短歌
国語の授業で俳句と短歌を習った時、俳句と短歌を作ってこいという宿題が出た。
俳句は季語が入ってなければならないと言われたので、ふんだんに季語を入れ込んだ豪華な仕上がりとなった。
夏が来て、秋が来たなら、冬が来る。
小学生ならば誰もが考え付くようなものだ。その証拠に隣の席の女児は、
歩く人、立ち止まる人、走る人。
と、季語を完全に無視した衝撃的な俳句を披露していた。
そして問題となったのは短歌である。
俺はその時に姉が読んでいた漫画かなにかの表紙を見て、そこに描かれている登場人物の顔をイメージした歌を詠んだ。
太い眉、釣り上がった目、ブスな顔、怪物みたい、すんごいお口。
本当に表紙からのイメージしかなく、そこになんの意図も存在していなかった。なのにだ、それを発表した日の終わりの会で1人の女児が名指しでこう言った。
「木場君が吉村さん(仮名)の悪口を短歌にしてました」
と。
始めは何の事を言われているのか分からなかったが、自分の詠んだ短歌を思い返して納得した。
吉村さんは女児にしては少し眉毛がフサフサしており、細くて少し釣り目の、子供にしては凛々しい目元をしていた。口はそんな怪物みたいではないが、前歯が少しすきっぱになっていた。
とんでもない言いがかりを吉村さん本人からではなく、全く関係ない女児からつけられてしまったのだが、その時に頭に浮かんだ疑問を口にした。
「吉村さんの事って思ったん?」
こうして俺は、誰からも怒られる事なく終わりの会を乗り越えた。




