祖母の実家
1度だけ祖母の実家に行った事がある。
俺達家族は1泊するつもりだったのだが、祖母の兄弟家族がもう1組来ていた事で日帰りとなった。
お邪魔します。と家に入ると、玄関に溢れんばかりの靴。リビング内は大人が陣取って座っているので、子供は廊下に追いやられてしまっていた。
「こんにちはー」
何人かいる子供の中、スッと立ち上がって挨拶をしてくれたのは姉よりも1つか2つ下だろうと思われる女の子。
「こんにちはー」
返事をしたのは姉で、2人はキャッキャと世間話を始めた。
弟は狭いリビングの中を無理矢理に進んで親父の所に行ったので、俺は家の外に出て探検を始め……ようとして母に怒られた。
靴を取り上げられ、廊下に連れ戻されて感じる複数の目!
始めましての人しかいないこんな狭い空間で、俺に出来る事は俯く事か、寝たふりしかない。
廊下の壁にもたれかかり、寝たふり実行。
すると、また1人の人間が家の中に入ってきた。
「おーいチビ、こんな所で寝たら風邪ひくでー」
声をかけられただけではなく、ガシッと肩を捕まれ、慌てて目を開けると、
「チビじゃなくて、SIN君やよ」
姉と喋っていた女の子が俺の名前を言い当てた。
姉との会話で俺の話題が出たのだろうか?
チラリと顔を上げると、女の子と目が合って、ニコリと笑顔を向けられたのに、どう返して良いのか分からない。
頭ではニコリと笑い返すなり、女の子の名前も聞くなりすれば良いのだと分かっているのに、それが全く実行にうつせない。
「ホンマ、無愛想やろー」
そう笑う姉はそのままトイレに立ち、俺の前には女の子。
何か喋らなければ!
そう焦れば焦るほど、頭の中は真っ白になっていき、徐々に視線は下に。それでは駄目だと顔を上げると、またニコリと笑いかけてくる女の子。
そんな事を数回繰り返していくうち、俺の緊張も徐々に解け、ニコリと笑い返せるまでになっていた。
目が合って笑い合う、たったそれだけなのに、妙に楽しかった。
しかし、俺達家族は泊まりではなく日帰り。
女の子との別れはアッと言う間に訪れてしまった。
「SIN君またね」
車に乗ると、女の子は姉のいる方ではなく俺のいる方に来て手を振ってくれたから、俺は窓を開けて、初めて声を発した。
「また!」
手を振ろうと窓から出した手を握られ、笑顔で握手しながら、もう1度「また会おう」と約束をした。




