28.火爪 茜
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「やれぇぇぇえ!!」
ナルミの声が響く。
そして、雷を纏った雷獣は人形を噛みちぎる。
「セルス!!!!道が空いた!!後は任せたぞ!!」
そう言ったナルミの台詞を待っていたと言わんばかりにセルスは雷を纏った鳥に乗りながら壁へと突っ込んでいた。
そしてセルスは壁に強烈な一撃を右腕の拳にこめた。
「うおぉぉぉぉお!!!!壊れろおぉお!!」
壁にとてつもない衝撃が雷と共に渡る。
だが、跳ね返させるようにセルスの放った魔力の衝撃、壁は無傷だ。
「何なんだ…この術…」
セルスは動揺を隠しきれないでいた。
「どうすればいいってんだよおい…」
ナルミは苦笑いしか出なかった。
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「マスター…」
私は…何してたんだろ…
何で私はマスターの顔をただ眺めてるんだろう…どうしてあの後ろ姿を引き止めなかったんだろ…私は馬鹿だな…
でも、マスターと一所に死ねるなら…
「って…なる訳ないでしょ…」
私はまだ生きてるって事はマスターもまだ生きてる…けど、今のマスターの状態は相当不味い、どうやったって死に近づくばかり…なら、マスターがまだ生きてる間に…私がまだ生きてる間に…マスターの変わりにあの化け物を…勝てるの…?私が?マスターなしで?
「クッ!!」茜は強く歯を食い縛る。
やるんだ…私が…!!
ごめんマスター…私、約束破るよ。
「竜式解放」
茜がそう呟く。
だが「え?」何故か竜式は解放されなかった。
「え?何で?」
茜の頭は疑問で埋まる。
そして、茜は本当に自分には何も出来ないと、わかった。
「……ッ!!うぁぁぁぁぁあ!!!!」
私には何も出来ないのかも知れない!!
でも!!諦めたらもっと私は何も出来ない役立たずになる!!そんなの嫌だよ!!
私は、マスターの契約竜何だから!!
茜は化け物の方へと全力で走る。
「《我、竜の名は、牙をも砕く、斬撃となれ》行けぇぇぇえ!!!!」
空間をも切り裂く勢いで一つの真空が化け物へと放たれる。
だが、化け物は無傷だ。
「まだ…まだだぁ!!!!」
そして茜は何度も、何度も竜式術を化け物に放つ。
その姿を見ていたシルとフルエルは思った。
何故この状況でそんな事出来る、と。
「なぁ…フルエル…」
シルは顔を下に向けながらフルエルに話し掛ける。
「何ですか…?」
「もし私が死にそうな時…おまえはあんな事出来るか…?」
そのシルの質問、今の茜を見ていれば、誰もがこの質問を投げ掛けるだろう。
「そんな事はあり得ません、私はシルを守り続けます」
フルエルは迷いなど微塵もない顔で言った。
「そうか…それは心強いな…」
シルは少しだけ笑った。
そして、シルは立ち上がり言う。
「なら今は、私に力を貸してほしい、奴の契約者に出来る限りの回復術を行う、いいか?」
そして、フルエルは少しだけ笑い言う。
「この私、フルエル=スノエッダは、我が契約者、シル=バレットに忠誠を誓った身、なら、この身は貴方の物だ」
「…そうか…ありがとう…」
シルはフルエルに視線を向け言う。
「行くぞ、フルエル」
「はい」
シルとフルエルは更に絆を深め、そして蒼の元に駆け寄る。
「私は蒼の応急処置を行う!!フルエルは回復術を魔力が尽きるまで唱えてて欲しい!!」
「了解です」
そしてシルとフルエルは蒼の体の回復に取り掛かった。
一方茜は化け物に対し魔力が尽きるまで術を打ち続ける。
だが、化け物が攻撃を緩めるはずはなかった。
化け物も茜に対し何度も何度も、訳のわからない永唱を唱え打ち続けた。
茜の体力は段々と尽きて行く。
「はぁ…はぁ…つっ!!」
息が荒くなり、体中についた切り傷が更に体力を消耗させた。
