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私の嘘……ではない?

作者: Noel

初投稿です。

不備があったらコメント欄にてお伝え頂けると嬉しいです。

4月1日。新しい月。エイプリルフール。

朝ご飯を食べながらぼんやりと考える。

嘘をついてもいい日。

折角だから誰かを驚かせたいなぁ。

私は周りを見る。

アイスブルーの瞳が冷たい印象を与える妹。

同じ色の瞳の、眉の間にしわを寄せる父。

ただ1人にこにこと、可愛らしくーー歳は随分いってるのにもかかわらず、この人には可愛いという言葉がぴったりだーー笑う母。

妹と父は論外。

幼少期に「ドラゴンが攻めてきたわ!」って言ったら妹に青い顔をして肩をガンガン揺すられた上、父は騎士団に連絡を取ろうとするわで大騒動に発展。

もちろん後からこっ酷く叱られた。

母は……やはりダメだ。

目にたくさん涙をためる姿は、とんでもなく罪悪感を掻き立てられるのだ。

一応兄もいるのだが、今日は陛下にお呼ばれだとかで……騙すなら彼が1番適任だが、いないのはどうしようもない。

どうしようかしら。

「お姉様。顔が緩んでますわ。何を考えてらっしゃるの?」

隣からジト目の妹が見てくる。

口を少し尖らせた妹の姿はとても可愛い。

幼なじみには「このシスコン!」と度々罵られるけど、こんなに可愛い妹がいてシスコンになるなと言う方が無理な話よね!

「ううん、今日もご飯が美味しいなーって!」

「それならいいですけど……」

嘘は言っていない。うちの料理人の作るご飯はとても美味しいし。


…………

……そう、いるじゃない!

私は幼なじみであり料理人の一員の彼を思い浮かべる。

同い年で昔から悪戯っ子だった彼。

最近は私も彼も昔みたいにはじゃれて遊べない歳になってしまったけど、軽口を叩き合うことはよくある。

「ダニエルにするわ!」

ガッツポーズを作って宣言する私に、母は楽しそうに微笑むのだった。



一杯になったお腹を撫でながら廊下を歩く。

相手が決まったら嘘の内容を考えなければいけない。

前みたいに事件系はだめね。たくさんの人に迷惑をかけてしまうわ。

迷惑をかけずにあっと驚くような……

ギャンブルで儲けた…とか……

ーお嬢様がギャンブルなんて出来る訳ないもの。却下ね。

ビッグニュースといえば、結婚の話とか……

「けっこんねぇ……」

「どうしたんだ?」

!?

後ろを振り向くと騙そうとしている張本人、ダニエルがいる。

どくどくと鼓動が早まるのがわかる。

「えっと、えーっと……その、」

訝しげな瞳がこちらを射抜く。

私は焦りに焦って、そして、

「あ、あなたのことが好きよ!結婚して!」

なんて、口早に言った。


空気が凍るとは、このことを言うのだろうか。

「えっと、ああ…えっと……」

何か言おうとしても、何も出て来ずに意味を成さない単語として消えるだけだ。

好きというのは間違いではない。

間違いでは無いが、伝えるつもりは無かった想いだし、ましてやこんな所でネタとして言うつもりは全く無かった。

それに彼は私に好意は抱いていても、私のものとは異なる好意だろう。

混乱と後悔が頭の中で渦巻く。

視界が滲んで来た、その時


「……いいんだな?」

視界が彼によって遮られる。

いいんだな、ってどういう事?

まさかダニエルも私のことを……?

そんなはずは……

相変わらず心臓がうるさい。

熱を持った顔を見られるのが恥ずかしくて彼の胸に顔を埋める。

聞こえるのは早い鼓動の音。

……ドキドキしているのは私だけじゃないみたいだ。

それと同時に、私の頭の位置に彼の胸があることに驚いた。

昔慰めてくれた時は、身長もあんまり変わらなかったのに、いつの間にこんな差が生まれていたのだろう。

「あのね、今日はエイプリルフールでしょう?だから嘘を吐こうとして……」

「……え?」

「だから咄嗟に出た言葉だったんだけど…」

「じゃあさっきのは嘘なの?」

私を抱きしめる腕に力がこもる。

ちょっと痛い。

静かに見上げると傷ついた顔の彼がある。

ズキリ。心が痛くなる。

どうしてそんな顔するの……!?

ちがうの、傷つけたかったわけじゃないの……

「……うそじゃない…すき……」

そんな言葉を捻り出して俯く。

1秒がとても長い時間に感じられる。

とてもじゃないけどそわそわしてじっとしていられない。

何故か弁解したいような気持ちになるけど、そこに嘘は無く、弁解する事は何も無いのだ。

「俺も……ずっと好きだったんだ」

上から言葉が降ってくる。

好き?

彼が、私を……??

「最初に君に会った時。

6歳の時、甘い物が食べたいとごねる君にクッキーを渡したよね。

目を輝かせて美味しいと連呼しながら幸せそうに食べる君を見て胸が高鳴った。」

……そう。お転婆娘の私は、勝手に街を出歩く事が多々あり、そこで料理人の息子で料理人の卵である彼と知り合ったのだ。

母にクッキーの話をしたら、是非うちで働いて欲しいということで、彼の家族共々うちの料理人として雇った。

母曰く、熱弁する私を見てて楽しかったとこなんとか。

「君はお嬢様という身分に似合わない人だった。

見た目こそお嬢様だけど手のつけようもないお転婆で、料理室に乗り込むわ木に登るわ家から脱走するわ……

だけど、からかったときのぷくっとした顔とか、好物を見て頬を緩めている顔とか、連れ戻されて不機嫌そうな顔とか

そういうのまるごと含めて好きになっちゃったんだよね。」

まさか。

「あなたから好かれてるなんて、今まで微塵も感じられ無かったのだけど……」

もしかするとこれは、彼のエイプリルフールの嘘なのかもしれない。

悪事は自分に帰ってくるということだろうか。

「当たり前だろ?」

ダニエルが私の肩を少し引き離す。

「ダニエル……?」

「雇い人がお嬢様に恋をするだなんて。

バレたら解雇されかねない。

それに君は立場ある人だ。この国は恋愛結婚が主流だけど、お嬢様は夜会でたくさんの貴族と顔を合わせるだろう。

お嬢様が誰かに恋をした時、俺の想いは邪魔になるだけだ。

貴方は優しいから、俺の想いに答えられないとなると心を痛めるだろうし……」

「あの……確認させてね。仕返しで嘘をついてるとか無いわよね……?」

縋るように彼を見つめる。

再び抱きしめられる。

唇に温かい感触ーーー

「お嬢様。絶対に幸せにするから、俺と結婚して下さい」

赤茶色の瞳に吸い込まれそうになる。

彼が嘘を吐いてないことは明白だ。


「ーはい!」

私は満面の笑みで答えた。


こうして、とある令嬢と使用人の男は、結ばれることになったのだ。

使用人ということで父母から反対がくるかと思いきや、父母も恋愛結婚で結ばれた身だし、家の跡取りは兄なのですんなりと受け入れられた。

ひとつ、想定外のことに「お姉様は渡しませんわ!」と隠れシスコンの妹が彼と張り合うよりになるのだが、それはまた別のお話。

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