出てしまった声
近所の商店街を抜けた先には、銭湯がある。
その銭湯の前にはベンチがあって、自動販売機があるのだが、アイスクリームの自動販売機や、お菓子の自動販売機など少し変わったものも置かれていた。
俺は物珍しさからそこで普通にジュースを買ってベンチに座り、自動販売機を眺めていた。
すると、銭湯から出てきたオッサンが自転車に跨り、走り出そうとして、ふとアイスクリームの自動販売機が目に入ったのだろう、自転車に跨ったままアイスクリームを買った。
ペリペリと外装を剥がし、袋をそのままポイッと下に。
「あっ……」
短く出てしまった声。
オッサンはそんな微かな声に反応して俺を見てくると、自転車を漕ぎ出しながら片手を俺に向かってあげた。
まるで。ゴメン。と言っているような仕草だったので、俺も軽く手を上げて答えた。その瞬間。
キキィー。
車がオッサンの横から飛び出してきてぶつかりそうになった。
オッサンは咄嗟にブレーキをかけて衝突は免れたのだが、アイスクリームは無罪にも地面に落下。
まだ2口程しか食べていなかったアイスクリームをその場に残し、オッサンは行ってしまった。
もし、あの時に俺が声を出さなければ、オッサンはアイスクリームをちゃんと食べる事が出来た筈だ。
余計な事をしてしまった俺は、その罪悪感からオッサンガポイ捨てて行ったアイスクリームの袋と、グシャリと落ちて半分溶けてしまったアイスクリームをゴミ箱の中に入れたのだった。