茜は右手を左手で抑えながら右の手の平を広げ、唱える。
「《我、竜の名は、全てを切り刻む、的となれ》行け…」
茜が放った真空の斬撃は化け物の赤い光が下記消す。
「クッ!!」茜は強く歯を食い縛る。
何で…何で…やっぱり私は一人じゃ何も出来ないの…?マスター…私は…やっぱりマスターがいなきゃ…
そして、茜が化け物から視線をそらし、蒼の方へと視線を向けた。
「え…?」
茜の視線の先にいたのはシルとフルエルだった。
シルは自分の服の袖をビリッと破き、蒼の右足についた深い傷を巻く。
「フルエル!!魔力は後どれ程だ!?」
「恐らく…後3分が限界です…クッ!!」
フルエルの魔力もう限界が近かった。
「クッ!!頼む!!目を覚ましてくれ!!」
シルは強く歯を食い縛り願う。
「シルが認めた貴方様はこんな所で死んではなりません…だから…生きて…」
フルエルは魔力が尽きる寸前まで回復を行う。
「あの二人…どうして…」
茜は驚きを隠せない。
「ありがとう…マスターの為に…」
茜は喜びで笑いが出る。
「二人が頑張ってるのにマスターの契約竜の私が頑張らないでどうするのさ!!」
そして茜は不思議と体から力が溢れた。
その理由はすぐにわかった。
茜は蒼に視線を向けた。
「ます…たー…?」
そこには立ち上がり、謎の光に包まれている蒼がいた。
「マスター!!」茜は涙目になりながら笑みを浮かべた。
そして、蒼はゆっくりと顔を上げた。
「茜、心配かけたな」と、蒼は笑いながら言う。
「蒼…」シルは蒼を見て視線をそらしながら「心配をかけるな…馬鹿者」という。
蒼は微笑みながら言う。
「すまん…シル…お前もありがとうな、シルの契約竜」
「お前じゃありません、私の名は、フルエル=スノエッダ、です」
フルエルは少し笑い言う。
「すまん、フルエル」
そして、蒼は化け物へと視線を向けた。
蒼は眉にしわを寄せ言う。
「力を貸せよ、ロキ」
『勿論…私は、蒼の為に力を貸すよ!』
蒼がそう言った瞬間蒼の傷は完全に回復した。
それを見ていたフルエルが不思議に思う。
「何で?傷が消えて?」
「そんな事よりあの化け物が先だ、シルとフルエルは下がってろ」
その蒼の言葉を聞いたシルは反論する。
「そんなのはお断りだ、私もお前の力になる」
「いいんだ!ここは俺と茜に任せてくれ、後、これから見るものは、秘密な!」
蒼は人差し指を口にあて、ニッコリと笑いながら言う。
「どういう…事だ…?」
シルは疑問に思う。
「それは…見てればわかるさ…」
蒼はニヤリと笑う。
そして蒼は茜の横に立つ。
「茜、本気で行くぞ!!」
「了解!!」
蒼と茜はニヤリと笑った。
「さぁ、やっちまおうぜ…茜!」
「そんじゃ行きますよ~!!」
そして茜は言う。
「竜式解放!!!!」
茜は赤き炎に包まれる。
その姿を見ていたシルは驚きを隠せなかった。
「どういう事だ…?奴は無属の竜人のはず…なのに何故竜式が解放出来る…?」
その質問にフルエルは答える。
「私も驚きを隠せないですが…あれは…あの姿は…正しく…」
そして、炎から姿を表したのは「ヒヒ♪」茜だった。
大きい翼に角、そして全身に纏っている炎は正しく…
「炎竜です…」
その姿を見ていたシルとフルエルは見とれてしまった。
「あれが…炎竜…」
シルはそう呟く。
シルとフルエルはその姿を目に焼き付けた。
その美しき豪炎は茜のその身を守るように纏っていた。
「そんじゃ一丁やりますか!!マスター!!」
ニッコリと笑いそう言う茜。
「あぁ!!」
ロキ…力を貸せ…
『はいはい、まったく、蒼は我が儘なんだから、さすが偽善者』
ご託はいい、早くしろ
『わかったよ《我、ロキの名は、我が半身に神の御加護を》さぁ、これで君の体はよっぽどの事がない限り傷付かない、思っきりやれるだろうさ、更に言えば君の身体能力も強化されてる』
「それは有り難い限りだ…」
後、俺はもう偽善者じゃない。
俺は、朝倉 蒼だ。