35.木島 栞
私の話をしたいと思う。
木島 栞と言う人間、いや、竜人の話を。
私は無口な子だった。
父さんと母さんに甘やかされて育った方だと思う。
そして私には兄がいる、と言っても私と兄は同い年だ。
兄は何故か父さんに嫌われている。
理由はわからない。
けど嫌われていた。
そんな兄を見て私は何を思ったかと言うと、何も思わなかった。
そして私は気づいた事がある。
「…」
父さんと兄の稽古を見ていた時のこと、私には何もないのだと、そう思った。
理由は簡単だ、私は何もしてなかった。
してたことと言えば勉強くらい。
けど勉強の方だってそんな真面目にやってこなかった。
その結果がこれだ。
「ねぇ!栞!明日どっか行かない?」
「いいよぉ~何処行く?」
普通の友達が出来た。
普通の中学校生活を送れた。
波乱万丈などはなく、ただ普通の学校生活だった。
何の面白味もない…つまんない…私になった。
対して兄は、変わった。
十歳の頃からだ。
兄は偽善者になっていた。
その嘘を理解できるのは私だけだった。
父さんも母さんも、兄の気持ちなんてわかるはずもなかった。
けどそんな兄を見ていて思った…兄は別に、悲しそうでも、楽しそうでもなかった。
ただ演じている、私にはそうにしか見えなかった。
台本通りの台詞を言うように口を動かす。
そして、私と兄は、つまらない竜人と、偽善者になっていた。
無事、私と兄は高校生になれた。
私は好きな人は愚か仲のいい男の子なんていなかったから仕方なく兄と契約した。
勿論、キスはラップ越しで済ませたけど…そしてそこで私は出会ったんだ。
あの人と!朝倉蒼君と。
彼は不思議な人だった。
何か人を引き寄せる力があって…それで優しくて…次第に私は彼にとある感情が沸き始めた。
それは、この人も演じているのではないか?、と言うことだ。
彼は兄と近い所にいた。
その笑顔、その言葉、その行動、私には全てが演技に見えた。
兄と一緒で、偽善と言う仮面を被っているように見えた。
彼の行動はどれをとっても兄とそっくりだった。
疑問は次第に確信へと変わった。
彼はやはり…偽善者だ。
けどこの疑問はまだ確信へとは変わらなかった…そう、テロ事件の時だ。
そこには勇敢に皆を救い、笑っている彼の姿があった。
偽善者ならばここで逃げるはずだ、自分のために、最善を尽くして、兄がそうしたように、なのに何故…何で…貴方はそこにいるの…?
この時私はわかってしまったんだ。
彼は遠い…遠すぎる…私見たいな奴が隣にいてはいけないのだと。
「そうか…本当の偽善者…それは…」
自分を犠牲にしてまで装う偽善、それが本当の偽善者なんだ。
この時から私は、彼への接し方がわからなくなってしまった。
勇敢で、遠くて、本当の偽善者の、彼に。




