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桃色恋愛。

「それ、何回目?」

作者: 桃色 ぴんく。

 ・・・来ると思った。


 申し訳なさそうな顔をして、おずおずと店内に入ってくる男性客。私が今、無視をしている相手だ。


「ご注文は何になさいますか?」

会話をしたくないが、客として来ている以上は仕方がない。


「アイスカフェオレ・・・」

彼は、語尾が消え入りそうな弱々しい声で注文してくる。



    なによ、そんなんで許してもらえるとでも思ってるの。



 私はアイスカフェオレをカップに入れ、手渡す。

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

カフェオレを渡す時、私の手を触るように彼が受け取った。彼が少し嬉しそうに微笑む。



    なによ、ちょっと手が触れたぐらいでなんて顔してるのよ。


 

 彼は、私の姿が見える位置に座り、こちらを向いてカフェオレを飲んでいる。私が他のお客様と接している姿をカフェオレを飲みながら、じーーーーーーーーっと見ている。私と注文時に会話を交わしたことで、彼の表情が店に入ってきた時よりも、穏やかになっているのがわかる。



  

    なによ、そんな顔で私を見ても、ダメなんだからね。



    

 私が、彼を無視しているのには理由がある。

彼は、私のことをものすごく大好きなのだが、ものすごく嫉妬深いのだ。

 今回の事の発端は、メールでやりとりをしている最中に起こった。


彼「今度の休み、どっか行かない?」

私「まぁ・・・特に予定ないからいいけど?」

彼「待ち合わせは何時にする?」


 その時、私はトイレに行きたくなったから、メールの返事をトイレの後回しにした。


彼「あれ?」

彼「どうしたの?」


 いちいち、トイレとか言わなくてもいいか、と思った私は


私「じゃあ11時に。お昼ご飯でも食べよう」

彼「なんですぐに返事くれないの?」

彼「誰かに相談してたんだね。もっと早い時間は都合悪いんだ?」


 またか、と私は思った。


 彼はいつも、メールのやりとり中にちょっとでも返事が遅れたりすると、他の男の人からもメールがきていて返事に追われている私を想像しているのだ。

 いくら、そんな相手はいないと言っても、全く信じず、心の中でそういうふうに思っているのだ。



私「お昼ご飯食べるのに朝から待ち合わせる必要ないし」

彼「朝から会いたい。なにか都合悪いんだね。誰かと約束?」


 はいはい、もういいって。


私「いい加減、そういうしょうもないこと言うのやめてね。会う気なくなるから」

彼「朝から会えるなら会ってよ。誰とも約束ないなら会えるでしょ」

私「ちゃんと読んでる?お昼ご飯だけでお願いします。だから11時!」

彼「誰とも会わないなら朝から会って。会いたい」


 人の話を聞かずに、自分の意見だけ続けて言ってくる彼に、いつもウンザリする。しつこく同じ内容でメールを送ってきて、こちらが観念するのを待っているようだ。


 こうなると、私の方にも、もう会いたいという気持ちはなくなってしまって、これ以上、彼とメールを続ける意味もなくなるので、無視するのだ。ただ、いきなり無視しても相手に伝わらなかったらしつこく誘われるだけなので、無視をする前に一応、予告する。


私「もう会う気なくなったし、会うのやめましょ。しばらく返事しません」


 私が何故会う気がなくなったか。それは、ありもしない彼の思い込みのせいなのに、彼はそれをわかっていないので、今までにも何度も似たようなことを繰り返してきた。いい加減、学習してほしい・・・。

 私が無視を始めて、しばらくすると、彼が絶対店に来て、「ごめん。悪かった」と言ってくるから、その度に一応は仲直りして・・・また嫉妬で何か言われ・・・また無視して・・・また彼が店に来て謝って・・・という悪循環。



 カフェオレ一杯で、彼は粘って店に居続けている。きっと、もうすぐ仕事が終わる私のことを待っているのだ。いつものように謝るために。事情を知っている仲良しの仕事仲間が私に言う。


「あの人、本当に桃さんのことが好きなんですね。見つめてる顔が『好き好き~~』て顔になってるのがよくわかります」

「それ、どんな顔よ~」


 確かに。彼が私を見つめる時には、すごく優しい表情で大好きオーラを前面に出してくる。わかっているんだけど、メールのやりとりでムカついている気持ちには変わりがないから。




「桃!」

 仕事を終え、自転車で帰ろうとする私の背後に彼が現れた。帰る時、店内にいなかったから、たぶんここで待っていると私はわかっていた。彼の顔をチラ見して、背中を向けながら自転車のカゴにカバンを入れる。



「桃、ごめん。俺、また嫉妬して。ちゃんと送るからまたメールしよ」

「・・・無理。それ何回目よ」

「ほんとにごめんっ!変なこと言わないように気をつけるから」




「来週、会ってな」

「・・・」

 私は、自転車にまたがって、その場を走り去った。


 

 自転車をこぎながら、私は考えていた。仕方がないから、来週、会ってやるかな。彼に、「それ、何回目?」と言いながら、私も何回許してきたんだろ。全くもって悪循環ってわかってるんだけど、ね。


 

                ~「それ、何回目?」(完)~ 



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― 新着の感想 ―
[一言] 追記 そういえば、古いですが「東京ラブストーリー」 ありましたね^^
[一言] どうなるのかな?っていう感じで読み進めてました。 自分の本当の気持ちは誰にもわかりませんよね。 だって、自分で自分の気持ちっていうのはわかる人なんていませんし。でもこの彼のもどかしいところや…
[良い点] こういう男は、張り倒すに限ります。 こんな卑屈なことをしてまで素敵な女性なのか? おっと、失礼。 「星の数ほど女はいらぁ」 そう嘯く度胸がないのでしょうかね。 もっとも、星だから手に入れる…
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