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死者に別れを、あるいは生を  作者: 杉下 徹
Act.1  Antique
2/42

1-1

アルバトロスは現状をある程度把握していた。少なくとも、自分ではそう認識していた。

「……なるほど、まぁ、こんなものだろう」

 ゆえに、その第一声の半分はただの本音であり、もう半分はこの状況において最も効果的に作用するであろう言葉を選択した結果。

 転生術の成功とそれによって顕現した自身に気圧される魔術師達を尻目に、自らのすぐ隣、魔法陣の中央に横たえられていた杖を拾い、この場にいる中で最も豪奢な衣装を纏う人物の元へと一歩を踏み出す。

「止まれ。それ以上王の傍へ寄る事は許さない」

 だが、数歩足を進めたところで、制止の言葉と共に首元に刃が添えられた。

「わざわざ我の眠りを妨げておいて、随分な扱いではないか」

 刃、柄、そしてそれを握る長く美しい金髪を携えた女騎士へと順に視線を移し、しかしアルバトロスの目は退屈そうにそれらを素通りしていく。

「刃を引け、我はそれほど寛大ではない」

 穏やかにすら聞こえる声色、しかし確固たる威圧の意が込められた言葉を耳にして、周囲の魔術師達の間にざわめきが広がっていく。同時に、護衛軍や、彼らの内の一部の操る土人形が王を守るように陣形を整え始めていた。

「そちらの身元に確証が取れるまで、王に近づく事を許すわけにはいかない」

 剣を首元から退けはしたものの、女騎士はいまだ剣を構えたままアルバの目の前に立ち塞がる。

「転生術の結果として我がここにいる、それ以上の保証など無いと思うが」

 自身の足元に広がる巨大な魔法陣を一瞥し、ただ淡々と告げる。

「それとも自らの名でも諳んじてみせろと? それに意味など無い事くらいわかっているだろう」

 転生されて間も無い今この時点で、すでに状況を全て理解しているかのようなアルバの言葉は、まさしく彼が古の大魔術師である事の証明にすら聞こえる。

「あなたがアルバトロス卿である事を疑うつもりは無い。私が欲しいのは、貴方が我々にとっての災厄でないという確証、そして――」

 構えはそのままに、女騎士の纏う雰囲気だけが僅かに変わる。

「貴方が私達にとって益足り得るのかどうか、だ」

「……ほう、そういう事か」

 今にも斬り掛からんという殺気の籠った視線、そして自らへと向けられた剣先に答えるように、アルバトロスもほんの少しだけ杖を前に構える。

「後悔するなよ、小娘。我から言えるのはそれだけだ」

「――参る」

 お互いの言葉を合図に、両者が同時に動く。

「「えっ?」」

 決着は、一瞬で着いた。

 ただ、それがあまりに呆気無く、そして意外な結果に終わったから。気の抜けたような音が両者のどちらか、あるいはその場にいた全員の口から漏れていた。

「……だから、言ったんだ」

 立ち合いの位置、そこから一歩も動く事なく女騎士の剣に胸元を貫かれたアルバトロスは、誰にも届かない声でそう呟くと、緩やかに意識を失っていった。


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