近久遠キャプテンやばくね? トラップもシュートも下手過ぎ」
「確かにな。あれでユース代表なら、俺達全員ユース代表じゃん! 日本代表でモテモテでーす!」
「じゃあ、あのかわいいファンの女の子達は俺達にも来るよな! キャプテンもこのままじゃマジでスタメン落ちだよ。俺達一年のチャンス!」
そう、一年は影で言ってるが、三年生の連中は聞こえるように言ってくる奴もいる。
それは当たり前だろう。
上級生は去年から俺や三石にポジションを奪われてベンチにいる。
そしてベンチ外の人もいる。
この屈辱はあの人達にしかわからない。
三石も俺の調子を察してか、声をかけて来た。
「ドンマイ、ドンマイですキャプテン。シュートは打たなきゃ始まらない。シュートで終わるのはいい事です」
「あぁ、次は決めるさ」
相変わらず三石は偽善者のように振舞って来る。
コイツのこういう所が昔から好きじゃない。
あんな事をしていた後に、よく俺をフォローするような事を言える。
この部の連中も三石の手駒になってる可能性も大有りだ。
そして、部活が終わり俺は個人練習をする事にした。そこにスポーツドリンクを渡して来る三石も現れる。そのスポーツドリンクを飲みながらフリーキックの練習をしようとボールをセットした。
練習が終わってから話すと、三石に何か余計な事を言いそうで怖くもあった。
その三石は耳が隠れる髪を両方共後ろに流して、
「今日も調子悪いですねキャプテン。最近、キャプテンはパス受ける前の反応が遅いんですよ。だからトラップミスが起こる。パス受ける準備してないなら誰もパス渡せませんよ?」
「わかってるよ。暑さで食欲落ちてるから、夏の始まりは一時的に体調崩す。それはお前も昔からのチームメイトなら知ってるだろ三石?」
「キャプテンが体調悪いのは病気のせいでしょう?」
「何だと? 俺はこの前の精密検査でも何も引っかかってないぞ? お前、何を知ってるんだ?」
そろそろ俺もイライラして来た。
せめて柴崎副会長が退院するまでは三石とも話したくないと思っていたが、このままだと柴崎副会長とグルという事を話してしまいそうだ。そんな俺の葛藤すら知らない三石は続ける。
「どう見てもこの調子の悪さはおかしいでしょう? 俺は昔からキャプテンの側にいた。側にいた俺がアンタの体調の変化に気が付かないはずもない」
「俺は熱でも風邪でも一度も試合を休まずピッチに立っていた。そんな事も知らないお前が何を言うんだ?」
「いや知ってますよ全部。俺にスタメンを取られるのが怖いから熱でも風邪でも休まなかった事をね」
一瞬、やけに三石が別人に見えた。
真っ黒な仮面をした鬼に見えた。
その鬼に俺はとうとうキレてしまう。
「じゃあお前がキャプテンやれよ? この俺様の控えから十年以上抜け出せないお前がな!」
「キャプテン……」
唖然とした顔で鬼は俺を見ていた。
やっぱりお前はただの控えなんだ。
俺の控えでしかない。
……わからないようならもっと言ってやるさ。
「何だ? 本当の事だろ? ずっとお前は代表で俺の控えだった。いつも俺の後をついて回り、Jリーグの下部組織より高校サッカーを選んだ俺にくっついてくる。どこでも俺の控えなら、俺に近いキャプテンが出来るだろうよ。俺の劣化コピーの、三石君……」
「キャプテン」
「だから何……! ぐはぁ!」
三石のかなり重い拳を、顔面に入れられた。
おいおいマジかよ……鼻から血が出てるよ?
この野郎……まさか俺を殴るなんて!
いい加減キレた。
マジでキレた!
「テメー三石! 俺の劣化コピーは、劣化コピーらしくしてろクソがぁ!」
「俺はアンタを超えてやるよ! アンタとは違う場所で越えるつもりなんだよ! 好きな女がいるなら意地見せてみろよキャプテン!」
「キャプテン、キャプテンうるせーんだよ!」
俺も三石をブン殴る。
互いに殴り合いになり、他の部員が気付いて止めに入る。
俺達の殴り合いは生徒会長にまで届いてしまい、生徒会室に呼び出しを受けた。
俺も三石も顔に絆創膏などを貼っていて不機嫌なツラで生徒会長の前にいた。
王子の笑みをする栗毛の生徒会長の話を俺達は聞いていた。
「……というのが今回の殴り合いの真相でいいね二人共?」
『はい』
「よし。今回の件はここだけで終わらせる。校長やサッカー部の監督にも話してある。だが、謹慎処分として君達は三日間自宅待機してもらうよ。今はサッカーの全国大会予選の大事な時だろう? 部の中心である君達がケンカしててどうするんだい? ユース代表の君達にはマスコミの目もあるんだ。プロになりたいならもっと自覚ある行動を頼むよ」
『はい。申し訳ありませんでした』
一礼する俺達には三日間の謹慎処分が下る。そして、三石は先に生徒会室を出た。その後を追うように生徒会室を出ようとすると、今日は転ばない王子に呼び止められる。
「そうそう、久遠君。この休み期間に僕の父から話があるようだ。三日間で空いてる日に親御さんと共に聖白蘭病院に来てくれ。いいね?」
「生徒会長の父親……聖白蘭病院の医院長が? わかりました。両親の都合を帰ってから聞いて、こちらから伺う日を連絡します」
そして、暴力沙汰で謹慎処分を受けた俺は美波にこの件は報告しなかった。
こんな件を報告する勇気も無かった。
この三日後、俺は聖白蘭総合病院にて人生の岐路に立たされる事になる。
終わりの始まりが訪れたんだ。




