パンでミックス
ある日、ウィルスのパンデミックが発生した。感染者はゾンビ化し、人の肉を求め、人を襲っていた。パンデミックは政府の尽力により、一つの市、T市だけで収まった。T市は有刺鉄線に囲まれ、ゾンビと生存者は共に隔離されていた……
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パンデミックから数週間後。
ある男はひたすら奴らから逃げていた。もう三日間何も食べていない。飢えと恐怖が彼の行動を支配していた。
仲間は皆、いなくなってしまった。皆、奴らに殺されてしまったのだ。自分ももいずれ、奴らに見つかりそして、殺されるのだろう。と彼は頭の中で考えていた。
怖い……死にたくない……
お腹が空いた……誰か食料を……
彼はひたすら頭の中でその言葉を繰り返していた。死にたくないという本能と、食事をしたいという本能が争った結果、死にたくないという本能が勝り、彼は隠れ家にこもっていた。
しかし、
12月11日、彼はなぜか突然決心した。自殺する事を。
重く動きにくい足を、引きずるように彼は歩き始めた。隠れ家の近くに十階建てのビルがあることを思い出し、彼は飛び降り自殺をする事にした。
隠れ家から出ると、町は廃墟と化していた。辺りは昼位で明るく、すこし眩しい……周辺に奴らはいないようだった。
一歩一歩ゆっくりと足を動かした。お腹が空いていて、なかなか力が出ない。
ビルに着き、緩慢としかし、警戒しながら慎重にビルの奥へと進んだ。すると、更に奥に食料があることに気がついた。
彼は跳び跳ねるように喜び食料の所に行こうとした。死のうと思っていたのに。
しかし、同時に彼は奴らも見つけてしまった。奴らもこちらに気がついたらしく、何か叫んでいる。
まずい…
彼にとって究極の選択だった。お腹を満たしたいという本能を選ぶか、逃げたいという理性を選ぶか。彼は本能と理性の狭間に挟まってしまったのだ。
結果、彼は理性を選択した。彼は後を振り返り逃げ始めた。
奴らに殺される……
無我夢中で逃げる彼。
しかし……
刹那、奴らの撃った銃弾が彼の頭と心臓を撃ち抜いた。直後、彼は倒れた。
彼は倒れながら思った。
最後に、人の肉を食べたかった。
と……
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12月11日 T市で発生したパンデミックは最後のゾンビが射殺され、事件は無事解決したのだった。