33.強くて遠い存在
俺は洗面所へと向かい顔を洗う。
「はぁ…」
そして溜め息を一つ。
この溜め息の理由は二つある。
まず一つ目、あのクソ見たいな神のせいで目覚めが最悪だ。
そしてもう一つは…茜がヒキコモっているこの状況だ。
「はぁ…」
溜め息しか出ないな。
どうせ茜の機嫌は直ってないことは目に見えてる。
ならば、この喧嘩、一週間待って自然消滅するのを待とうではないか。
そしてもしこの一週間で自然消滅しなければ最終手段に出るしかない。
俺はどうせ部屋から出てこない茜を置いて一週間ぶりの学校へと向かうのだった。
「はよ~」俺は教室の扉を開け、皆に挨拶をする。
そこで俺に最初に挨拶を返してきたのは以外な人物だった。
「おはよう、蒼」
「おはようございます、蒼さん」
シルとフルエルだった。
シルは相も変わらず腕を組ながら挨拶をする、ただ違ったのは前までの声のトーンが違ったとこだ。
前までのゴミに話し掛けるかのような見下ろした声とは違い、とても愛想のよい挨拶をしてくれた。
一方、フルエルは変わらず無表情、だがこいつのキャラはどうも俺にはクールなキャラには見えないのだ、何故だろう、まぁそれはもう少し仲良くすればわかる事だろう。
「二人とも何か久し振りだな」
「そうだな、あの時の事件以来だからな、ん…?」
シルは何かに気づいたかのように蒼に問い掛ける。
「蒼、お前の契約竜はどうしたんだ?」
「うっ…」何だろこのデジャブ…
「その…体調を崩してな…」
と、お約束の言い訳をする。
「そうなのか…まぁあんな事があったからな、大事にな…」
あ、やばい…いつもの罪悪感。
てか何で俺が罪悪感を感じなければならないんだ!!
そして、シルは再び何か思い出したかのように話を続ける。
だが今度は、むっとした表情をした。
「それはそうと蒼…」
「…?」
「貴様、あの時の決闘の時、手を抜いていたのだな…?」
「あ…」そう言えば茜の正体シルとフルエルにはバレてるんだった…
「いや…それはその!て、手加減なんてしてねぇよ!?めちゃくちゃ本気だったぜ!!」
と、蒼が下手な言い訳をするとシルは更にむっとした表情と頬を両方ぷくりと膨らます。
「まったく…実力の差がよくわかってしまった…」
シルはぷいっと横を向く。
だが、シルも本気を出していたと言えば嘘になるのだ。
だがそれはまだ蒼にはわからない。
「いや…例え俺と茜が本気でやっても勝てたとは限らない、だってシルは頭がよく回るし戦略もなかなかだしな」
と、俺はニコッと笑う。
「はぁ…蒼に言われると皮肉にしか聞こえないな」
シルは少し微笑みながら言う。
「シル、そろそろ予鈴が鳴ります」
フルエルがそう言うと、シルは俺に一言「それじゃまたな蒼」と、言って席へ戻っていた。
そしてその姿を見ていたクラスの奴等はと言うと勿論驚きの視線をこちらに向けている。
「はは…」まぁわかってはいたが…
そして俺も席へ座る。
その後、積木達にもシルの事を聞かれた。
決闘の事やテロの時にあったこととか。
けど何故か楽と栞は会話に入ってこなかった。
「…?」
その態度に不思議に思った蒼は帰りに聞いてみることにした。
だが何故か不思議と…気まずい。
「んん…」何か声掛けづらいな…
既に放課後、楽と栞は帰りの準備をしていた。
「ッ!!」えぇい行け!!行動せずには何も始まらない!!
心の準備を整えた蒼は二人に話し掛ける。
「楽~栞~もう帰るのか?」
と俺はニッコリと笑い聞く。
「……」
二人は何故か蒼から視線をそらす。
「え…?」
蒼はその態度に動揺を隠せない。
「えっと…はい…僕はそろそろ帰ります…栞は?」
「私も、もう帰ります、それじゃ」
二人はまるで蒼を避けるように帰っていった。
「どうしたんってんだよ…?」
二人のあんな態度を俺は知らない。
いや、出会ってまだ二ヶ月の仲だからそりゃわからないこともあると思うが、けど大体はわかってるつもりでいた。
やっぱまだわかんない事が多いな…
蒼は二人の態度に少しばかり表情に元気をなくした。
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「ただいま」
「ただいま」
と、二人の兄妹が家の扉を開け言う。
「おかえり~」と言う声が帰ってきた。
楽と栞のお母さんだ。
そして二人は無言で自分の部屋へと戻った。
あの出来事から一週間が経った。
「……」楽は一人、部屋でポツンとしながら一週間前の出来事を思い出す。
あの学校でのテロ事件を。
あの時、体育館から僕は逃げ出した。
「うぁぁぁぁぁあ!!!!」
情けない声をあげた。
皆は戦っていたのに。
僕は何も出来ずに、その場から、逃げ出した。
走ってる時にすれ違ったのは、一人、堂々とその場に立ち、笑っていたのは、朝倉 蒼、僕の仲間だった。
何で…?
どうして笑っていられるの…?
こんな状況でどうして…?
「ッ!!!!」僕は悔しさでか自分の無能さでか、歯を強く食い縛っていた。
この時僕はわかった。
彼と僕は違うんだって。
そして僕は知った。
僕は絶対に、朝倉蒼のような強い人間にはなれない事を。
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「……」一人部屋で熊のぬいぐるみを抱えて顔を埋める木島 栞と言う竜人の姿があった。
「皆…すごかったな…」
栞は一週間前のテロ事件を思い出していた。
その時の皆の姿。
到底及ばないほどの、たどり着けないほどの、勇気。
それに比べて私は怖くて逃げ出した。
泣きながら叫んで、その時、私が目にしたのは、朝倉蒼君、蒼君の背中は誰よりも勇気に満ちていた。
私にはその背中が遠く感じた。
いつも近くにある、数センチもないその距離を、その時は何百、何千、何万と遠く感じたんだ。
この時私はわかった。
私は蒼君のようにはなれない。
どうしたって、蒼君のその勇気は、私には一生かかっても無理だと、そう思うんだ。
兄と妹の考えることは一緒だった。
朝倉蒼と言う人間を、強い人間だと、遠い存在だと、そう確信していた。
読んでくださりありがとうございます!!
書いてて思うことがあります!この兄妹書くの難しい!w←自分が考えた癖にwと言うツッコミは置いといてとwたぶん二三話まではこの兄妹をメインで物語が進められて行きます!勿論その中心にいるのは蒼ですがw頑張って書いて行きたいと思います!これからもヒキ炎をよろしくお願いします!