1-4
「こちらがグレイゴス通りになります。歴史書の通りなら、アルバトロス卿の時代にも同じ名で呼ばれていたはずです」
「街並みとしては、やはり跡形もないがな」
病室、そしてそれを内包していた城を後にしてからここまで、幾度目かになるガイドのようなアンナの説明の言葉に、アルバトロスは視線を動かす事もなく応対する。
「ここからは、通りに沿っていくだけで目的の塔までは辿り着きます」
歩きながらアンナが視線を向けた先、天を衝くかのように聳え立ついくつかの銀色の塔の中、一際高く陽の光を弾いている塔が、アルバトロスの住居として用意された物だった。
「先程は口にしなかったが、わざわざ塔などと言わずとも良い。あれがこの時代におけるビルと呼ばれるものだという事くらいは知識にある」
「はい、御意に」
足を止め、アルバトロスへ体を向けて一礼。そして、再び体の向きを変え歩き出す。
「しかし、当然ながら民の装いも随分と変わっている。身を案ずるのであれば、今後外を出歩く際にはこの時代に相応な装束を身に纏うべきだろうな」
魔術に携わるものであろうか、街中にはローブを身に着けた者もちらほらと見て取れたが、それでもアルバトロスの純白に金刺繍の豪奢なローブは否が応にも注目を集めていた。隣を歩くアンナが大人しい黒の背広を身に着けている事も、尚更に白を引き立てる。
アルバトロス自身はそれに不快を示してはいなかったが、すでに周囲でちらほらと彼の名が囁かれている事から考えても、隠匿の観点からすれば不十分という言葉ですら全く生ぬるいと言わざるを得ない。
「――言った傍から、まるで計ったかのようだ」
そして、アンナが返答のために開いた口から漏れた音は、アルバトロスの掲げた杖の前、流線形の鉛玉が氷の壁に衝突する音に掻き消されていた。
「銃弾というものか。なかなか興味深い」
悲鳴を上げる人々の中、続けて到来した二発の弾丸を氷の壁で受け止めて呟く。
「アルバトロス卿! 後ろへ!」
遅れたアンナの叫びを無視し、アルバトロスは左手の杖を地面に打ち付ける。
レンガと樫の木が衝突する低い音と同時、杖の先端、膨れ上がった瘤の中心に固定された宝玉から一筋の光が迸り、路地裏の一角へと殺到。
「いや、よい。もう終わった」
細い光の線が弾けるように光量を増すのと同時、響いた短い悲鳴に目もくれず、アルバトロスは何事もなかったかのように歩みを再開する。
「は……はい。申し訳ございません」
急いでその隣に並んだアンナの背後、悲鳴が消え沈黙に包まれていた人々の中、一人が賞賛の声を上げたのをきっかけにして広まった歓喜と賛美の渦を背に、二人は振り返る事もなくそのまま歩き続けていった。




